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除籍届

読んでいただきありがとうございます。

※本日は2話更新。今話は1話目です。

よろしくお願いいたします。

特別教室棟を飛び出すと、そのまま裏庭へ移動した私とルシアンは並んでベンチに座る。


「ランプリング侯爵令息様! 他の人の前で私の個人的な事情を暴露しようとしないでください!」

「個人的……?」

「婚約解消とか証人とかの話は二人だけの時にしてください!」

「ああ、そっかぁ。そうだよね。アビントン嬢に会えたのが嬉しくって、つい……ごめんね?」


素直に謝るルシアンに、私の怒りはようやく落ち着いていく。


「わかってくださればいいんです」

「うん。次からは気をつけるよ。それで一つ気になったんだけど……」

「何ですか?」

「そんな他人行儀じゃなく僕のことも気軽に名前で呼んでほしいな。僕もリザちゃんって呼ばせてもらうからさ」

「いえ、他人行儀なのではなく他人ですので」

「でも、僕はもうすぐ『ランプリング侯爵令息』じゃなくなっちゃうし」

「それは学園を卒業したら……というお話じゃなかったのですか?」

「実は、今すぐにでも勘当されそうなんだよね」


そう言いながらルシアンは上着の胸ポケットから封をされた一通の手紙を取り出す。


「これって……?」

「僕の除籍届だよ。なんと、すでに父上のサイン入り」

「ひっ……!」


思わず悲鳴めいた声が口から零れる。


「なんてものを持ち歩いているんですか!?」

「だって、「好きなタイミングで提出しておけ」って父上に渡されたから」

「そうだとしても家に置いておくとか、安全な場所に隠しておかないと! 落としたらどうするんです!?」


彼の言葉通り、この手紙が当主のサイン入り除籍届だった場合、然るべき機関に提出すればルシアンはランプリング侯爵家から除籍され平民になってしまうのだ。

それはルシアンではない第三者が提出しても同じこと。


しかし、私の言葉を聞いたルシアンの表情がわずかに曇る。


「家ね……。だったら持ち歩いているほうが安全かな」

「え……?」


どういう意味だと問いかけるより先に、ルシアンが美し過ぎる顔面を私にずいっと近づけた。


「そうそう! ちゃんと父上から『婚約解消の証人』の許可をもらったよ! まあ、事情を説明したら「飼い主が見つかったならさっさと出ていけ」って言われて除籍届を叩きつけられたんだけどね」

「は……?」


ルシアンは困ったように微笑んでいるが、私にとっては笑い事ではない。

なぜなら、婚約解消の証人になってくれる条件がルシアンの扶養だったはず……。


「どうして勝手に話を進めているんですか!?」

「いや、僕としても父に相談(・・)をしただけのつもりだったんだよ?」


私がルシアンに証人を頼んだ場合、実際に動くのはランプリング侯爵家当主であるルシアンの父親だ。

そのことはルシアンからも聞いていた。


そこでルシアンは、先に事情だけでも父親に説明しておこうと思ったらしい。


「ほら、『やっぱりできませんでした』ってなったらリザちゃんに悪いと思ってね。そうしたら決定事項になっちゃって……。いやぁ、父上(あの人)ってば昔から僕の話を全く聞いてくれないんだよね」


なんで父親(そっち)は他人事みたいに……。


「でも、これでクレイグとの婚約は問題なく解消できると思う。あとはリザちゃんが僕を養ってくれれば完璧だね」


これで解決とばかりに笑顔で言葉を続けるルシアン。

その瞬間、私の中でブチッと何かがキレた。


「ほんと……あり得ない」

「え?」

「あなたも、クレイグ様も、ついでにあなたの父親も! どうして人の話を聞かないの!? 私は婚約も扶養もしたくないって言ってるでしょ!?」


見開いた薄紫(アメジスト)の瞳に声を荒げる私の姿が映る。

構わず美しい顔を睨みつけたまま私は言葉を続けた。


「あなたたちが私の言葉を無視するなら、こっちだって聞く義理はありませんよね!?」

「それって……」

「あなたを養うつもりはないってことです!」


きっぱり告げると、ルシアンは眉を下げて(すが)るように私の両肩を掴んだ。


「そんなぁ……! それじゃあ僕はどうすればいいの!?」

「知りません!」

「お願いリザちゃん! 本当に困ってるんだ!」

「私もあなたに困っています!」

「このまま市井に放り出されたら生きていける気がしないんだって!」


諦めの悪いルシアンは私に縋りつく。


「ね? お願いだから……」


薄紫(アメジスト)の瞳をうるうるさせながら至近距離で迫ってくる顔面。

それを私は右手で押しのけた。


「顔の良さで訴えるのは卑怯ですよ!」

「僕には顔しか武器がないんだから仕方ないんだよ!!」


自己肯定感が高いのか低いのかわからない主張を繰り返しながらルシアンは頑として引き下がらない。

しばしの攻防のあと、私は大きな溜息を吐く。


(はぁ……。なんだか馬鹿らしくなってきた)


それと同時に怒りの波が徐々に引いていくことを自覚する。


だからといって、私が折れてルシアンを扶養するつもりはない。

しかし、ルシアンが婚約解消の証人を申し出てくれたおかげで、クレイグとの縁を切ることができるのは事実で……。


「わかりました」

「リザちゃん!」


私の言葉にぱあっと顔を輝かせるルシアン。


「代替案を用意します」

「代替案……?」

「あなたには市井で一人生きていけるよう自立してもらいます!」

「へ?」


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