level21
―どうしてこうなった―。
目の前には木剣を手にしたセシリア。
鮮やかな蒼いその瞳には、眼前の敵を打ち倒すべく凄まじい闘志が宿っている。
―どうしてこうなった―。
そして少し離れた場所で、俺が作ったスコーンと紅茶を楽しみながら、此方を見る師匠とルイス氏。
―どうしてこうなった―。
そして、二人の視線の先。
セシリアの闘志の矛先には、ご存知超絶イケメンのユーリ=ネルタナス。
つまり、この俺がいる。
俺はどうしてこうなったのか思い返していた…。
ーーーーーーーーーーーー
「タナス様!私をタナス様の弟子にして下さい!!」
そうセシリアは言った。
ルイス氏は頭を抱えてがっくりとしており、その顔には諦めに近いものも見受けられる。
恐らく、この二人の間ではそう言ったやりとりが何度か有ったのだろう。
師匠はどう答えるのだろう?
俺が気になって師匠を覗くと、
「ノポポイ。」
…!
このジジイ…出来る!
「ノポポイとは?」
普通に返したらあかんやん。
「…駄目じゃ。お前さんを弟子にはとらん。」
「何故ですか!?そちらのユーリ様は御弟子にとられたとの事!
何故私が弟子入りする事は御認め下さらないのですか!?」
セシリアは余程承服しかねるのか、声を荒げながら師匠にそう訊ねた。
その目には、鬼気迫るものを感じる。
師匠は軽く息を吐くとセシリアに向き直って続けた。
「…セシリア。この話は何度目かに成るが、お前さんにラファガ流術式戦闘術は向いておらん。
お前さんはルイスに師事するべきじゃて。
その方がより高みを目指せよう。」
そうたしなめる様に師匠は話すが、セシリアは全く納得していない様だ。
そしてセシリアは息を切らしながら続けた。
「この世界でタナス様以上の高みなんて有りはしません!
“円卓の12勇者”の中でも最強と言われるタナス様こそが、この世界の高みなのです!」
「へ!?」
すっとんきょうな声を出してしまう俺。
セシリアは此方に睨む様に一瞥すると、再度師匠に向き直って弟子入り志願を続けている。
“円卓の12勇者”
このギャミングステイトに住まう霊長達…光の民の中でも、最強の12人に送られる称号である。
知識としては教えられていたが、自分がそうだとは師匠は教えてくれなかった。
…なんて事だ。
正直“だろう”と思ってた。
パターン過ぎて逆に驚いてしまった。
そんな事を考えているとセシリアはこう切り出した。
「私はタナス様と同じく神託者です!
弟子入りに何の不足があると言うのですか!?」
「ラファガ流術式戦闘術は神託者じゃからとて身に付けられるモノでは無い。
寧ろ、適正の無いお主に中途半端に教えてしまえば、成長の邪魔にしかならんじゃろう。諦めてルイスに師事するべきじゃて。」
「父上では駄目です!私は父上よりももっと高みを目指したいのです!!
それこそ、タナス様と並ぶ程に!」
なんつー酷い…。
ルイス氏が頭を抱えて深いため息をついている…。
可哀想だから俺の特製スコーンと紅茶を出して差し上げよう。
俺がそんな事を考えていると、俺を見た師匠は閃いた様にセシリアにこう告げた。
「よし、セシリアよ。
ユーリと試合うのじゃ。」
ーーーーーーーーーーー
…そして今に至るという訳だ。
師匠の思い付きには困ったものである。
よりにもよってこんな可愛い子と剣を交えるとは…。
俺は超絶イケメンである。
女の子は剣を交えるものでは無い。
むしろ、剣を出すのは俺だけで良い。
いや、剣以外も出す。
そんな下ネタを考えていると、セシリアが話し掛けて来た。
「随分余裕ですわね?
油断なさってると大怪我しますわよ?」
どうやら俺が考え事をしてるのがお気に召さなかったらしい。
「…別に油断なんてしてませんよ。気負っても実力が出せるとは思えませんし。」
「…それが油断だと分からせて差し上げますわ…。」
そう言うとセシリアは木剣を向けた。
腰を落ち着かせ、両手で剣を構える。
この世界での言い方は分からないが、剣道で言う正眼の構えに近いものだ。
…成る程。
言うだけの事はある。隙と言えるモノは見付からない。
俺も同じく正眼の構えを取り、セシリアと向かい合った。
「準備は良いな?」
師匠がそう言って近付いて来る。
「「はい。」」
それを聞いた師匠は手を掲げ、そして―
「始めいッ!!」
開始の合図と共に振り下ろされた師匠の右手。
それに合わせてセシリアが一気に距離を埋める。
―速い!―
正に目にも止まらぬ速さだ。その早さに俺は内心舌を巻く。
流石は神託者と言った所か。
“神託者”
光の民の中で、凡そ5万人に一人のいう低確率で生まれると言う“超天才”である。
本来、その存在力を上げる為には長い習練と経験値が必要なのだが、神託者は生まれた時から既に高い存在力を持っている。
更に、経験値の獲得による存在力上昇の時の強化具合が、常人のそれの比較にならない程なのだ。
セシリアの動きは、それに加えて長い習練で培ったものだろう。
…だが、師匠よりは遥かに遅い。
迫り来るセシリアの木剣に合わせて俺も剣を突き出す。
俺は自身の木剣を、彼女の木剣の腹に沿わせる様に当て、そして―
「!?」
セシリアの顔が驚愕に染まる。
乾いた音と共に、放物線を描きながら弾かれる木剣。
この場に居た全て人の視線が、宙に舞う木剣へと注がれていた。
俺の。




