攻防
読んでいただきありがとうございます。
今話は少し短めです。
よろしくお願いいたします。
「なっ………」
ルシアンの怒りに触れ、呆然とするエメライン。
語気を荒げる彼の姿を私は初めて見た。
「頼むから僕に……僕とリザちゃんにもう二度と関わらないでくれ!」
そう告げると、ルシアンはエメラインに背を向け、私のもとへ戻る。
「行こう。リザちゃん」
「でも……」
「これ以上リザちゃんを危険な目に遭わせたくない」
「………」
ルシアンは心から私を心配してくれている。
もちろん、それはわかっていた。
だが、ようやく尻尾を掴んだのに、エメラインをこのまま置いていくつもりなのだろうか。
そんな私の疑問に気づいたのか、安心させるようにルシアンは優しく笑みを浮かべる。
「大丈夫。すぐにヘレナ先生が……」
その時、耳をつんざくような金切り声が響いた。
「ルシアン様がそんなこと言うはずがない! 違う! 違う! 違う! そんなの私のルシアン様じゃない!!」
自身の頭を両手で抱え、声を張り上げ、地団駄を踏むエメライン。
それはまるで癇癪を起こす幼子のようだ。
あまりの異常さに呆気に取られ、私とルシアンはただ無言でエメラインを見つめる。
「ずっとうまくいっていたのに……! どうして! どうしてなの!?」
ひとしきり叫んだあと、エメラインは両手で自身の顔を覆って俯く。
そのまま動かなくなってしまった彼女を前に、私とルシアンは互いに顔を見合わる。
さすがに放置はできず、ルシアンがエメラインに向かって一歩を踏み出した。
すると、エメラインがゆっくりと顔を上げ、唇の端を吊り上げるようにニンマリと笑みを浮かべる。
「ああ……そうだわ。きっと足りなかったのね」
そして、エメラインは制服の内ポケットから、手のひらサイズの青いガラス製の小瓶を取り出した。
それが香水瓶だと気づいた瞬間、私はルシアンに向かって叫ぶ。
「逃げて!!」
しかし、エメラインは手にした香水瓶を床に向かって投げつけた。
ガラスが割れる音とともに、闇魔法の原液とも呼べる液体が床に広がっていく。
「くっ……!」
私は右腕を伸ばすと、割れた香水瓶に向かって魔力を放つ。
さらに意識を集中させ、魔力を遠隔操作し、香水瓶を中心に薄い半透明の膜をドーム状に広げる。
──これは私が風の魔力により創り出した保温継続魔法……通称『パニーニの魔法』である。
一週間前、エメラインが闇魔法を『香り』に変換させ使用していると気が付いた時、それを防ぐ手立てはないだろうかと考えた。
そこで思い出したのが、ルシアンと二人で街へ買い出しに出かけた時のこと。
すっかり冷めてしまったパニーニを温め直したいと話す私にルシアンは付き合ってくれた。
その時、熱を逃さないよう焼き立てのパニーニを風魔法で包んでいれば、そもそも冷めなかったのではないかという会話になる。
それと同じ原理で『香り』を閉じ込めてしまえば、闇魔法の効力を防ぐことができるのではないか……。
こうして私は王城魔法研究所の研究員にアドバイスをもらいながら、パニーニの魔法を完成させたのだ。
(成功した……?)
ドーム内が黒い靄で満たされていくが、見るかぎりでは外に漏れ出ている様子はない。
「リザちゃんすごい!」
ルシアンの声に、私は笑顔を向ける。
「あ、あ、あ……私の香水が……私の、私の」
その場に座り込み、パニックになっている様子のエメライン。
これ以上無茶な真似をしないよう捕縛したいところだが、エメライン自身が香水を纏っているため迂闊に近づけない。
それに、エメラインが所持する香水が一本だけとは限らないのだ。
そこへノックの音もなく扉が突然開き、部屋の中へヘレナが飛び込んできた。




