80話目 レジェンドサワダ
ファーマス辺境伯Side
魔王…リョータ サワダか…
奴隷は解放したというのに、一体何をしに我が領地まで来たのか?
ナファソでの騒ぎを治めたらしいが、たとえ魔王と呼ばれていようが1人の人間に過ぎん。恐らくナファソの領兵に担ぎ出されてうまく使われただけなのだろう。
その証拠にナファソの兵士が貴族に取り立てられたが、サワダに何か褒美をやったと言う話は聞いていない。
まぁ所詮は若造。
儂が上手く使ってやろうではないか。
「閣下、御報告がございます。よろしいでしょうか?」
いつもよりノックが粗いな。ジグマンめ、何を慌てているのやら。
「入れ。」
「失礼したします。申し訳御座いません。先程リョータ サワダ様がお見えになりましたが、対応を誤りまして…酷くお怒りになり、そのまま帰られました。」
「何!?帰っただと!会いたいと言って来たのはヤツの方だろう。対応を誤ったと言ったな!話せ!」
「はっ。冒険者ギルドの馬車を我々一同でお出迎えしました。最初に冒険者風の男が降りて参りまして、その後ギルド長、サワダ様と続くと思い頭を下げて待機していたのですが、そこで冒険者風の男が話し掛けて来たので諌めました。しかし、その男がサワダ様だったらしく、我々の対応にお怒りになり、そのままお帰りになられました。申し訳御座いません閣下。護衛の冒険者と思っておりました。」
「そうか、ふむ……」
まぁ礼を失したのはこちらだが、そこで帰るほどの事か?
ただの気の短い若造ならば良いが、中々知恵も回ると噂の男だ。何か意味があってやっているとすれば、あまり下手に出るのも上手くないか…
ただ何もしない訳にも行かないな。
「後ほど手紙を書こう。宿泊先やヤツの足取りを調べておけ。」
「かしこまりました。失礼致します。」
さて、手紙は…報告を受けてから考えるか。先ずは魔王が来ると聞いて顔を青くしていた息子を安心させてやらんとな。
怒って暴れられては面倒だったが、魔王と言えども辺境伯を相手にするのは分が悪いと踏んだか?
向こうが喧嘩はしたくないと思っているなら、少し強く出て様子を見よるのも悪くないかの。
リョータSide
タツミさんのお祖父さん夫婦は既に他界しており、確認する方法は無くなった。
2人の名前も日本人とは思えない物だったし、普通に商人として生活をして天寿を全うされた。
商人と言う仕事柄多くの人に会っていただろうし、もし転移者、もしくは転生者がお祖父さんの周りにいたとしても特定は無理だし、まだ生きているかも分からない。いつまで話しても答えは出ないのでこの話しは終わりとなった。
「なんか私だけ仲間外れみたいで嫌なんですけど。」
シンシアが唇を尖らせる。
「もう、すねないのぉ!秘密を共有した仲間なんだから!」
「秘密の共有…ですか?」
「あー、私の衝撃の告白を無かったことにしてるぅ!」
「冗談です。そうですね、仲間です。獣人さんの為に頑張りましょう!」
うんうん、仲良くね。
翌日は朝からトーア雑貨店へ。
リール200個、竿240本を種類ごとに並べて行く。
「リョータさん?随分とリールの数が増えてますけど?それにこのサイズ!大銀貨4枚のヤツじゃ無いですかね?」
「そうなのか?50台はトーアさんに戻すから好きな値段で売って良いぞ。因みに俺は大銀貨2枚で売る予定だな。竿は短い方が大銀貨2枚、長い方が大銀貨3枚だ。」
「ん〜………分かりました!私も同じ値段でやらせて頂きます。」
「良いのか?特別にカスタムしてあるから、性能は王都の工房の物なんかより相当良くなってるぞ?」
「………では、自分用に2台…イヤ将来の家族の分も合わせて10台は手元に残して置きますかね。ははっ…」
そんなに残すのか…でも商人としたらそれが正解だな。この先20年経ってもこれを超えるリールが発売される事は無いからな。
何せ道具生成で作られるベアリングは完全な真球。それこそ魔法でも使わない限りってヤツだ。
店の前に障害物の荷車を置いたり、手桶を置いたりと準備をしていると、まだ開催時間の前だが人が集まってきた。
まぁ昼頃としか伝えて無かったし、始めてしまおう。トーアさんに一声掛けて、タックルを片手に集まった人達の前に立つ。
「皆さん、始めまして。私は新しい釣具、リールの開発者のリョータです。この街にたまたま訪れた所、こちらのトーア雑貨店さんにリールが並んでいるのを見まして、是非販売に協力させて下さいと、トーアさんにお願いしました所、快く…もう皆さんリールが気になって話し聞いてませんね。質問等有りましたら後で纏めて聞きますので、先ずはご覧下さい。」
2メートルの短い方の竿を構えると10メートルほどの距離に置かれた手桶に向かって振りかぶりルアーをキャスト。
手桶に張った水にルアーは無事着水。
延べ竿では想像できない距離まで飛んで行った事に驚きの声が上がり、手桶を狙って投げた事に気が付いて拍手が起こる。
「今日は街中なのでこの距離ですが、思いっきり投げると、短い方の竿で30メートル、長い方の竿だと50メートルくらいは誰でも投げられる様になると思います。もちろん練習は必要ですけどね。次は障害物を避けてのキャストになります。」
竿先をクルンと回してアンダーハンドでキャストすると、ルアーは荷車の下を潜ってその先にある手桶にチャポンと着水。
これにはさっき以上の大きな拍手が起こった。
ここで出来る実演はこんなもんかな?スキッピングも披露したいが、ここでは無理だし…。
後はまた別の人が集まって来たらやればいいか。
「実演は以上になります。質問が有りましたら手を挙げて下さい。」
全員かい!
「ではそこの方。」
「竿は今は使ってるヤツじゃダメなのか?」
「バカ、先ずは値段だろ!」
と、隣の人が突っ込んだ。
「竿はリールの取り付けと糸を通すガイドと言う部品が必要です。それと、仕掛けを投げ飛ばす事を考えて作られていますので、お持ちの竿にリールとガイドを付けても仕掛けを投げた時に折れるかも知れません。出来れば専用の物を購入して下さい。因みにお値段はリールが大銀貨2枚、竿は長い方が大銀貨3枚、短い方が大銀貨2枚です。不器用で糸を結ぶのが苦手って方は居ますか?必要になる糸の結び方を書いた紙をお配りしますので、絶対覚えるという熱意の無い方は購入を見送って下さいね。
因みに今回はご用意させて頂きましたのは、私がスペシャルカスタムを施してあります。もし王都の工房で買った物の性能が悪くても文句は言わないで下さいね。」
実演販売は2時間もしないウチに全て売切れた。
開始すぐに複数購入しようとした人がいた為、1人ワンセットとした。最期の方の人は竿しか買えて無いので、優先販売権を渡して帰って貰った。
誤算は糸が全く足りなかった事かな。
1台に糸を巻いた時点でトーアさん慌ててたからね。まぁ巻き方はお客さんにも教えておいたし、好みのラインを自分で巻いて下さい。
売上は金貨90枚…きゅ、9千万円…?
もちろんトーア雑貨店の過去最高額だ。
全部受け取っていいの?トーアさんの店の税金高くなったりしない?
後にこの時販売されたリールは、魔王スペシャルカスタムのモデルファーストとして貴族の収集家の間で高値で取引される事になる。




