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養ってほしい

(養って……え? 扶養?)


聞き間違えだろうかと、もう一度ルシアンに確認をする。


「あの、条件をもう一度……」

「うん。僕、アビントン嬢に養ってもらおうと思って」

「…………」


うん。扶養だった。


「話を聞いていましたか? 私、恋愛も結婚もしたくないって言いましたよね!?」

「もちろん君の話をしっかり聞いて吟味(ぎんみ)した上でこの提案をしているんだよ?」


余計にたちが悪い。


「申し訳ありませんが、お断りを……」

「じゃあ、このままクレイグと結婚することになっちゃうね」

「うっ……!」


たしかに、婚約解消の説得に失敗してしまえばクレイグとの結婚は(まぬが)れないだろう。

すると、未来への不安と恐怖に揺れる私の心を見透かすかのようにルシアンが甘い声で囁いた。


「僕なら君に何も求めない」


しかし、即座に私は反論をする。


「……養うことを求めていますよね?」

「ははっ! 騙されてくれないかぁ!」


途端に甘い空気は離散し、ルシアンは愉快そうに笑う。


「でも本当だよ? 僕を養ってさえくれれば君の仕事の邪魔はしないし、夫婦としての役割を求めるつもりもないんだ」

「…………」


そう言われても簡単に了承できる提案じゃない。


「そもそも、どうして『養ってほしい』なんて話になるんです?」

「実は……」


深刻な表情で俯くルシアンに、私もゴクリと喉を鳴らす。


「卒業後の僕の進路がまっったく決まっていないんだよね」

「え……? ランプリング侯爵令息様って三年生ですよね?」


思わずルシアンのタイの色を目で確認しながら問いかける。


「うん。君と同じ。あと一年も経たない内に卒業だね」


朗らかに答えるルシアン。


この学園を卒業した貴族令息たちは、騎士や魔術師、文官や研究者などの道に進む者がほとんどだ。

嫡男であれば当主を兼任することになるし、婿養子として婚家の後継ぎになる者もいるだろう。


そんな中、侯爵令息なのに全く進路が決まっていないとは……。


婚姻ではなく就職へ進路の舵を切ったばかりの私が言えた義理ではないが、ほとんどの令息たちは三年生になった時点でほぼ進路が決まっているものである。


「だから私に養えと……?」

「そういうこと! 優秀なアビントン嬢なら王城魔法研究所への就職は間違いなさそうだし、結婚をする気がないなら僕を養っても問題はないかなぁって思ったんだ」


いや、問題しかないと思う。


「それは私ではなく、ご両親と相談なさったほうが……」

「あれ? 僕が勘当されるって話を聞いたことはない?」

「え……?」

「すでに父には見限られて、卒業と同時に勘当を言い渡されているんだよ」

「そうだったんですね……」

「だから、(いさぎよ)く君におんぶに抱っこで生きていこうと思う」

「…………」


そんな(いさぎよ)さはいらない。


「どうか、僕を幸せにしてほしい」

「…………」


そして図々しいな。


(それにしても勘当って……)


ルシアンは何てことのないように話しているが、私は内心かなりの衝撃を受けていた。


ランプリング侯爵家なら伝手(つて)もコネもいくらでもあるだろう。

ルシアンの進路先を見つけようと親が動いて、無理やり王城内の部署に()じ込んでもおかしくないはずだ。


そんなことを考えながら、私は別の提案をしてみる。


「それなら、どこかの家に婿入りをしたほうが安泰(あんたい)じゃないですか?」


たしかに王城魔法研究所の給料は高い。

しかし、それは個人が手にする金額として高いのであって、貴族の家に婿入りすれば比べものにならないくらいの資産を手にすることができる。


そう考えると、私より条件のいい令嬢はたくさんいると思うのだが……。


「僕のことを好いてくれる令嬢はいるんだけど……婚姻となると話は別になるんだ」


庶民の結婚は基本的に本人同士の自由恋愛だ。

だが、貴族は家の繁栄のため、婚姻には当主の承認が必要となる。


現在のルシアンは自身の能力の低さから騎士や文官といった道に進むことは見込めず、すでに父親から勘当を宣言されているため、婚姻でランプリング侯爵家と縁を結ぶという旨味(うまみ)すらなくなってしまっている状況。

その上、ルシアン本人の魔力はゼロで……。


いくらお相手の令嬢に好かれようとも、そのような男を婿に迎え入れる貴族家の当主はいないのだと説明を受ける。


「それでも僕と本気で結婚しようとする令嬢もいるんだけど、少し……いや、かなり押しが強くてね。さすがに駆け落ちを強行されそうになった時は逃げ出したよ」


そう言って、死んだ魚のような目で乾いた笑い声をあげるルシアン。

これほどの美貌であれば、厄介な女性を惹きつけてしまうことも多々あるのだろう。

色々と察する。


「まあ、そういうわけだからさ。クレイグと結婚するか、僕を養うか……どちらがいいか考えてみてよ」

「…………」


なんて二択だ。


「それじゃあ、そろそろ僕は行こうかな。またね、アビントン嬢!」

「あ、ちょっと待ってくださ……」


ベンチから立ち上がると、ルシアンは軽く手を上げながら颯爽と立ち去ってしまう。

結局、私はその背中を見送ることしかできなかった。



読んでいただきありがとうございます。

次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
究極の2択……!!! 嫌な人と結婚するのも嫌だけど、おんぶに抱っこになりそうな人と結婚するのも嫌だなあ……! どうなるんでしょう!
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