56話目 アルベール領
さて、魔獣に襲われている村を辞してディニクに向かった。あっ、あの村の名前聞いて無かったな…まぁ小さい村だし、今後行く事があるか判らんが…
小さな村を救った英雄の話しを代々語り継いでくれ。
いつもは街の外に転移するのだが、今日は時間も遅く、門が閉まって居るかも知れないって事で冒険者ギルドの資料室に転移してきた。
下から酒を飲んで騒ぐ冒険者達の声が聞こえるので、こっちは異常は無いみたいだな。念の為ギルマスに報告だけでも入れておこう。
1階に降りると料理と酒と汗の混じった匂いが鼻を刺す。ちょっと前に浄化掛けた筈なのになぁ…おっと、ギルマス発見。
「お、リョータ!お前どっから現れた?」
「ちょっと気になる事があってね。資料室に転移させて貰ったよ。」
ワインを飲みながら森から魔獣が逃げて来るかもよ?と忠告させて貰った。まぁ"俺がここにいれば魔獣も引き返して行くだろう"とも伝えたので特に対応はしない。森に住むエルフについても、ウチの住人なので手出し無用のお願いをした。
一応ギルドに泊まって行けってさ。
翌朝、壊れかけのミリーちゃんを躱して温泉へ。
ここからだとアルベール領がよく見えるからね。
他国との貿易で栄えてるって話だし、海沿いの大きな街が領都だと思うけど…、あれかな?
腕輪から望遠鏡を取り出して観察。
西側の山から流れる河が掠めるように近くを流れ、街の規模は王都並、ディニクから島にやって来た船とは比べ物にならない位の大型船が泊まってるし、あそこで間違いないだろう。
望遠鏡を外し、改めて山に囲まれたアルベール領を眺める。
広い平地に豊富な水、農業も畜産も出来て交易もしている。近くの山に鉱山でもあれば完璧だな。
そりゃ栄える訳だわ。
って事で街から北に伸びる街道の近くに転移!この街道が東側に折れて、山間を抜けるのかな?後でどの辺を通るのか調べて見よう。
街道を歩く事30分ほど、アルベールの領都を囲む城門にたどり着いた。
高さは5メートル程かな?
元は他国の王都って事で立派な造りだ。
ちょっと建築様式が違うのがアルベール王国時代の名残なのかも知れないな。
胸壁や狭間の形が縦長なのは広い平地に対して仰角を取るためなのだろう。
もしかしたらワイバーンなどの飛ぶ魔獣対策なのかもね。
城壁を眺めていると門番さんに声をかけられた。
おっと俺の番か。身分証は…冒険者証でいいか。
「アルベール領は初めてかい?ここは珍しい物が溢れてるからね。中央広場では、運が良ければ人魚様が見られる。空いてれば広場周りの宿を取ることをおすすめするぜ。」
そう言いながら冒険者証を返してくれた。
「人魚様ですか?普通に見られるんですか?」
「まぁ、広場に行ってのお楽しみって奴さ。あんたもB級ならそこそこ稼いでいるんだろ?ちょっと良い宿に泊まってみなよ。きっと後悔はしないと思うぜ。」
と言う事なので街の広場に来てみた。先ずは宿を取らないとな。
広場の中央には、高さ4メートル、直径5メートル程の円柱があった。後方には水道橋が伸びていて、先にある貴族の屋敷と思われる家の2階に続いている。
水を湛えた円柱から零れ落ちた雫が浅い泉を創り、小さな子供達が無邪気にはしゃぎ声を上げている。
あの屋敷からをマーメイドが泳いで来るのかな?コレってどう言う扱いなんだろう?
見世物にしているのか、マーメイドさんの希望で皆の前で歌でも歌っているのか?コレットさん達も良く歌を歌ってるし、マーメイドは承認欲求の塊なのか?
