決別③(Side.ルシアン)
読んでいただきありがとうございます。
※今話もルシアン視点です。
よろしくお願いいたします。
「ああ。ルシアンをエイムズ男爵家の養子として迎え入れた」
「どうして……。どうして、こんな生まれつき魔力を持たない男を……?」
心底信じらないといった表情の父。
「なるほど。ランプリング侯爵はそのような考えを持っているのだな」
「いや、違うんだ。ルシアンの素行に問題があって……」
暗に、僕の除籍は魔力の有無が原因なのかと告げられ、父は慌てた様子で否定する。
「ははっ! たしかにこれほどの美貌だ。何もせずともいらぬ嫉妬を買うことも敵を作ることも多かっただろう。だが、ルシアンの協力がなければ、私が爵位を賜ることもなかった」
「なっ……!?」
「ルシアンの王家への忠誠心と献身は陛下もお認めになっている」
ヘレナの言葉を聞きながら、ものは言いようだなと感心してしまう。
しかし、彼女の言葉に嘘がないことも事実だ。
王家への忠誠心と献身とは、僕が闇魔法でアシュトン第二王子を救ったこと。
闇魔法は術者の精神を蝕むもの。
長期間の魔法使用でなくとも、下手をすれば僕だってエメラインのように壊れてしまう可能性はあった。
さらに、アシュトンが闇魔法から解放されるのと引き換えに、僕の体内魔力は底を尽き、魔力無しへと逆戻り。
──それでも僕はアシュトンを救った。
その事実を陛下が評価してくださっているというわけだ。
「しかし、ルシアンに秀でたものなど何一つ……」
「行き場のない憐れなルシアンを息子として引き取るよう許可してくださったのも陛下だ。どうやら、我々とランプリング侯爵とでは価値観に大きな相違があるようだな」
「くっ……!」
ヘレナの「我々」という言葉の中に陛下も含まれていると気づいたのだろう。
魔力無しの『顔だけ令息』として勘当したはずの息子が、国王に認められるほどの働きをし、王族の養子となって現れた。
お前は見る目が無いのだと、衆人環視の前ではっきりと言われ、父は苦々しげに顔を歪める。
そのタイミングで僕は口を開いた。
「そろそろ行きましょうか。母上。まだ挨拶をしなければならない方々がいらっしゃいますよ」
そうヘレナに声をかけると、俯いていた母が顔を上げ、驚いたように僕の顔を見つめる。
もう僕はエイムズ男爵令息である。
目の前の彼らを父や母、兄と直接呼ぶことは二度とない。
「ああ。そうだな。それではランプリング侯爵。私たちは失礼するよ」
「待っ……ルシアン!」
なぜか僕を引き留めようとするランプリング侯爵の声を背に、僕は振り向きもせず歩き出す。
「はぁ……疲れたな。少し風に当たりたい」
「わかりました」
そのまま僕とヘレナはホールを出て、庭園に向かうため廊下を並んで歩く。
「夜会なんぞ時間の無駄でしかないな。やはり、これからはルシアンに任せよう」
「えー……」
元々ヘレナは社交嫌いで、今日の夜会にも渋々参加していた。
これからは息子となった僕に丸投げするつもりらしい。
「私なんぞより、よほど社交に向いているだろ?」
「…………」
まあ、この意見には概ね賛成だ。
先ほどのランプリング侯爵に対するヘレナの態度は、爵位だけを考えると完全にアウト。
ただ、ヘレナが亡き王兄の娘であるという暗黙の了解によって咎められることがないというだけ。
「頼りにしているぞ」
「まあ、僕なりにやってみますよ」
この夜会で、ヘレナが亡き王兄の娘であることが公となった。
このままでは、ヘレナの婚約者に立候補する者が殺到するだろう。
しかし、ランプリング侯爵との会話で、すでに僕という息子の存在が公になった。
つまり、エイムズ男爵家には僕という後継者が存在しており、ヘレナが婚姻を望んでいないことが周知されたということ。
さらに、ヘレナはこれからも社交の場に顔を出すつもりはなく、僕という窓口を通してしかヘレナに繋がることはできないという状況になるのだ。
僕とヘレナが夜会に参加した理由の一つがこれだった。
だが、まだ本題が残っている。
「そういえばアビントン男爵夫妻の姿も見かけたぞ」
「え!? 本当ですか?」
夜会へ来たのは、リザの父親に接触し、リザの新たな縁談を組まぬようヘレナに釘を刺してもらうためだった。
リザが僕を選ばなくても、彼女には望む未来を生きていってほしいから。
まあ、僕を選んでくれた時は、スムーズにリザとの婚約を結べるように……という下心もある。
「なあ、ルシアン。あれだけでよかったのか?」
「何がです?」
「血の繋がった家族とはいえ、これまでの不満もあったのだろう? 私に遠慮せず、言いたいことをぶち撒けてもよかったんだぞ?」
前言撤回。
どうやら僕のために、ヘレナはわざとランプリング侯爵に喧嘩を売ったらしい。
きっと、これまでの積もり積もった恨みや怒りをランプリング侯爵家にぶつけ、僕が過去を清算できるように……。
新しい母は、なかなかに息子思いのようだ。
しかし、まるで呪いのようだった『家族』に対する僕の執着はすでに消えている。
「お気になさらず。あれは血の繋がっただけの他人ですから」
僕の言葉を聞いたヘレナは、声を上げて笑うのだった。




