67話目 剣戟の果て
さて、無駄な時間を過ごした。
ダンジョンの階段を降りると、そこは広い洞窟の中の様になっていた。
所々、壁や天井が光を放つ謎仕様。
ギルドの情報を元に、下へ降りる階段に向かって歩き出す。ポチャンポチャンと雫が天井から落ちている場所があり、その付近には苔や植物が茂っている。きっとそこに薬草が混ざっているのだろう。
20分程歩くと2体のゴブリンと遭遇した。ダンジョン内の魔獣は外の魔獣と違って俺を見ても逃げ出したりしない。
いい機会なので。太刀とカイを使って丁寧に倒して行く。
振り下ろされる棍棒を躱し、弾き、体勢を崩した所に攻撃を入れる。
最初は手首や足に攻撃を入れ、魔獣の攻撃や移動を阻害、そこから致命になる一撃を入れていく。
その後も出会った魔獣は、祖父に習った型を思い出しながら、防御する事に重点を置きながら落ち着いて倒して行く。
うん、しっかりと敵の動きは見えるし、魔獣を斬る感触に忌避感はない。
これなら問題ないな。と思っていた所で下に降りる階段に辿り着いた。
その後も時折現れる魔獣を魔石に変えながら進む。ギルドで下調べをしたので、1階層を1時間程で降りて行き、5階層迄一気に下った。
さて、まだ帰るには早い時間だが、このまま10階層迄降りるには時間が足りないな。転移の石碑の近くで少し戦闘訓練をしてから戻ろう。
そう考え石碑に向かって進んで行くと、入り口で絡んできた冒険者が待ち構えていた。
「そろそろ来る頃だと思ったぜ。」
そう言いながら腰の剣を抜く。
相手は5人、今回は周りにいる連中も揃って戦闘態勢に移る。入り口で絡んできたヤツラより数は少ないが、こういう場面にも慣れているようだ。
なるほど、俺が初めてこのダンジョンに入ると知って待ち伏せか…しかし、ゆっくり進んで来たからかなりの時間待っていた筈だが…
「お前等ずっと待ってたのか?遊んでないで働けよ…まぁ、訓練の仕上げに丁度いいか。よし、手加減してやるからかかってこい。」
「チッ、口の減らねえガキだ!やるぞ!」
男が仲間に合図を出すと、後方にいた者から魔法の詠唱が聞こえてくる。
魔法か…この世界の人間が魔法を使う所を見るのは初めてだが…魔法戦だと訓練にならないな。
腰から武器を抜きつつ、どうした物かと考える。魔法で相殺できるかな?と考えて手に魔力を集めると、握り締めた刀とカイが淡い光を放った。
試しにそのまま飛んできた火球を切りつけると、火球は音もなくその場で消滅した。
おっ、これいいな!
改めて男達に向き直ると4人がこちらに切りかかってくる。
右に大きくステップして、3人の間合いから外れ1番右の男と向き合う。
右から袈裟で振られる剣を刀で左に打ち払い…あれ?
相手の剣が切れてしまった。まぁいい、左に流れた体を蹴飛ばしておこう。
蹴られた男は前につんのめる様に転び、そのまま5メートルほどヘッドスライディング。ゴツゴツした岩の地面は痛そうだ。
すぐ隣の男が突きを放つ…が遅い。左手に持ったカイで弾いて懐に入り、担ぐように投げ飛ばしてやる。ちょっと力が入ってしまい天井に背中を打ち付けて頭から落ちた。
残りの2人が同時に突きを放つ。右に小さく躱して突き出された剣を2本纏めて叩き斬り、棒立ちになった1人を蹴り飛ばす。
また後方から魔法の詠唱が聞こえて来たので、口元に水球を浮かべて邪魔してやる。
「まだやるかい?」
最初に絡んできた男に問い掛けてやると、男は憎々しげにこちらを睨みつける。
まだやる気の様だ。
ちょっと鬱陶しいので魔法使いには寝てて貰おう。素早く移動して魔法使いの顎を殴りつけ、その場に昏倒させる。
残り1人、しかも剣は根元から折れてしまっている。
まだこちらを睨んでいるが、勝ち目が無いことも理解しているだろう。ゆっくり男に向かって歩いて行くと、男は半ばで切断された剣を放り投げて転移の石碑の方に逃げて行った。