広場が見やすい4階の部屋が部屋が空いていると言う宿に部屋を取った。
【女神の歌声亭】
女将さんの話しだと、夕方から夜にかけての時間で気まぐれに人魚様が歌声を披露して下さるんだとか。
部屋はワンルームで8畳程、風呂は1階の共同。ただ、広場側の部屋には全室テラス付きで、テラスには椅子とテーブルを設置してあるので、そこで食事やお酒を飲めるとの事だ。ただし、ホントに不定期開催で、天気の悪い日はまず来ない。出てきても、見物客の様子を見て帰ってしまう事もあるとか。
それで一泊朝食付きで大銀貨1枚。
ちょっと高くない?
ディニクで泊まったのが、リビングと寝室の2部屋に部屋風呂で、こだわりの寝具に朝夕2食付き、しかも変わったお酒飲み放題で銀貨6枚だよ?
へステア館は部屋と風呂はここと変わらないけど、あの食事が2食付いて銀貨2枚だよ?
マーメイドに慣れている俺としてはボッタクリ価格と思ってしまうが、ここに来る前の宿屋はいっぱいだったので、普通に暮らしている人達からしたら、マーメイドさんに会えるというのはそれなりに価値のある事なんだろうと納得する事にした。
部屋を押さえたので、先ずは市場巡りだな。お酒も買い足さないといけないし、貿易港って事だから、何か珍しい物も有るかもしれない。
女将さんに市場と酒の卸し業者の場所を聞く。
市場は南に魚介、北に精肉青果の市場があり、魚介を扱う市場の近くに酒の輸出入をしている商会が有ると教えてもらった。
まだ午前中、昼は肉にして、夜は魚介と酒を買って宿で食べるって事にしよう。
アルベール領は普通に獣人さん達も歩いているな。人魚様って言ってたり、あんまり差別はないのかな?
そんな事を考えながら、やって来ました精肉市場!
枝肉での販売みたいだな…ここは肉屋が買いに来る所なのか?でも主婦っぽい人が殆どだし…なるほど、枝肉から欲しい所を切って貰う感じか。でも内臓やタンは無いのか…
「よう兄さん、良いグラスバッファローが入ってるぜ!オレが1発で仕留めたからな。血も回って無いし痛んでる所も無い上物だ!」
「グラスバッファロー?ちょっと見せて貰えるかい?」
「おおよ!この辺じゃメジャーな魔獣だな。大人しくて育てやすいんだ。ちぃと餌代はかかるが、その分が味に反映するから育てがいもある。」
「確かに中々の脂乗りだな。内臓や舌は売ってないのかい?」
「なんだ兄さん文無しか?牧場の仕事手伝ってくれるなら飯くらい食わせてやるぞ?」
「この辺じゃ食わないのか?あんたの育てた牛なら絶対美味いのに…もったいないな。」
「ほぉ~兄さんはどっから来たんだい?後で牧場見に来なよ。内臓の食い方教えてくれるなら持って行って良いからよ。」
「締めるのは何時なんだい?なるべく新鮮な物が良いからな。あ、締めるのも手伝おうか?」
「おう、じゃあ明日の朝、1の鐘に西門迄来てくれ。迎えを出しておくよ。」
「分かった。締める牛には飯食わせないようにしといてくれ。それとは別にグラスバッファローを2頭分貰えるかい?」
「2頭?兄さんマジックバック持ちかい?おまけして金貨2枚と大銀貨7枚でどうだ?」
腕輪から金貨をだし、グラスバッファローをしまう。びっくりしているおっちゃんに、「じゃあ明日!」とだけ伝えて別の店へ。
市場を歩くと色々なお店がある。さっき見たいな枝肉を売っている店、ソーセージや干し肉、ハムやベーコン。流石に生ハムは無いな。
牛、豚、鶏は当然で、兎、鹿、猪なんかも序の口。熊、ヘビ、トカゲ、ワイバーンも並んでいる。
しかも大きさも様々で、ダチョウサイズの鶏や、ワニサイズのトカゲ、あれワニなのかな?兎も大型犬位ある。
ワイバーンの買取はやって無いって。
冒険者ギルド行けって怒られたよ。
お昼は小さな食堂で兎肉のシチューを頂きました。
アルベール領の料理はちょっと進んでいるな。きっと色々な国の食文化が混ざって進化したのだろう。
さて、精肉市場はこんなもんかな?
次は青果市場を覗いて見よう。




