79話目 タツミさん
「わかった。ファーマス辺境伯は王命を軽視し、形ばかりの奴隷解放で王を欺き、状況の確認と聞き取りに来た俺を屋敷に入れずに追い返す。そう言う事で良いんだな。タツミ、帰るぞ!」
そう言い放って馬車に戻る。
タツミさんはめっちゃ慌てて居るが、俺が腰に手を回して押しているのでされるがままだ。
見た目は優しく誘導している様に見えるが、それなりに力入れてるからね。
「リョータさん、良いのか?それに勝手に王の名前を出すのは不味いって!」
「ん?大丈夫じゃない?ヨークデリア国内をふらふらしますねって言ってあるし(ブレナンさんに)、王命を履き違えているのはアイツらだし。」
だってあの対応は流石にねぇ。
辺境伯邸に着き、馬車を降りると執事さんやメイドさんが整列していた。
ただ俺が降りても直立のまま。
タツミさんが降りてくると全員が頭を下げて…そのまま暫く全員無言で固まったまま。
「何これ?これは何のじか…ん」
「静かに!下男がいつまでも真ん中に立っているものでは有りません。主に道を空けなさい。」
怒鳴られた。めっちゃ睨まれてる。
は?
「下男って俺に言ってんの?」
何か言おうとしていたタツミさんを手で制して俺が言うと、執事さんは玄関前に控えている兵士に目配せ。兵士は2人がかりで俺の両腕を抑えて脇に寄せようとする。
え?何これ?わざとやってんの?
抵抗したら剣抜いたけど?流石にそれは許せないよ?
「…抜いたな。」
素早く腕輪からフラガラッハをだし、魔力を纏わせてから抜剣すると、そのまま兵士の剣に斬る。
「辺境伯への手土産に、魔剣フラガラッハを持参したが、どうも歓迎されていなようだな。」
斬り飛ばした兵士の剣が地面に転がる。
「これは必要無かったようだ。」
そう言ってフラガラッハを粉々に砕く。
で冒頭に戻るって訳だ。
「アルベール辺境伯の所はこの格好でもちゃんと接してくれたんだけどなぁ…」
あっ、そ~言えばアルベール辺境伯とはオークションで顔を合わせてたっけ?
いや、でもタツミさんと同じ馬車で来た俺に対して剣を抜くってあり得ないだろ?
「これからどうします?明日にでもオレが辺境伯の所に行って来ますか?」
「こっちから行く必要は無いよ。今回の件、こちらに非は無い…よね?」
無いよね?そうだと言って!
「ええ、流石にあの対応は無いですね。普通の貴族が相手なら執事長と兵士はあの場で切り捨てられますね。」
だよね!良かった!…良かったか?
「まぁ済んでしまった事は仕方ないな。うん、仕方ない!後は辺境伯が何か言ってきてから考えよう。さて、明日はトーアさんの所で出張販売のお仕事だな。っとその前に、どっか飯食いに行こうぜ。貴族飯の代わりだ。俺が奢るから、シンシアも連れてパーっと行こう。」
「トーア雑貨店でお仕事ですか?いい関係の様ですね。あそこが味方に付いてくれるなら、多少街が混乱しても住民は安心でしょうな。」
「随分とトーアさんを買っているね。まぁ悪い人では無いと思うけど。そーだ、リックさんも協力してくれるってさ。詳細はシンシアも含めて飯食いながら話そうか。」
リックの前世の事とかは話さない方が良いよな。上手く誤魔化せれば良いけど。
「リョータおかえりぃ!ねぇねぇ、早くない?タツミさんが出ていってからまだ1時間も経ってないよ?どーしたの?嫌いな物でも出てきたの?」
ギルドにシンシアを迎えに行くと、そこにはリックがいた。
「いやぁ~、殺されそうになったから逃げできたよ。」
「えぇ!なんでそーなるのさぁ?ご飯に呼ばれたんじゃないの?」
「そーなんだけどさ。それより腹減っちゃったよ。飯食い行こうぜ。リックも来るよな?俺の奢りだ。」
「行くぅ!話しはご飯食べながら聞かせてね。」
ふぅ…満足じゃ。
ここは冒険者ギルドの息のかかった店。
もちろん日本酒がある。更にリック監修の醤油も取り入れており、メニューには冷奴もある。
リックにワサビの心当たりを聞いたが、実物を見たことが無いから分かんないって言われた。まぁ高校生では本ワサビを使う機会も無いだろうしな。
俺か?俺は有るぞ?
渓流釣りで山奥まで行くと結構ワサビ園とかあるんだよ。
廃業したワサビ園の下流とかだと、野生化したワサビが生えてたりもするしな。
栽培された物とは比べようも無いほど小さなワサビしか採れないけどな。
「んで、辺境伯のお家で何があったのさ?」
「その前にちょっと良いですか?リックさんとリョータはなんでそんなに仲いいの?リックさんてそんな話し方して無かったですよね?」
「あれぇ。シンシアちゃん、それは嫉妬かな?嫉妬だよねぇ?」
「ち、違います。不思議に思っただけです。会って間もない筈ですし、歳も離れているのに…」
「歳…シンシアちゃん、酷いよ…。」
「あぁ、ごめんなさい!別にそーゆう意味で言った訳じゃ無くてですね…」
「あははっ、冗談よ。なんて説明したら良いかしらね?…私には生まれる前の記憶が残ってるの。そこはこの世界じゃ無くて、たぶんリョータが元居た世界。それでね…」
リックは何でも無いように話しているが、聞いているタツミさんとシンシアは驚いている。
「タツミさんも驚くんだね。名前的にタツミさんも転移者かと思ってたんだけど。」
「いえいえ、違いますよ!そんな訳無いじゃないですか。」
滅相もないと首を振るタツミさん。
「タツミってリョータのいた世界だと良くある名前なの?」
「数は少ないと思うけどいる。って感じかな?俺のリョータはそれこそ、そこら中にいるけど。
タツミは字によるけど、龍と蛇を意味する字が使われる事が多いかな?
龍の強さと、蛇の不死性や成長を併せた名前だね。」
「龍の強さは分かるけどさ、リョータのいた世界の蛇は死なないの?アンデッドとか?」
「いいや、普通に死ぬよ。ほら、蛇って脱皮するでしょ?それが古い体を捨てて、新しい体になる。って言われて不死とか、成長するとか、そんな縁起の良い意味が込められているんだよ。」
なるほどぉ〜と感心しているシンシアと何故かドヤ顔のリック、驚きの表情のタツミさん。
「あの…その話し、死んだ祖父さんから聞かされた事があるんですが…」
なんと!タツミさんも異世界関係者!?