おいおい、仲間を置いて逃げるなよ…
溜息を漏らし、蹴り飛ばした男の元に行き頭に水球をぶっかける。
「おい、そんなに強く蹴って無いぞ。大した怪我はしてないだろ?」
うめき声を漏らすだけで立ち上がれない男に慌てて再生の魔法をかける。
「お〜い、大丈夫か?」
「ゲフッ、ゴホッゴホッ、ああ…助かったのか…」
あれ、血ぃ吐いてるじゃん。ちょっと他の奴等にも再生かけておこう。
「他の奴等も治療しておいたぞ、とっとと帰れ!」
「なあ、コルカスはどうした。アイツは…殺したのか…?」
「コルカス?最初に絡んできたヤツならお前等置いて逃げ出した。友達は選んだ方がいいぞ?」
「ぐっ、すまなかった。もうあんたにゃ絡まねぇよ。」
意識を取り戻した2人が残りの2人を担いで石碑に向かって歩き出した。
頭から落ちたヤツと魔法使いが気を失ったままだが、ちゃんと息をしているのを確認したので大丈夫だろう。
さて、武器に魔力を流すヤツをもう少し試してから帰ろう。
刀に色々な魔力を流しながら、5階層を隅々まで探索して、魔獣を魔石に変えてから街に戻った。
手加減の練習も必要だな…
「魔石の買い取りをお願いします。」
「はーい、ギルド証の提示をお願いします。」
ギルド証を渡し、カウンターに魔石を並べる。
「おお、いっぱいありますね。ちょっとお時間いただきます。査定が終わりましたらお呼びしますのでお待ち下さい。」
受付嬢はまだ10代だろうか?話し方に幼さが残っているが、元気いっぱいで感じが良いね。
「あっちで飲んでるからゆっくりでいいからね。じゃあよろしく。」
「はーい。」
元気な返事を背中で聞きながら食堂へ向かう。
カウンターに座ると、ここでも元気な店員さんが注文を取りに来た。
「いらっしゃい。今日はシルバーオークの煮込みがありますよ〜。めったに出ないおすすめです。いかがですか?」
「シルバーオーク?」
「はい!正式にはシルバーバックオークって言って、ナファソダンジョンの13階でたまに出るレアモンスターです。焼いて食べるにはちょっと硬いんですけど、煮込みにすると絶品です。私の大好きなメニューなんです。」
「レアモンスターか、じゃぁそれとワインを頼む。」
「ありがとうございま〜す。銀貨1枚いただきま〜す。」
注文するとすぐにワインと料理が運ばれてきた。ここでのつまみは干し肉と炒って塩を振ったナッツ見たいな豆が出てきた。
ワインを一口飲み、おすすめの煮込みを食べる。
なるほど、焼いて食べるには硬いと言うだけあって、煮込まれているのにしっかりした噛み応え。口の中で肉の繊維が解け、噛むたびに旨味が広がる。スープにも肉の旨味が染み出し、それを吸った野菜も旨いな。味つけは塩と香草くらいだが、逆に肉の旨味を強調してくれている。13階か…明日は訓練はお休みにして最速でそこを目指そう。
シルバーオークを堪能し、ワインを楽しんだ後カウンターで報酬を受け取る。
「Eランクの魔石が36個でしたので、銀貨2枚大銅貨1銅貨6枚になります。お確かめください。」
1日の稼ぎとしてはかなり少ないか?いや、宿暮らしだからかな?ナファソに家が有れば駆け出しの1日の稼ぎとしては十分か?
「そうだ!"剣戟の果て"ってクラン知ってる?そこの奴等に絡まれたんだけど?」
「あぁ〜クランって言うよりゴロツキの集い?愚連隊?って感じですねぇ。B級冒険者さんに絡んでしまいましたか…残念な人達です。ここで活動している冒険者さんはC級以下が殆どなんです。だからC級になってトップクラスになったと勘違いしてるんでしょうね。他の街だとC級でやっと1人前って扱いの所もあるのに…そんな所も含めて残念な人達なんですよ。」
「そうか、それならあんまり気にしなくて良さそうだな。」
う〜ん、冒険者ギルドの受付にこの言われよう。
剣戟の果ての事は深く考えず、どっかで飯食ったら宿で休もう。




