83話目 メリッサ夫人
おはようございます。
さて、今日はハードな1日になるからね。昨日は早目に寝たし、朝食もしっかりと食べてから出掛けよう。
とは言っても先に辺境伯の使いが来てしまうのも面白くない。
朝食が済んだらすぐに出ないとな。
普段は腕輪に収納してある武器を腰から吊るし、準備万端で宿の階段を降りる。
いつもと違う雰囲気を感じ取ったのか、女将さんもちょっと心配そうにしていたな。
早朝の澄んだ空気を吸いながら、歩いて辺境伯邸を目指す。
ただでさえ人通りが少ないのに、俺に気づくと路地裏に逃げて行く人々。
あれか?
殺気が漏れてしまっているかな?
10分も歩くと辺境伯邸に到着する。
俺に気付いた門番の1人が駆け寄ってくる。もう1人は屋敷の方に走って行ったな。応援を呼びに行ったのか、辺境伯を呼びに行ったのか…
前者の方が面白いんだがな。
「おはようございますサワダ様。先日はジグマンが大変失礼致しました。すぐに門を開きますので少々お待ち」
どーん!
門番を無視して門扉を蹴り飛ばす。
後ろ回し蹴りが綺麗に決まった。
門番さんは尻餅をついたまま固まっている。騒ぎに気付いて続々と兵士が玄関から出てくるが気にも留めず、真っすぐ玄関へと向かっていく。
玄関を守るように並んでいた兵士も、俺が近付くと左右に別れて道を譲る。
玄関の扉に手を掛け、引き千切る様に手前に引き倒す。
扉の近くにメイドさんでも居たら大変だからね。
扉を投げ捨て建物へ入ると、ちょうど辺境伯が正面の階段を降りてくる所。俺と目が合うと、後ろに倒れる様に尻餅をつく。
「おう!おはよう、辺境伯!手紙に書かれていた通り、俺は器が小さいもんでよ。こんな舐めた手紙出されたら黙ってらんねぇんだよ!!」
「待ってくれ!儂が悪かった!すまなかった!」
「当たり前ぇだバカ野郎!全部お前ぇが悪ぃんだよ!その癖こんな手紙寄越しやがって。すまなかった?こっちは1個も悪くねぇのにわざわざお前の呼び出しに応じて来てやったんじゃねえか?この喧嘩はお前が望んだ事だろうがよぉ!」
「手違いがあったのじゃ!勘違いがあったのじゃ!サワダ殿の納得する謝罪をする。どうか、どうか話しを聞いてくれ!この通りじゃ!」
辺境伯は階段で正座して頭を下げる。
斜め土下座だ。普通の土下座よりも頭の位置が下がり、お尻を突き出す形は芸術点が高い。
分厚い絨毯が敷いてあるからそんなに痛くも無さそうだ。
簡単に納得してやるつもりは無いが、話しは聞いてやろう。
「あらあら、随分と面白い格好ね。何をしているのかしら?」
2階から初老のご夫人が降りてきた。きっと彼女がメリッサ夫人なのだろう。
辺りを見回し、俺と目が合うとメリッサ夫人は優しく微笑む。
「貴方がリョータさんかしら?リックさんから聞いているわ。素敵なプレゼントありがとうね。」
「始めまして、メリッサ夫人。朝からお騒がせしてすいません。」
こんな状況なのに微笑みを絶やさない。この人、底が知れないな。
「あらあら、頭を上げて下さいな。うちの人が迷惑を掛けたみたいで、こちらこそごめんなさいね。そうだ、朝食はお済みかしら?良かったらご一緒しませんか?」
「朝食は宿で済ませてきてしまったので、お茶だけでもよろしければ。」
「ありがとう、助かりますわ。2度も呼びつけて、お茶も出さずにお帰り頂いては他の貴族の方に笑われてしまいますものね。」
そう言うとメリッサ夫人は辺境伯に冷ややかな視線を向ける。
「貴方もご一緒なさい。リョータさんが納得なさる謝罪をするのでしょう?さぁリョータさん、食堂に案内致します。そこのあなた、ジグマンを呼びなさい。」
夫人は「さぁ、こちらですわ。」と歩き出す。
どうやらファーマス領の最高権力者はメリッサ夫人のようだ。辺境伯は青い顔で夫人に付いて行こうとして、「貴方はリョータさんの後ろから来なさい。」と怒られた。
食堂では夫人に上座を勧められた。
20人は座れるでっかいテーブルのお誕生日席だ。断ろうとしたが夫人に押し切られた。こういう物らしい。が…落ち着かないなぁ。
夫人の前には朝食セット、俺と辺境伯にはお茶。紅茶かな?砂糖の入った小壺もある。辺境伯は朝食抜きの刑らしい。
夫人が朝食を終えるまでは2人で世間話。まぁ会話の8割は辺境伯への愚痴だ。
朝食が済むと夫人はジグマンを(どうやらあの時対応した執事長)呼び出した。
「先日のあなたの対応を話しなさい。隠し事は許しません。」
夫人が感情のこもらない冷たい声で言うと、ジグマンは震えながら先日の事を話し出した。
お誕生日席に座る俺からは夫人の表情は見えない。だが執事長や辺境伯の顔を見るに激おこなのが伺える。
「まぁ、陛下が認めた他国の王に対して剣を抜いたと?それに…魔剣ですか?」
「リョータさん、その魔剣とは一体どの様な物なのですか?」
こちらに向き直り俺に話しかけるメリッサ夫人は笑顔だ。この人怖いな。
「私のいた世界に伝わる、どんな鎧も切り裂く魔剣フラガラッハと言う剣でした。扱いの難しい剣なのですが、武を重んじるファーマス辺境伯なら使いこなせるかと思い用意したのですが…今では確認も出来ませんね。残念です。」
「リョータ様、魔剣など私も聞いていなかったのです。」
「黙りなさい。知っていようといまいと貴方の行いは変わりません。
リョータさんへの謝罪の前にあなた方に罰を与えます。ジグマン、あなたはクビです。その上で辺境伯へ与えた損害はあなたの実家に請求する事とします。実家への説明はあなたがしなさい。
マルク、貴方とは離縁致します。家督をディーノに譲り、今後ファーマスを名のる事は許しません。もちろん王への報告も致しますので、沙汰があるまでは牢に入って貰います。連れて行きなさい。」
2人はイヤイヤする子供の様になっているが、決定は覆らない。入って来た兵士に連れて行かれた。
あれ?あの兵士さんはなんか見覚えがあるぞ?
でも離縁かぁ…メリッサ夫人を困らせちゃったかな?
「はぁ〜スッキリした…。
こちらの処分としてはこんな所かしら?後はリョータさん次第ね。何がお望みかしら?」
「メリッサ夫人。離縁って…良かったのですか?」
「あぁ、お気になさらないで。貴族の結婚なんて親同士が損得で決めるものよ?もし気に病んで下さるなら、息子と仲良くしていただければ嬉しいわ。」
「それはもちろんです。後は獣人達をちゃんと面倒見て貰えれば、私から言う事はありません。」
「ええ、もちろんよ。リックさん風に言うなら、『任っせてよ。』かしら?」
そう言って少女の様な笑顔を浮かべるメリッサ夫人だった。




