84話目 リック、バレる
メリッサ夫人と今後の事を話し合っていると、食堂の扉がノックされた。
夫人がメイドさんに目配せして扉を開けさせると、そこにはリックの姿。衣類を扱う店の女主人として普段から綺麗な格好だが、今日は更に髪を結ったり小物を付けたりとオシャレだ。
「メリッサ夫人、大丈夫だった?リョータにイジワルされてない?」
メリッサ夫人に駆け寄ると、夫人の両手を取って心配している。
それに随分と親しげだな。
さっきも思ったが、辺境伯夫人にその言葉使いは良いのだろうか?
「ええ、大丈夫よ。リョータさんは素敵な方ね。そうだ、ディーノも読んでサロンでお茶にしましょうか?」
こちらの返答を待たずに夫人はメイドさんに色々と指示を出している。
そろそろお暇しようと思っていたのだが、ちょっと帰りますとは言い辛い雰囲気だな。
仕方ないが、もう少し付き合うか。コレが終わったら長期休暇だ。
「始めまして、ディーノ·ファーマスと申します。この度は父が多大な迷惑をお掛けしてしまったようで、私からも謝罪させて下さい。」
日当たりのいいサロンで俺に頭を下げる金髪のイケメン。歳は30前後かな?
日の光を浴びて金髪が無駄に輝いていて、まるで物語に登場する王子様の様だ。辺境伯家の嫡男だし、俺から見たらほぼ王子様見たいなもんか。
「リョータ サワダです。どうかお気になさらないで下さい。ご両親より謝罪を頂いておりますし、賠償も約束して貰いました。これ以上は貰い過ぎですから。
それよりもこれからの事をお話ししましょう。メリッサ夫人もそれを望んでいるはずですよ。」
夫人の方に視線を向けると優しい微笑を浮かべて頷いてくれた。
何故か背筋が寒くなる優しい微笑を。
「それに貴方は程なくファーマス辺境伯家の当主になるのです。迷惑を掛けてしまった相手からも、当家の利益になる事を引き出せる様に駆け引きなさい。私の息子なら出来る筈ですよ?」
「お母様、流石にそれは失礼ですよ。」
「構いませんよ。この地の獣人達の為になるなら多少の骨は折らせて頂きますとも。乗りかかった船ですしね?」
「あっ!リョータ、その言い回しは通じないよ。」
この1言で辺境伯家にもリックが転生者である事がバレた。
ちょっとこの子油断しすぎじゃないか?
メリッサ夫人もちょっと呆れ顔。
心配なのか、「何かあったら私の名前を出しなさい。」と保護者みたいになっている。
うん、俺も心配なので早目に島へ連れて行って、パワーアップして貰いましょう。
この後はリックも交え4人で今後の事を話し合った。
結論は獣人にも人間と同じ権利を与える事。それには街の出入りの自由や武装の自由、商売の自由等ももちろん含まれる。
俺には酒造所の保有と米の優先購入権が認められた。
醤油はまだ生産量が少ないので優先販売は出来ないって。増産を依頼したよ。いくらでも投資致します。
これにはディーノが喜んだ。
ファーマス領にもダンジョンはあるが、珍しい物が採れる訳でも無く、外からお金が入って来ない。
近年ではリックの扱う衣類や化粧品があるだけだと言う。
そんな中、新しい調味料である醤油の輸出を考えていたそうだ。
「リックは料理は得意か?」
「う〜ん…普通。こっちじゃ自炊なんて殆どして来なかったからねぇ。醤油が出来て、一番最初にラーメン作って見たんだけどね。失敗した。麺もスープもコレジャナイ感が凄かったよ。」
「ラーメンか…出汁は何で取ったんだ?豚?鶏?」
「なんとかバッファローって牛だったよ。全然出汁出ないんだもん。」
「リョータさん、リックさん、ラーメンとはどの様な料理なのですか?」
「動物の骨で出汁を取ったスープに、小麦粉を捏ねて細長くした物が入った料理?あんまり美味しそうじゃ無いね。」
「そうですね、ちょっと味が想像出来ませんね。」
「リョータはどーなのさぁ?料理得意?」
「まぁ俺は釣りが好きだからな。魚料理なら良く作ってたぞ?最近はアルベール領で焼き肉ビヤガーデンを作るのにも協力したしな。魚介系のラーメンも得意だ。流石に麺を打った事は無いけどな。」
「焼き肉、ラーメン…リョータ、アルベールってトコ連れてってよ。焼き肉食べたい。」
「焼き肉なら何時でも出来るぞ。確かブラッディホーンブルとワイバーンの肉があった筈だ。」
グラスバッファローは島に全部置いてきちゃったからな。きっと今頃無くなっているだろう。
「どっちも超高級品だよぉ!リョータがやっつけたの?」
「ああ、そろそろお昼だし、外で焼き肉でもしますかね。醤油や味噌があれば更に美味しくなると思うが、今回は今まで使っていたタレで我慢してくれ。メリッサさん、ディーノさん、よろしいですか?」
「ええ、是非。」
「リョータさんがよろしければ、お願いします。」
よし、決まり!
4人プラスメイドさん3人でお外へ移動。
あれ?扉が壊れてるぞ?
ちょっと待ってて下さいね。すぐに直しますので。
庭の東屋、こういうのはガゼボって言ったほうが良いのかな?
そこにあるテーブルに人数分の七輪を出し、炭を入れる。雷魔法を使ってやれば火おこしはあっという間だ。
そこまでやってふと気付く、貴族が自分で肉焼くかな?食べ頃の判断出来るかな?
メイドさんに言って料理人を2人、後ご飯の用意をお願いした。
少しして料理人とワゴンを押したメイドさんが戻ってくる。
待っている間に炭も落ち着きいい感じだ。
先ずは牛タンでしょう。ただ人によっては嫌がる場合もあるので事前に教えておく。
「こちらはブラッディホーンブルのタン。よーするに舌ですね。」
夫人が「まぁ!?」とか言っているが、構わず俺の網に乗せる。
「片面で肉全体の8割に火を入れます。料理人さん達も良く聞いていて下さいね。………このくらいですかね。そうしましたらひっくり返して残り2割に火を入れて完成です。柑橘をお好みで搾って召し上がって下さい。」
最初の肉は毒味も兼ねて料理人さんへ。
「これが牛の舌ですか!?なんとも…他の肉では感じたことの無い食感ですな。ザクッときてブリンっと弾ける食感がなんとも面白い。肉の味もしっかりしていて癖も少ない。では、メリッサ様の分は私が焼かせて頂きます。」
料理人さんが焼き始めたので、俺も目の前の七輪に肉を並べて行く。
それを見て料理人さんも焼く枚数を増やした。
そして俺にいい笑顔を向ける。
え?何それ?何の笑顔?




