81話目 無もなき兵士
リールも竿も早々に売り切れたのだが、釣り人達は俺を返してくれなかった。
釣りの疑問に全て答える事は出来ないが、少なくともルアーフィッシングに必要な知識は教えられたと思う。
早速店先でキャスト練習している人がいるし、トーアさんの店の雑貨の中からルアーに使えそうな素材を探している人もいる。作り方は商人ギルドで公開してあるから参考にしてくれ。個人で作る分にはお金は取らない様にしたからな。
明日暇かって?
今日リール買えなかった人の分を作らなきゃならないだろ?
秘密のポイントを教えてくれる?
ポイントの発掘から釣りは始まっているんだ。俺の楽しみを奪わないでくれ。
俺もう帰っていい?
ダメ?
何しに来たって?
米を買いに来たんだよ。
俺朝から何も食べて無いんだよね。
あっなんか買ってきてくれるの?
ありがとう!
90センチのサーブル釣った?
そう俺は130センチ。見る?
かれこれ4時間はずっとこんな感じだ…こんな事ならすぐに応接室でリール作りするんだった。
この質問攻めはいつまで続くのか…
いい加減辟易としていた頃、1人の客が戻って来た。あの人は最初にリール買った人だな。糸を巻いてあげたし覚えてるぞ。
「おいおい、折角新しい釣具が手に入ったのに釣りに行かないのか?お前達の釣具は観賞用か?おっと、リョータさん、竿なんだが、3メートル方も欲しいんだ。次はいつ頃販売するんだい?」
「はっきりとは言えないけど、ここの用事が済んだらもう1回は納品するかな?予約するかい?」
「良いのか?だったら、リールも!こっちはもう少し小さい物が欲しい。」
「わかった。トーアさんに伝えておいてくれ。」
「リョータさん、オレも!オレも予約する!」
「まだ今日買った竿使って無いだろ?使って見て、それでも必要だと思った時は売ってやる。先ずは釣りに行け!」
やり取りを聞いていた釣り人達が、それぞれ用事を思い出して帰っていく。残ったのはほんの数人。予約も数を絞ろう。200…いや今回販売分と合わせて350セットの限定販売。残り110セットのみでの受付にしよう。
さてと、やっとこっちは片付いたな。辺境伯の動きはどうかな?タツミさんに聞いて見よう。
ファーマスの冒険者ギルドはいつも暇そうだな。この街に冒険者は居ないのか?
「タツミさん、辺境伯は何か言って来た?」
「ようリョータさん、冒険者がリョータさんに気付き始めたな。そんなにリールは売れたのかい?」
「ああ、多分辺境伯からの依頼だろ?俺を調べてるのさ。」
「何!?辞めさせるか?」
「ほっといて良いよ。酒の密造だけバレないようにしてくれ。」
「それは大丈夫だ。リョータさんも暫くは醸造所には近寄らない様にしてくれ。」
「ああ、今日は宿で大人しくしているさ。」
一旦宿に戻り、部屋から島に転移。
追加の釣具を作っておかないとな。
明日トーアさんに預けたら暫くは大人しくしておかないと…ちょっと釣りに行くくらいはいいかな?
ある辺境伯軍の兵士
領主様より命令があった。
内容はリョータ サワダ、魔王の監視だ。ジグマンに最初は1人でやるように言われたがゴネた。当たり前だ、まだ死にたくない。そもそも兵士の給料はそんなに高くないんだ。命懸けの任務なんかお断りだぜ。
ゴネにゴネて兵士から5人、他にも冒険者を雇って、ギルドを探らせる。
魔王の宿泊先は既に調べてあったので交代で張り込む。
運の悪い事にオレが張ってる時に魔王が動き出した。
十分距離をとって後を付ける。何年も住んだ街だ、隠れられる場所は頭に入ってる。
あそこはトーア雑貨店?近くを通り掛かった巡回の兵士を使ってメンバーを集める。1人じゃ裏口までは見れないからな。
表に2人、裏に2人を配置。何があっても良いように連絡役を1人。
巡回の兵士にも不自然にならない程度に巡回の回数を増やす様に指示をだす。
こちらの準備が整った頃、魔王が店先に現れた。
全員が緊張しているのが分かる。そんな中魔王は店先に手桶を置いては水を入れたり、裏手から荷車を引いてきては店先に停めた。
何をしているんだ?
気が付くと俺達以外にも人が集まってきている。
くっ、魔王と目が合った!どうする?逃げるか?いや、急に逃げ出したら追ってくるだろう、ここを離れるにしても目立たず、自然に、ゆっくりとだ。
そんな事を考えていると魔王は店の中に入って行った。逃げるなら今がチャンスだ。相方に離脱の合図を送り連絡役を探す。…が居ない!店内に入ったから裏口のヤツラに知らせに行ったか?
連絡役を探していると魔王が店から出てきた。
どうする。相方は少し離れたが、この距離で2人が同じ方向に動いたら怪しまれるか?
「皆さん、始めまして。私は新しい釣具、リールの開発者のリョータです………」
何を言っている?釣具?
周りの人々が一斉に店の方に動き出す。これは…逃げられない。仕方ない、人の流れに任せてオレも近づく事にする。
相方は道の反対側で、連絡役は店の角からこちらを見ていて動こうとしない。
クソ!行けば良いんだろ行けば!
魔王の紹介する釣具は画期的な物だった。任務中という気持ちが邪魔をして出遅れた。しかし、何とか竿だけゲット。リールは予約した。
魔王に質問するチャンスがあったので、それとなく質問した。
何をしに来たのか?いつまで居るのか?
米を仕入れに来たそうだ。
醤油が気に入ったそうだ。
帰る日は決まって無いが、そこまで長くは居ないそうだ。
辺境伯は何を我等に探らせているのだ?
トーアの店で魔王様にルアーフィッシングなる物を教えて頂いた。
釣りをスポーツとして考えるのか。釣りは嫌いでは無いが、釣れない時間が続くと待っているのが辛くなるが、これなら私でも飽きずに楽しめそうだな。
ルアーを自作するのか。後で商業ギルドにも行って見よう。なんと、朝から何も食べて居ない?そ~言えば私もだったな。連絡役に何か買ってこさせよう。
おっ、移動するみたいだな。私は顔が割れてしまったのでここまでだな。後は4人に任せて商業ギルドに行くか。
その後、対象が宿に戻ったと報告が来た為、2人を残して領主様に報告に戻った。
「どうだった?」
「はっ、魔王は数日前にファーマスに入り、1度薬草採集の依頼を受けております。その日の内に達成し、その後はトーア雑貨店、ベルリック百貨店に行った事が確認されています。本日はトーア雑貨店にて釣具の販売を手伝っておりました。こちらに来た理由は米と醤油の購入だそうで、後数日は滞在する様です。」
「ディニクの先からわざわざ米を…?分かった。もういいぞ、下がれ。」
「はっ失礼致します。」
確か…少し前にディニクの行商が結構な量の米を買って行ったと聞いた。あれが魔王の為だったとすると不自然な点は無いか…こちらに来て数日とすると、まだ米の購入は済ませて無い。
なるほど…目的は米を買い叩くと言った所か…
さて、どんな手紙を書きますかね。




