冷たいキス
「悠、悠、ねぇ、ゆう、返事してよ。聞こえてるでしょ?ね、悠」
滲む視界。血のにおい。僕の腕の中には、悠がいる。
でもその体は、僕に揺すられてがくがくと力なく動くだけで。
嫌だ、悠を失うなんて。
「悠、生きて、生きて、また僕に笑ってよ、ねぇ、悠ってば、悠、ゆう」
お願い、戻ってきて――――
そんな願いとは裏腹に、段々悠の体は冷たくなっていく。
まだ僕は、悠なしじゃ生きていけないから。悠にまだ何も伝えられていないからだから神様、どうか、どうか、悠を助けてください。
願う事しか、僕にはできない。
だったら、全力で願うまでだ。
その瞬間、ピクリと悠の瞼が動いた。
「悠!?」
ゆっくりと、目が開く。
口を動かして何かを伝えようとしているが、もれるのは意味を成さないかすれた音だけ。
「無理しないで。でないなら唇読むから」
悠は小さく頷くと、さっきよりはっきり唇を動かした。すると、かすれてはいるが何とか聞き取れるこえがでて、大丈夫、と悠は言った。
「大丈夫だから、わらって?」
何で君はこんなときまで美しく笑うのだろう。今も悠の体は、冷たくなってきているのに。
「最期にみた、慈の顔が、泣き顔なんて、やだ」
そんなこといえば僕が、無理矢理にでも笑うの、知ってるくせに。
そういって笑った顔をつくると、悠はいっそう優しく微笑んだ。
「ち、か」
「うん」
悠が僕の手を握った。
「慈」
「そう、僕だよ」
「ありがとう」
どこまでも優しい悠の声。
「だい、すき、だった」
「僕も。僕も、悠のこと、好きだった」
悠の体から力が抜けていく。
紫色になっている悠の唇に、自分の唇をあわせる。
長く長く。少しでも体温がうつればいいと思った。
初めてのキスは、冷たくて、血の味がした。




