正しく愛してくれる人③(Side.クレイグ)
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※最後のクレイグ視点となります。
よろしくお願いいたします。
応接室へ移動してからの会話はジェフリーが中心で、病弱だった幼い頃の話に始まり、いかに両親が兄を支えたのかという話題が繰り返される。
ちらりとリザの表情を伺うと、彼女はふんふんと真面目に両親や兄の話に聞き入っていた。
「ああ、そうだ! リザさんのために庭師が張り切って花の植え替えをしていてね。よかったら今から見に行かない?」
いつの間にか馴れ馴れしくリザを名前で呼ぶジェフリー。
「兄さん。それなら俺が……」
「クレイグはこれから学園でいつでも会えるだろう?僕、今日は久しぶりに体調がいいんだ。だから将来の義妹とゆっくり喋ってみたくって」
「でも……」
こう言われてしまえば、両親はすかさず兄の味方になり、兄の要望を叶えるために動き出す。
特に、最近のジェフリーは部屋に籠りがちだっため、我が家の庭園だとしても外へ出ようとしていることが純粋に嬉しいのだろう。
こうして、ジェフリーとリザは二人きりで庭園の散歩に出掛けていった。
(はぁ……)
俺は内心溜息をつく。
どうやらジェフリーは俺の婚約者であるリザに狙いを定めたらしい。
きっと同情を誘い、俺よりも自分を優先させるように仕向けるつもりなのだろう。
(まあ、今更だけどな)
兄の手口にはもう慣れっこだった。
それに、兄の思惑通りになったとしても、俺はリザにそれほど好意を抱いているわけでもない。
ただ、うんざりした感情が胸の奥で渦巻くだけ。
それから三十分が経つも、ジェフリーとリザは戻って来なかった。
さすがにそのまま放置するわけにはいかず、俺は二人を迎えに行くため庭園へ向かう。
白いガゼボのベンチに並んで座るジェフリーとリザ。
二人の距離はかなり近い。
「僕、幼い頃からずっと体が弱くてさ。友人を作ることもままならなくて……。こんな僕にクレイグはうんざりしているみたい」
そう言って、ジェフリーは悲しげに目を伏せる。
俺とは違ってジェフリーは色白で線も細く、初対面でその言葉が嘘だと見抜ける者は少ないだろう。
「でも、今日はリザさんのおかげで本当に楽しかったんだ。よかったら、僕の友人になってくれないかな? それで、これからも僕に会いにきてくれたら嬉しいんだけど……」
「申し訳ありませんが……それはできません」
「え?」
リザの返答にジェフリーは虚を突かれた声を出す。
「私はクレイグ様の婚約者です。そして、あなたは彼のお兄様。婚約前から友人関係であったのならともかく、今から友人となって私があなたのもとを訪ねるのはおかしいと思います」
きっぱりと告げるリザ。
俺はそんな彼女から目が離せなくなる。
「でも……!」
なおも言い募ろうとするジェフリー。
そんな会話に割って入るように、俺は彼女の名を呼んだ。
「リザ!」
すると、リザは俺の顔を見るなりホッと安堵の表情を浮かべた。
途端に胸がぎゅっと締め付けられる。
そして、リザはベンチから立ち上がると、ペコリとジェフリーに頭を下げ、俺のもとへ駆け寄ってきた。
「クレイグ様。迎えにきてくださったんですね」
嬉しそうに俺の名を呼ぶ彼女の顔を真っ直ぐに見つめる。
(そうだ。どうして気づかなかったんだろう)
リザは俺の……俺だけの婚約者だ。
その証拠に、彼女はジェフリーではなく俺を選んでくれた。
その事実に俺の心は震え、高鳴り、得難い高揚感を覚える。
──リザは俺だけを正しく愛してくれる人なんだ。
それからの俺は一変してリザのことばかり考えるようになった。
しかし、彼女は相変わらず魔法の話ばかりで、俺に対する執心や愛情といったものが全く感じられない。
そのことに不満を覚えると同時に、俺の胸の内に不安が広がっていく。
(愛情が目に見えればいいのに……)
そうすれば、リザの愛情を簡単に確認することができる。安心することができる。
そんなバカなことまで考えるようになってしまった。
だから、俺は彼女と過ごす時間を増やそうと動いた。
登下校は時間を合わせ、会えない休日には手紙がほしいと伝えると、リザは笑顔で了承してくれる。
(よかった)
しかし、しばらくすると、また新たな不安が胸の内に生まれるのだ。
──リザは俺を愛してくれているのだろうか?
その不安を払拭するべく、俺は再びリザへの要望を口にする。
リザが俺の要望に応え、俺の言葉に従うと、心が満たされていく。
だけど、思うような結果が得られないこともあった。
俺は声を荒げ、リザを責めると、彼女は俺に縋るように謝罪を繰り返す。
──ああ、よかった。
俺はリザに愛されている。
俺との関係が破綻しないよう必死になっている彼女の姿こそが、その証拠じゃないか。
でも、あの日は違った。
婚約解消を撤回する俺の言葉をリザは受け入れてくれなかったのだ。
もちろん、本当に婚約を解消するつもりなんてなかった。
ただ、ああ言えば婚約を解消したくないと、リザが俺に縋るだろうと思っただけ。
ただ、彼女の愛情を確かめたかっただけなんだ。
(それなのに……)
俺たちは歪な関係だとリザに指摘され、ルシアンに話し合いの邪魔をされ……今、俺は一人きりで裏庭に座り込んでいる。
(クソっ!)
リザがこんなにも頑ななのも、歪だなんて言い出したのも、きっと誰かの入れ知恵に違いない。
(ルシアン……!)
そう。心当たりは一人しかいなかった。
俺とリザのちょっとした諍いに目を付け、遠征実習で俺が不在の間にルシアンがリザに近づいたのだろう。
(リザを取り戻さなくては……)
今回はルシアンに邪魔をされてしまったが、もう一度説得すればリザの目も覚めるはずだ。
──俺は愛されている。だって、あんなに何度も確かめたのだから。
その時、俺の視界の端に白いものが映る。
(これは……手紙?)
地面に落ちていたのは、ヨレて折れ曲がった白い封筒だった。
それを拾った俺は、手紙の封蝋がランプリング侯爵家の家紋であることに気が付く。
どうしてこんなものが裏庭に落ちているのかと思案するも、すぐに俺がルシアンの胸ぐらを掴み地面に押し倒した時のことを思い出した。
おそらく、その時にルシアンが落としたのだろう。
「…………」
普段の俺ならば絶対にしない。
だけど、この時の俺はルシアンへの怒りで頭がいっぱいで、感情のまま乱暴に封を切ってしまう。
すると、中から出てきたのは……ランプリング侯爵家からルシアンの籍を抜くと記された除籍届であった。
クレイグ視点長くなってしまいました。
次回からリザ視点に戻り、ルシアンの手から放たれた黒い靄の正体に迫ります。




