完璧な家族① (Side.ルシアン)
読んでいただきありがとうございます。
※本日2話目の投稿です。
※ルシアン視点です。
よろしくお願いいたします。
「いかがでしょうか? 父上」
我が家の執務室にて、僕はリザ・アビントン男爵令嬢とクレイグ・サーヴィス伯爵令息の婚約解消に介入するべく、父に相談を持ちかけていた。
しかし、僕の話を聞いているはずの父は、こちらに視線を向けることも相槌を打つことさえなく、僕はまるで壁に向かって語りかけているような心地になる。
「飼い主が見つかったならさっさと出ていけ」
「…………」
やっと口を開いたと思ったらコレだ。
そして、父から記入済の除籍届を押し付けられる。
どうやら執務室だけでなく、ランプリング侯爵家からも出ていけという意味らしい。
(いよいよ本気みたいだなぁ)
今さら父には何も期待はしていない。
ただ、我が家に僕は必要なかったという事実を改めて突きつけられただけ……。
「わかりました。では、失礼します」
執務室を出た僕は、この邸宅で過ごした日々を思い返しながら廊下を歩いていく。
物心がついた頃から、自分たちは『完璧な家族』なのだと父は満足げに口にしていた。
名家と名高い侯爵家の当主である父と元伯爵令嬢の母。
そして、幼い頃から賢く聡明だと評判な長男に、これまた幼い頃から剣術の才能が溢れる次男。
さらに曾祖父譲りの美貌を持つ三男の僕。
父の言葉通り、周囲からも賞賛の声と羨望の眼差しが向けられていた。
だが、僕が九歳になると『完璧な家族』は崩れさり、憐れみと嘲笑の対象へと変わっていく……。
国の施策により、九歳になった子供は『魔力量判定審査』を受けなければならない。
これは、どのくらいの魔力を保有しているのかを測るもので、魔力量が多ければ多いほど威力や効果の高い魔法を使用することができるのだ。
平民の子供ならば魔力の有無を知るきっかけとなり、魔力保有が当たり前の貴族の子供ならば将来の職業や嫁ぎ先を見極めるきっかけになりうるもの。
ちなみに、魔力の保有が認められた者は十三歳で魔力の『属性判定審査』を受けることになる。
(兄上たちの魔力量は並だったもんなぁ)
だからこそ、二人とも魔法とは別の分野の才能を磨き、将来の道を模索している。
残念ながら兄二人のように秀でた才能が今のところ見当たらない僕としては、ぜひとも魔力量で兄弟間の差を埋めたかった。
しかし……。
「ル、ルシアン・ランプリング侯爵令息様の結果は『魔力無し』です」
「え……?」
審査官の言葉に呆然とする僕。
「魔力無し……?」
何かの間違いじゃないかと再測定を試みるも結果は覆らず、あまりのショックに同行していた母は気を失って倒れてしまう。
──この瞬間、僕は『完璧な家族』の汚点となったのだ。
結果を聞いた父は激昂した。
そして、あろうことか母の不貞を疑った。
自分の子供が『魔力無し』のはずがない。
ルシアンは別の男ともうけた子供なのだろうと……。
だが、僕の容姿は父方の曾祖父にそっくりで、不貞なんてあるはずがないことは誰の目にも明らかだった。
理解はしていても実の息子が魔力無しであることを父は受け入れられず、母を攻撃するしかなかったのだろう。
愛する夫に不貞を疑われ、心無い言葉を浴びせられた母は部屋に籠もりがちになってしまう。
すると、父の怒りの矛先は僕へと向かった。
あれほど可愛がってくれていたはずの父が「視界にも入れたくない」と吐き捨てるように僕へ告げる。
結果、僕はこれまで暮らしていた本館から離れの一室へ追いやられてしまったのだ。
そして、僕の専属だった使用人や家庭教師も皆外され、たった一人きりでの生活を余儀なくされた。
これは、魔力無しの僕は「家族の一員ではない」という父の意思表示。
食事は本館の厨房から残飯を分けてもらうしかなく、掃除も洗濯も見よう見まねで自分一人で何とかするしかなかった。
あまりの惨状を見かね、時々こっそり手助けをしてくれる使用人がいたことが救いだったが……。
そんな生活に耐えきれなくなった僕は、父に許しを乞おうとするも、本館へ足を踏み入れることを禁じられてしまう。
それでも諦めきれず何度も本館を訪ね続けると、やがて兄たちが僕の前に姿を現したのだ。
どうやら父の影響を受けたらしく、長兄は父そっくりの顔で僕を睨みつけた。
そして、父を怒らせたのも、母を泣かせたのも、ランプリング侯爵家の評判を貶めたのも、全て僕の責任だと酷く詰る。
次兄には稽古という名目で訓練場へ連れて行かれ、彼の気が済むまで物理的にボコボコにされるようになった。
それでも、僕はもう一度家族の輪に戻ることを諦めきれなかった。
なぜなら、邸宅内での僕はそのような扱いなのに、家族揃っての社交の場へは当たり前のように連れ出されたからだ。
その時ばかりは僕の身なりは整えられ、ランプリング侯爵令息として表に出される。
おそらく、父の体裁を保つため、魔力無しの息子も受け入れていると周囲にアピールをするためだろう。
本音は『完璧な家族』を壊した僕の存在が許せない。
そのくせ、周囲には魔力無しだからと息子を排除する器の小さな男だと思われたくない。
そんな複雑な父の心境を当時の僕は理解することができなかった。
だから、多くの貴族が集まるパーティー会場の一角で、僕はようやく会えた父に向かって家族に戻りたいと強く訴えてしまったのだ。
そんな僕の軽率な行動が、体裁を気にする父の逆鱗に触れてしまう。
「どうしてお前のような『魔力無し』が私の息子として生まれたんだ!!」
帰宅後、僕は父に罵られながら厳しい折檻を受け、泣き叫びながら無我夢中で何度も何度も「ごめんなさい」と謝り続ける。
この時の身体の痛みより何より、僕を本気で憎んでいる父の表情と声が今でも脳裏に焼きついて離れない。
──そして、ついに僕は家族の輪に戻ることを諦めた。
希望や期待を手放してしまえば楽になれる。
それに、離れで大人しくしていれば父や兄たちから暴言や暴力を受けることはなかったし、必要最低限の衣食住は保証されていた。
ただ、時折どうしようもなく胸が苦しくなるが、それも時間とともに薄らいでいくのだった。




