決別②(Side.ルシアン)
読んでいただきありがとうございます。
※今話もルシアン視点です。
よろしくお願いいたします。
ヘレナ・ハーディング元子爵令嬢。
なぜ、彼女が注目を集めているのか……。
その理由は二つあった。
一つ目は、ビークロフト侯爵家の謀反に気づき、未然に防いだ褒賞として、ヘレナ個人に爵位が与えられたこと。
現在のヘレナは子爵令嬢ではなく、エイムズ男爵家の当主となっている。
一介の研究者である子爵令嬢に爵位が与えられた……。
異例の叙爵に多くの者が驚くも、彼女の瞳の色を見て皆が理由を察する。
色付き眼鏡で隠されていたヘレナの瞳は、ザーライド王国初代君主と同じ黄金色だったからだ。
僕は、ヘレナから瞳の色と出自を明かされた時のことを思い出す。
『私はハーディング子爵家の養子なんだ』
『え……?』
『母は平民で、王都の娼館で働いていた』
『まさか、陛下の隠し子だったり……?』
『惜しいな。陛下は私の叔父だ』
そう言って、ヘレナはニヤリと笑う。
初代君主と同じ黄金色の瞳は王の証と呼ばれるもの。
だからといって王族全てが黄金色の瞳を持って生まれてくるわけではない。
現に、国王陛下の瞳は薄茶色で、亡き王兄が黄金色の瞳を持っていた。
『王兄殿下って、たしか若い頃に病で亡くなったって……』
『ああ。病に罹りながらも根性で娼館に通い続けたバカが私の父親だ』
『…………』
王兄殿下の評価は真っ二つに分かれている。
ある人は「王族としての自覚を持たず、規律を乱し、好き放題に振る舞う愚か者だ」と言う。
また別のある人は「王族の枠にも常識にも囚われず、周囲の意見に流されず、信念を持って行動する王たる器を持つ者だ」と評する。
ちなみに兄に対する国王陛下の評価は後者であるらしい。
ヘレナの話によると、生まれてすぐの彼女の瞳は黄土色で、成長するに従って黄金色へと変化したそうだ。
そこで、亡き王兄の忘れ形見であることが露見し、陛下によって秘密裏にハーディング子爵家へ預けられたのだという。
病気を理由にして色付き眼鏡で瞳の色を誤魔化し、学園には通わず、社交もせず、人目を避けるように研究に没頭するヘレナ。
本人は何も苦にしていないのに、陛下はヘレナの境遇を不憫に思っているらしい。
『叔父上の考えはいつもズレているんだよ』
そんなヘレナの言葉通り、今回の叙爵もヘレナが望んだわけではなく、陛下が彼女を表舞台に立たせようと動いた結果であるという。
そして現在、夜会の参加者たちがヘレナに値踏みの視線を向けているというわけだった。
ヘレナはいまだに独身。
今回の叙爵で彼女の身に流れる王家の血と、陛下の寵愛が明らかとなった。
どうにかヘレナと縁を結ぼうと、皆が算段を立て始めているのだ。
(大丈夫かなぁ……?)
ヘレナの心配をしていたその時、背後から僕の名前を呼ぶ声がした。
「ルシアン!?」
振り返ると、そこにはランプリング侯爵家の皆が勢揃いしている。
「おい! どうしてお前が夜会にいるんだ!?」
場をわきまえず、声を張り上げて僕を責める次兄。
そのせいで、ヘレナに向けられていた視線が一斉にこちらへ戻ってきてしまった。
仕方なく、僕は笑顔を浮かべて挨拶をする。
「お久し振りです。ランプリング侯爵家の皆様もお元気そうですね」
「お前はもう平民になったんだろう? 学園だって退学になったはずだ。一体ここへ何をしにきたんだ!?」
しかし、僕の挨拶は完全に無視され、空気を読まない次兄が吠え続ける。
「まさか……恥ずかしげもなく父上に除籍の撤回を願いにきたのか?」
すると、ここでようやく父が口を開いた。
「ルシアン。私は再びお前を家族として受け入れるつもりはない」
さすがに次兄のように怒鳴る真似はしないが、その表情と声には僕に対する侮蔑の感情が滲んでいる。
「わかったのなら、ここから出ていきなさい」
「そう言われましても……同伴者を置いて僕だけが帰るわけにもいきませんから」
僕の返答が予想外だったのだろう。
父は眉根を寄せ、探るように僕を見つめる。
だが、次に口を開いたのは長兄だった。
「なるほど。どこかの令嬢を誑し込み、この夜会に潜り込んだというわけか……」
そして、父そっくりの顔で長兄が僕を睨みつける。
ただ、母は何も言わず、視線を床に落としているだけ。
その姿を見ても、もはや何の感情も湧かなかった。
「ルシアン! 待たせてしまったようだ」
その時、ヘレナの声が響く。
彼女は僕の隣に並ぶと、改めてランプリング侯爵と向き合った。
「初めましてだな。ランプリング侯爵」
「これはこれは……。まさかエイムズ男爵のほうから声をかけていただけるとは……」
叙爵したばかりの男爵が、初対面の侯爵に声をかけて会話に割り込む……。
いくら王家の血を引いていても、ヘレナの無礼な振る舞いに父は苛立ったのだろう。
「もしや、ルシアンの同伴者はあなたでしたか……。ははっ。エイムズ男爵はずいぶん年下の男が好みのようだ」
しかし、父の嫌味にヘレナは動じることなく平然と受け止める。
「ふふっ。息子が年下なのは当たり前だろう? ランプリング侯爵は面白いことを言う」
「…………」
ヘレナの言葉の意味がわからなかったのだろう。
父は固まったまま、ヘレナの顔を見つめる。
「息子……?」




