78話目 転生者 リック
連れて来られた女性はこの店の代表の1人のリックさん。特級職人証を見せると3階の奥にあった応接室に通された。
「先程は取り乱してしまいまして、大変失礼致しました。ベルリック百貨店、共同代表のリックと申します。」
「気にしないで下さい。リョータ サワダと申します。」
名前を告げると明らな驚愕の表情。
この人絶対転生者だよ。
「お気付きの通り、私は元?で良いのかな?日本人ですよ。」
「そうよね!沢田だもんね!私は前原 梨花。って言ってもこっちではリックって名前だけど。沢田さんは黒髪で黒目だよね?こっちで生まれ変わったって訳じゃないの?」
日本人ってわかった途端に馴れ馴れしくなったな。とは言え気持ちはわかるぞ。
リックこと前原 梨花さんは、高校生の時に友達と海で遊んでいた際に溺れてしまい、気が付いたらこちらで赤ちゃんになっていたと。
その頃は両親と共に王都で暮らしており、リックさんが7歳の時にファーマスに移住。王都の大きな商店から独立してこの地にベルリック商店を開店。前世の知識で両親にアドバイスをし、両親と共にお店を大きく発展させて今のベルリック百貨店と名前を変えて営業を続けているんだとか。
「ねえ、魔王リョータ サワダってあんたよね?マジで何やったの?」
俺は雷に打たれてからこれまでの事をかい摘んでリックに話す。
「あーねぇ〜。まぁ気持ちはわかるよ。私も奴隷とか無いわ〜って思ってたし。つかさ、リョータマジチートよね。私神様とか会って無いんだけど、ずるくない?ねえ!私もその島連れてってよ。魔法使って見たいぃ!」
「おい、お前今はいい年だろ。なんだその喋り方は?」
「いいじゃんいいじゃん。久しぶりに日本にいた頃思い出してんの!いや~あの頃は良かったなぁ。こっちは携帯もテレビも無いし、そのくせモンスターがいるとか!無いわ〜。小さい頃は魔法使えるかもって思ってたけどさ、教会で「才能有りません!」だって、マジ無いわ〜!って事でお願いね。転移魔法とかマジ憧れるんですけど!」
「わかった。ただ、悪用はするなよ?強くなって悪さしだしたら俺が責任を持って殺すからな?」
「うわ、殺すとか引く、マジ引くんですけどぉ〜!流石魔王様、さすまおだね!」
くっ、ちょっと古い言い回しがイラッとする。まぁ高校まで日本に居たなら悪さしないかな?しないよな?
「その魔王様はこの街の獣人達の扱いが気に入らないんだよね。何とかしたいから協力してくれ。それが島に連れて行く条件な。」
「あーそれウチのバカにぃが絡んでんだよね。私もいい気しないし、良いよ。協力する。」
「あれ?お前の店では食料品は扱って無かったよな?」
「うん、置いて無いよ。賞味期限の管理とかダルいし、普通はあんまり儲からないからね。アイツ奴隷解放ぉ〜ってなった時に仲買い見たいな事始めてさぁ、ウチと取引のある商会使って獣人さん達イジメてるみたいなんだよね。でも、冒険者ギルドが庇ってるでしょ?アイツビビリだから、自分が前に出るのはイヤみたいよ。怖いならやんなきゃ良いのにね。」
「じゃあ遠慮無くやらせて貰うよ。」
「それよりそれよりぃ、香水入れる瓶作ってよ。可愛いヤツ!メリッサ夫人にプレゼントするんだ。」
「メリッサ夫人?」
「うんうん、辺境伯の奥さん。もう50歳くらいなんだけどね、優しくって可愛いんだよぉ。」
「可愛いヤツはちょっと自信無いな。デザインはリックが考えてくれ。」
「任っせてよ!すっごく可愛いヤツかんがえるね。」
それからはリックと一緒プリンを食べたり、日本にいた頃の話しをして盛り上がった。リックは30数年前にこちらに来たが、日本で溺れたのは俺が雷に打たれる2年前の夏だと思われた。
そして何と醤油や豆腐はリックが関わっていた。味噌も開発中でそろそろ完成しそうだって。グッジョブだ!
アルベールで仕入れた大豆をあげよう。
随分と話し込んでしまったので、宿に戻るとすぐに辺境伯へ渡すプレゼントの制作に取り掛かる。
先ずは魔力を通しづらい合金の模索。
様々な鉱石を混ぜて、硬く割れ易い、かつ魔力の通りの悪い金属。
以前王都の冒険者ギルドでリールを作った知識が役に立ったな。
ミスリルを基本に銅とカーボ鉄を少量。
色味はほぼミスリルだが、硬度が硬い分、弾性や粘りが無く、衝撃に弱い。そんな合金でカッターの刃程の厚みの剣を作った。
試しに折り曲げて見ると、全く曲がることなくポリンっと折れる。卵の殻位の強度しか無いな。魔力を通してから鉄鉱石に刃を当てると、大した抵抗もなくストンと切れる。魔力を通すのに苦労したけどね。
よし、魔剣フラガラッハと名付けよう。
裸のまま渡す事は出来ないので鞘も作らないとな。フラガラッハの綺麗な刀身が見えるようにガラスで作るか。
実用性を全く考えていない、この魔剣に相応しい実用に耐えられない素晴らしい鞘になるだろう。
何度作り直しても鞘から出す時に剣が折れる。たまに成功しても仕舞う時に折れる。ちょっと刀身を短く60センチで作り直し、更に峰と鎬(この剣に鎬なんて無いけど)の辺りに僅かにガイドを作って干の字の様にすると、何とか抜剣と納刀は折れずに出来た。
ただ今度は物を切るとガイドに当たって折れた。ミリ単位、ミクロ単位の調整をして何とか折れずに全ての動作が出来る様になった頃、タツミさんが馬車で迎えに来た。
「なぁ、その格好で行くのか?」
タツミさんが呆れた様に問いかけてきた。
「え?ダメ?どの貴族に会うときもこんな感じの格好だったけと?何なら王城もこれで行ったし。」
「そうか…なら何も言えんな…」
俺は相変わらずのデニムにロンTだ。
デニムは染料が見つかったので紺、までは行かないが青っぽくなっている。
「文句言われたらコレが異世界の正装だって言うよ。」
「そうなのか?異世界は服装に気を使わないんだな?」
「もちろん嘘だ。異世界でもいい店だと入店を断られるレベルだな。」
「……そうか」
タツミさんは優しい微笑みを浮かべて、車窓から流れる街の風景を見ている。
良いんだよ!俺は喧嘩を売りに行くつもりで向かってんだから!




