70話目 へうっ
今日はナファソ領で獣人解放が行われる。前回行った時に手土産を持って行って無かったので、今日は砂浜からスタートだ。
さて、切子硝子、螺鈿細工と作ったが、今回は何が良いだろうか?
硝子繋がりでオパールグラス?伝統工芸繋がりでつまみ細工なんかも良いかも。
どちらも派手になり過ぎず、ナファソ夫妻に合いそうだな。
オパールグラスを幾つか渡して、つまみ細工も侯爵にはブローチ、夫人には髪飾りで、お揃いにしたらいい感じかな?
まずはオパールグラスだな。
よし、道具生成っと。
この前の円卓が8人掛けだったから、その分あればいいでしょ。
さて、布はどんなのが有ったかな?
おっ、王都で買った絹っぽいのが残ってるな。コレは良いのが出来そうだ。
道具生成っと。
良いね。白を基調に薄いピンクが入った髪飾りと同じく白を基調に薄い黄色の入ったブローチ。
同じデザインだけど、違う雰囲気。
良い出来じゃないか。
あぁ…こうなると入れ物も拘りたくなって来るな。貝殻はまだあるし、ちょっと森に行こう。
やり過ぎた。
いや〜螺鈿細工で入れ物作ったらさ、今度はつまみ細工が貧相に見えちゃってね?こっちにも削った貝殻貼り付けてみたりさ。そしたらこう…ゆらゆら揺れる様にしたいなぁなんて思って追加で付けてみたりして。ちょっと派手になっちゃったね。
それにブルートさんのお祝いも有った事を思い出してね。家族いるって言ってたけど、何人いるか聞いて無かったなぁってなって、取り敢えずオパールグラスを6つと、侯爵より派手にならない様につまみ細工と螺鈿細工の箱を作って完成。
うん、もうお昼過ぎてますね。早く行かないと。
急いでナファソ領の門に向かうと、既にブルートさんが待っていてくれた。
「あっ、ブルートさん!すいません、遅くなりました。侯爵に手土産を用意していたら興が乗ってしまって。」
「大丈夫ですよ。獣人の皆さんは侯爵邸の中庭で食事をとってもらってますから。ただ、侯爵が不安がってましたから急ぎましょう。」
御者さんに急いで貰って、侯爵邸には程なく到着。
先日の対応に何か不手際があったのかと、心配して侯爵が青い顔をしていた。
ホント申し訳無い。
「いえいえ、私こそ先日は手土産も持たずに伺ってしまってすいませんでした。それで手土産を用意していたら興が乗ってしまってですね。どうぞ、こちらをお収めください。」
申し訳なさ過ぎて早口で一気に言うと、用意した手土産を渡す。
「……えっと?こちら、を?」
あれ?あんまり反応が良くない?
「どうぞ、開けてみてください。きっと気に入って下さるかと。今までで1番時間を掛けて作りました自信作です。」
「あ、あぁ…へうっ。」
螺鈿細工の蓋を開けた侯爵は、変な声を上げて後ろによろける。
「どうです?あれ?侯爵、大丈夫ですか?侯爵!」
「旦那様!しっかりして下さい、旦那様!」
おお、執事さんナイス!後は頼んだ!
侯爵は執事さんに肩を支えられ近くの椅子に座らされた。
「ロレンソ、どうしたの?大丈夫?」
ケイト夫人も心配そうだ。
「あぁ…ケイト、大丈夫だ。…腰が抜けた。」
侯爵は力なく笑って答える。
やっぱりやり過ぎたか?
その後、手土産を見たケイト夫人も目眩を覚え、他人事の様な反応のブルートさんにお祝いを渡して卒倒させた。
ちょっと3人に休んで貰っている間に中庭で獣人達とバーベキューを楽しみ、日が傾いてきた頃にやっと復活してきた3人と話す。
「いや〜驚かせてしまって申し訳ありません。」
「いいえ、サワダ様が謝ることではありませんわ!素晴らしい贈り物ですもの!あぁ…蟄居の身で無ければ、あれを身に着けて王城のパーティーに行けたのに…」
「ええ、本当に素晴らしい品を頂いて…ホントに頂いていいんですよね?」
侯爵は少しおどけて聞いてきた。
「もちろんです。街で侯爵の噂はお聞きしました。民の事を考えてくれる良い領主様だと誰もが言っておりました。そんな方への贈り物だからこそ、あのような作品が生まれたのです。あれ等は侯爵の為に作った物ですから、侯爵に使って頂かないと困ります。」
「ありがとうございます。サワダ様と、そして我が領民に感謝して、大切に使わせて頂きます。」
うむ、くるしゅうない。
「あの…私もよろしいのですか?本当にサワダ様からは頂いてばかりで…」
とても申し訳無さそうな表情のブルートさん。
「お祝いですから。俺からの気持ちです、受け取って下さい。ブルートさんのおかげで流れなかった血があります。失われなかった命があります。貴方は戦を停めた英雄でもあるんですよ。」
「私はサワダ様に頼っただけです。私は、私だけでは何も…」
「いいえ、それは違います。俺が居なくても貴方は何とかしましたよ。上手く出来なかったとしても、流れる血は減らせたと思います。周りに流されず、私欲に負けず、最善を願って行動した筈です。そんな貴方に、私からのエールとして贈ります。受け取って下さい。」
「…はい、ありがとう、御座います!」
うむ、よきにはからえ。
おい夫人、そんな顔するなって。
さて、騒ぐ雰囲気じゃ無くなって獣人達が気不味そうにしているし、そろそろお暇しようかね?
「ではナファソ侯爵、我々はそろそろお暇させていただきます。戻ってからも、彼等の家を割り振ったりとやる事が有りますので。」
「遅くなってしまって申し訳無かったね。腰を抜かすなんて初めての経験だったよ。」
「気に入って頂けたなら良いんですよ。」
ナファソ夫妻、ブルートさんを始め、屋敷の使用人にも挨拶をしてから、獣人達に向き直る。
「これから私の治める街の近くに転移します。たまに気分が悪くなる人がいるので、その時は遠慮なく言って下さい。」
集まった獣人達を見渡すと、期待と不安が混じった表情を浮かべる人が殆どだ。
いきなり転移魔法なんて言われるんだから、それもしょうがないか。
「では、皆さん、お世話になりました。」
侯爵達に改めて挨拶をして、島に向けて転移魔法を発動した。
「とんでもないお方だったな…」
「本当に…あれだけの人数を転移魔法で移動出来るなんて…それに頂いた髪飾りもオパールグラス?も、どちらも価値が計り知れないわ。」
「ああ、ただ幸いにもいい関係が築けそうだ。ブルートにも感謝しないとな。」
「本当にそうよね。独立が失敗したのも、今となっては良かったとさえ思えるわ。あの方を敵に回さずに済んだのだから。」
「…奥様、あの時は本当に申し訳…」
「いいのよ。あれで良かったの。こちらはほぼ無傷で切り抜け、ブルートが旧グリマス領を治める事になった。これからはナファソとブルート、更にディニクと連携してサワダ様との関係を築いていきます。
貴方、今回の顛末を宰相殿に報告しておいて下さい。……髪飾りとブローチの件は、なるべくぼかして伝えてね。」
そう言ってケイトはロレンソに、イタズラっぽく微笑みかける。




