68話目 浮かぶ扉
冒険者の朝は早い。
日が昇る頃には目を覚まし、ガッツリ目の朝食を食べ、冒険の準備をする。
朝一番でギルドに訪れ、割の良い依頼を探す者、門が開くと同時に街を出て、ダンジョンに潜る者。
ランクが高く、稼ぎの良い冒険者の殆どが規則正しい生活をしていると言っても良いだろう。
逆に夜中まで酒場をうろつき、昼過ぎに動き出す様な冒険者は低ランク低収入で将来性も無い、ゴロツキと大差無いダメ人間だ。
「リョータさん、起きて。もう出ないとルームメイクの人が来ちゃうわ。」
横を向いて眠る俺を後ろから抱きしめ、耳元で囁く。
「んん~、おはよう、ルイーズ。今何時?」
「もうすぐお昼になっちゃうわ。私も一旦帰らないと。」
「もうそんな時間か…シャワー浴びる時間もないし、浄化だけでもかけておくよ。」
「ありがと。また遊びに来てくれる?」
「気が向いたらな。」
どうしてこうなったのか…
昨夜、外で夕食を取ろうとギルドを出て、とりあえず街の中心部の方へ。
ただ、気取った店が多く、冒険者の格好でも気軽に入れる店を探していた時に女性に声をかけられて…彼女に案内され店に入り、一緒に食ったり飲んだり、2軒目に行こうと連れてこられたのがこの娼館。
まぁそんな事もあるか…
さて、遅くなってしまったがダンジョンに向かおう。昼メシは向かいながら適当に済ませればいい。急げば10階層の石碑までなら行けるだろ。
お昼を少し過ぎた時間。
昨日と違ってダンジョンの周りは閑散としていた。まぁ、お昼を食べる為だけににわざわざダンジョンから戻って来る人は居ない。
ダンジョンへ降りてすぐの所に石碑はある。長々と文字が書いてあるが、これに触って行きたい階層を思うだけで移動出来るので気にしない。
1部の研究者がダンジョンの石碑の技術を使って転移の魔導具が出来ないか調べているんだとか。 俺は転移魔法使えるから興味ないな。
石碑に触れて5階層に降りる。ここから6階層への階段はすぐ近く。
ここから先は少しづつ上位個体が混ざるようになるが、全く問題無いな。見つけ次第魔法で倒して、ズンズン進んで行く。順調に9階層まで降りた所で、通路に浮かぶ扉を見つけた。
上部がアーチ状になっている両開きの扉。クラシカルなデザインのど◯でもドアって感じだな。
この扉に関してもギルドで調べた情報にあった。 ランダムで出現して、扉の中もランダム。
一番多いのがセーフルームで、大当たりだとコレクションルーム。ハズレは転移罠でパーティーがバラバラに飛ばされたり、モンスターハウスでボッコボコなんて言うのもあるらしい。
ギルド曰く余裕がない時は入るべからず。
ギリギリの状態でモンスターが大勢出てくるモンスターハウスや、何処に飛ばされるか解らない転移罠にかかった場合は、まず生きて帰ることは不可能との事だ。
うん、入ってみよう!
ノータイムで扉を開き中へ入る。
が…何もない空間が広がるだけ。
広さはバスケットコート程で、天井は5メートル程だろうか?2階までの吹き抜け程度の高さだ。
罠にかかるのは嫌なので、土魔法を使って床を調べるが何もない。
はぁ…セーフルームかな?でも、調べた話しよりだいぶ広い空間。
う〜ん…外れか……
そのまま部屋を出ようとして振り向き、気付く。
扉が無い。
えっ?閉じ込められた?
ギルドにそんな情報は無かったが…もしかして、誰も脱出する事が出来なかった為に情報が回って無い?
嫌な汗が背中に滲む。
いやいや待て!時間経過で開くとか、何か条件が有るのかも知れない。
取り敢えず床以外の場所も調べよう。
四方の壁を調べて、スイッチや抜け道が無いか調べる。
しかし何も無い。
後は天井か?だが調べようにも届かないぞ?
そうだ、土魔法で足場を作れば届く。
が…やはり天井にも何も無い。
マジかよ…詰んでないかコレ…
あっ!転移!
最初にナファソ近くの平原をイメージして魔法を使ったが発動しなかった。次に5階層の石碑をイメージすると、無事に転移する事が出来た。ダンジョンの外への転移は出来ないみたいだ。
しかし焦った…死んだかと思ったぞ。
いやぁ~落ち着いて考えれば何でも無い事なんだが…全く情報の無い状況に置かれて慌ててしまったな。
しかも俺以外だったらホントに詰んでいただろう。部屋を調べるのにかなり時間が掛かってしまったし、今日はこのままギルドに戻って報告だな。
冒険者ギルドは探索を終えた冒険者で賑わっていた。混み合うカウンターに並び、少し待つと俺の順番が回ってきた。
「ちょっとダンジョンの事で報告したいんだが良いかい?」
「リョータさん、おかえりなさい。また"剣戟の果て"の人達に絡まれました?」
「いや、【浮かぶ扉】についてだ。9階層で見つけたんだが、中々凶悪な仕様になっていてな。ギルドで調べた情報にも無かったから報告しておいた方が良いと思ってな。」
「【浮かぶ扉】の新情報ですか…ちょっと待ってて下さい。」
少しして、奥から男性職員と一緒に戻って来た。
「リョータさん、お話しはこの方にお願いしますね。」
「初めまして。私はここの副ギルド長のアベルと申します。詳しいお話しを伺いたいので、別室をご用意しました。こちらへ。」
アベルと名乗った男はカウンターを出て2階へ。俺もそれに付いて行くと、応接室っぽい部屋に通された。
では早速…と促され、今日発見した【浮かぶ扉】の事を話す。
「なるほど…ごく稀に、ですが高ランクのパーティーが一切の痕跡なく失踪する事案が発生しておりましたが…コレが原因と考えると納得出来ますね。直ちに冒険者へ伝え、【浮かぶ扉】の危険性を改めて周知します。ギルドから情報料が支払われますので、後でカウンターで受け取って下さい。」
副ギルド長との話しも終わり、1階に戻るとカウンターに並んでいた冒険者達は、既に食堂で酒を飲んで騒いでいた。
俺も今日はここで飯にするかな。
残念ながらシルバーオークは既に売り切れ。肉セットは通常オークのグリルだった。
ワインを飲みながら周りの声に耳を傾け情報収集していると、先ほど話した内容が発表され、依頼の掲示板横にも大きく張り出された。のは良いんだが…情報提供者に俺の名前が…
直ぐにカウンターに行って名前を消して貰ったが、かなりの人数が発表を聞いていたし、カウンターで騒ぐ姿も目撃された。きっと直ぐに噂は広まるだろう。
目立ちたく無いのに…1つため息を吐いて、この日は宿に戻った。
コレクションルームですが、扉の中には様々なアイテム、武器、魔導具等が並んでいて、1つだけ持ち帰れるって仕様です。東北地方に伝わるマヨイガのイメージですね。何も持って行かないと幸運が訪れるってなるんですが、強欲な冒険者は必ず何か持ち出そうとするので、その情報が広まる事は今後も無いでしょう。




