正しく愛してくれる人②(Side.クレイグ)
読んでいただきありがとうございます。
※今話はクレイグ視点となります。
よろしくお願いいたします。
(この子が俺の婚約者……)
栗色の髪に翠の瞳を持ち、地味で平凡な顔立ちに小柄な体格。
孤児院出身だと聞いていたが、貴族令嬢としての作法は問題なく身に付いているようだった。
初めてリザと顔を合わせた時の印象はこれくらいのもの。
そう。それくらい俺はリザに興味を惹かれなかった。
それでも婚約を結んだのだから、婚約者としての義務は果たさなければならない。
だから俺は、王都から遠く離れた領地に暮らす彼女へ月に一度は手紙を書いたし、学園の長期休暇にはリザに会うためにアビントン男爵領まで足を伸ばした。
どうやらリザは魔法学に強い興味を持ち、専門の家庭教師からも学んでいるそうだ。
彼女からの手紙に書かれている内容も、俺との会話も魔法のことばかり。
俺にとっては全く興味のない話題だったが、手紙の文字数を増やすのには丁度いいし、適当に相槌を打っていれば勝手に話し続けてくれるので、ある意味楽だと思えた。
そして、俺は中等部の三年生になり、いよいよ進路を考える時期となる。
そこで俺は迷うことなく高等部の騎士科を選択した。
だが、中には自身の将来のことなど何も考えていない者もいるようで……。
「え? 僕の対戦相手ってクレイグなの!?」
剣術の授業で行われる模擬戦では、ランダムに対戦相手が決められる。
そして、今日の模擬戦の相手は目の前のルシアン・ランプリング侯爵令息。
淡く輝く銀髪に神秘的な薄紫色の瞳を持つルシアンは、同じ男であっても思わず惹き込まれてしまいそうな美貌の持ち主だった。
そして、貴族令息なのに生まれつき魔力を持たない『魔力無し』である。
「クレイグが相手なら、わざわざ闘わなくても僕が負けるってわかりきってるのに」
そう言って、模擬戦で使用する木剣をプラプラと揺らしながらルシアンは溜息を吐く。
(こいつ……)
たしかに、俺は剣術の腕には自信があるし、ルシアンに負けるなんてことは万が一にもないだろう。
それでも、最初から全てを諦めるルシアンの態度が癪に障った。
ルシアンはいつもそうだ。
剣術だけじゃない。
他の教科だって何だって、出来ないと言って早々に諦めてしまう。
俺はそんな態度が許せなくて、何度か直接注意をしたこともあった。
魔力を持たないのならば、他の分野の能力を磨くべきだろうに……。
だけど、ルシアンはのらりくらりと言い逃れ、変わらず怠惰に過ごし続けている。
それなのに、極上の容姿を持つこの男に令嬢たちは群がり、ちやほやされる姿はまさに『顔だけ令息』であった。
「始め!」
審判の声を合図に俺とルシアンは向き合い、互いに木剣を構える。
(隙だらけだな……)
ルシアンはただ木剣を持ち上げ、それっぽいポーズをしているだけ。
模擬戦では制限時間内に攻撃が当たった回数で勝敗が決まる。
もちろん、防具で守られている部位以外を狙うことは禁じられていた。
俺は踏み込むと、ルシアンの右肩目掛けて木剣を繰り出す。
すると、問題なく狙った箇所にヒットした。
そのまま連続で攻撃を続けると、全ての攻撃が狙った通りの箇所に当たる。
なぜなら、ルシアンは反撃どころか防御もまともに出来ず、ただ棒立ちで攻撃を受け続けているからだ。
しかも、木剣を持つルシアンの手は震えていた。
──ああ、腹が立つ。
『魔力無し』に関しては同情するが、だからといって怠慢であることが許されるわけではない。
魔力が無いのならば、剣の腕を磨くなり、学問を極めるなり、尚更努力をしなければならないはずだ。
俺の目には、『魔力無し』を理由に甘ったれているようにしか見えなかった。
それなのに、こんな男に多くの令嬢たちが夢中になっている。
その姿が、病を理由に甘やかされ、両親の愛情を一身に受けるジェフリーと重なった。
(クソっ……!)
俺は渾身の一撃を繰り出すと、さすがに殺気を感じ取ったらしいルシアンが木剣で俺の攻撃を受け止める。
しかし、押し負けたルシアンはそのまま不様に地面に転がった。
「ちょ……ストップ! ストップ! 降参だってば!」
「…………」
地面に座り込み、あっさり負けを認めるルシアン。
その情けない姿に溜飲が下がると思いきや、さらに嫌悪感が湧き上がる。
俺は、立ち上がろうとするルシアンに手を貸すことなく、そのまま背を向けた。
◇
月日はさらに流れ、中等部を卒業した俺は王立ザーライド学園高等部の騎士科へ進学が決まる。
そして、同じく高等部の魔法学科へ進学する婚約者が領地から王都へ出てくることになったのだ。
いいタイミングだからと我が家にリザを招待する。
久しぶりに会う彼女は外見も中身も特に変わりなく、当たり障りのない会話をしながら馬車でサーヴィス伯爵邸へと向かった。
しかし、思いもよらない事態が起こる。
リザを出迎える両親の隣には、あろうことか兄ジェフリーの姿があったのだ。
「はじめまして、アビントン男爵令嬢。僕はジェフリー。兄として弟の婚約者にきちんと挨拶がしたいと思ってたんだ」
そう言って、愛想よく笑みを浮かべるジェフリー。
そんな兄の姿を満足そうに眺める両親。
(何を企んでいるんだ……?)
リザと婚約を結ぶ際、家族の顔合わせがあり、いつものようにジェフリーが体調不良を訴えた。
しかし、この時ばかりは両親もアビントン男爵家との顔合わせを優先し、ジェフリーのみが不参加という形になったのだ。
だから、リザとジェフリーは今回が初対面で、挨拶をしたいという兄の言葉はおかしいものではない。
それでも、これまでの兄の行動を鑑みると、言葉通りに受け取ることはできなかった。
そんな俺の悪い予感は見事に的中することになる。




