51話目 テンヤ真鯛
翌朝起きるとウィルが迎えに来ていた。獣人婦人会の皆さんが朝食の試食会を開催中で、オレの感想を聞きたいらしい。
門の近くの大通りが会場だ。
まぁ馬車も通らないし、邪魔になる規模でもないので良いけどさ。
幾つかのグループに分かれて、それぞれが通りにテーブルを出し、どのグループが1番か決める大会みたいになっている。
えっ?俺が優勝チームを決めるの?やだよ。ご婦人達に恨まれそうじゃん。
てな訳で、参加者が自分のグループ以外に投票するようにして貰った。
どれも美味しかった。この世界ではトップクラスの美食だと思う。ただ、まだまだ工夫の余地あり。教えたばっかりだしね。
朝食を終えたら捜索の準備だ。眷属達に念話でお願いをして、探索に出る者達には武器、防具の支給。食糧はハーピィ便でお届けの段取りを組む。
やる事を皆に伝えたら釣りだ。暫く出来ないかも知れないからね。
今日は船のチェックも含めて沖に出る。ウナギの時にミシミシ言ってたから念の為だ。
近海の様子は眷属やマーメイドさんに聞いているので、魚の居そうな場所は大体わかる。
今日は真鯛狙いだ。居るか分からんけど。
タイカブラ、或いはテンヤと言われる昔から伝わる仕掛け。錘と針が合体した様な針に海老を付けて沈めるだけ。岩場の罠から餌になる海老を仕入れて出港!
港無いけど出港!
船は大丈夫そうだな。水漏れも無いし、歪んだりもしていなかった。
ポイントはマーメイドさん達の島との間にある潮の速い所にある淀み。
深さは60メートル程。底をとってからリールを2巻、時折アクションを付け、タナを変えつつ魚を誘う。
釣れない。当たりらしい当たりも無い。ただ不思議と餌だけが捕られていく。
すると海中から子供のマーメイドさんが上がってきた。手には海老を持っている。凄い笑顔だ。
話しを聞くと俺にバレないように餌を捕る遊びをしているたとか…
なんと迷惑で危険な遊びだ。親呼び出して説教してもらうぞ。
針には返しが付いていて、1度刺さると抜くのは大変で、めちゃくちゃ痛いんだよ、と教えると顔を青くしていた。
よし、ポイントを変えて釣り再開だ。
するとコツっと小さな当たり、素早く手首を返して合わせる。
しかし空振り…諦めずにゆっくりフォールさせて行くと食い付いた。
が、引きが弱い。上がってきたのはヘラブナみたいな形をした小魚だ。
リリースするか迷ったが、針を上顎に付け直して泳がせ釣りに変更。
海底付近に落とし直す。
のんびり当たりを待ちながら、亜人種と言われる人達の事を考える。
エルフやドワーフの待遇はどうなのだろうか?余りにも酷い扱いを受けている様なら力ずくでも解放をしようと思うが、技術を持つ彼等の扱いが悪いとは思えない。死んでしまって困るのは人間の方だしね。
俺が為政者ならむしろ厚遇する。
出来れば一族丸ごと囲いたいからだ。
下調べをしたい所だが、囚われているマーメイドさんは早めに救出したい。
島のマーメイドさん達には内緒にしてるし、俺の気が休まらん。
そんな事を考えていると、泳がせの餌が暴れだした。近くに捕食者が現れたのだろう。竿を握りしめ、竿先を見つめる。
瞬間グッと竿先が海面を叩く。魚に違和感を与えないように合わせて糸を送り出す。
喰い込ませる為に少し待つ………もう良いかな?
ゆっくりと重みを感じるまでリールを巻き取る。
よし、付いてる事を確認して、鬼合わせ!乗った!!
おーっ、叩く叩く!良い引きだ!
根に巻かれると厄介なのでゴリ巻き!
しかし重い!相当な大物だ!
糸はスキルで生み出した物なので大丈夫だが、針が折れかねないぞ。慎重に巻き上げてくると、魚はすぐに大人しくなった。
もうバテたか?サイズの割に体力のない奴だな。
上がって来た魚は思っていたよりずっと小さかった。70センチ程で見た目はウツボにホウボウの様な脚が付いている。まぁホウボウよりずっと太くて立派な脚だが…
そして鱗と言うには余りにも大きく、まるでスケイルメイルを着込んだかの様なボディ。頭にも大きな鱗がみっちりだ。そしてくっそ重い。タングステンかな?
多分100キロじゃ効かない位の重量感。船沈んじゃうよ?
これは1度港に戻ろう。港無いけど帰港だ帰港!
勢いで帰って来たが誰も出迎えてはくれないよ。もちろん知ってたさ。だがあえて言おうじゃないか。
「ただいまぁ!」
………うん、誰も居ない。
よし、作ろう、港を!
岩場から沖に向かって200メートル程の突堤、10メートル毎に裕次郎がポージングを決めるアレ、ボラードだっけ?それを間を空けて3列!
その外側に置き堤防も作ったらマリーナの完成だ!
停泊しているのは5人も乗ったらいっぱいの小舟1隻だけどな!
せっかくなので小舟をモヤイ結びで留めておこう。きっと大潮でも大丈夫。この世界には月無いし!ダメならまた土魔法で調整だ。そんな事をしているとコレットさんから声を掛けられる。
「リョータさん、お帰りなさい。ここを交易の拠点にするのですか?安全性を考えるのなら北側の方が良いかと思いますが?」
「……確かに安全性を考えるのなら北側の方が良いかもね。ただ、運搬の手間を考えるとダンジョンに近い此方の方が良いかなと思ってね。」
何も考えずに思いつきで作ったのは内緒だ。転移と収納を使った方が絶対早い。
「それよりこんな魚が釣れたんだけど、コレって食べれるかな?」
「あぁ!シンクモレイじゃないですか!鱗を取るのが大変ですけど、とっても美味しいですよ。私達の中ではごちそうです。ただ、捕まえるのが大変なんですよね。」
「確かに…すっごい重いもんね。竈の方で調理するから一緒に食べよう。」
うん、ムリ!捌けない。
お尻から包丁を入れてお腹を開こうとしたが、全く歯が立たない。仕方ないので口から菜箸を突っ込み内臓とエラを取り出す。
これも木製の箸だと折れてしまったので、鉄製の箸を作って何とか取り出した。
もうそのまま魚の姿蒸しにしちゃおう。身に火が通れば鱗もきっと取れるはず。
モノクルで確認すると肝と胃袋も食べられるみたいだ。食べやすい大きさに刻んで一緒に蒸しておこう。
臭み取りに清酒…は無いから、蒸す水の中に香草を幾つかぶっ込んで蒸す。
待ってる間にご飯も炊いた。
「お待たせー。シンクモレイの姿蒸しです。下味つけてないから、味つけは好みでやってくれ。」
以前バーベキューで使った調味料を並べて行く。
「スガタムシですか?いつもはそのまま火の中に入れて焼いて食べるんですが、このスガタムシもいい匂いがして美味しそうです。」
「隣あるのは肝と胃袋ね。好みが分かれるから、無理して食べなくても良いからね。」
そう言って、オレは肝から食べ始める。
濃厚でクリーミー、旨味も強いが若干の生臭さが有るなぁ…食感と後味が好みの分かれるところか?
これには柑橘を絞って塩をパラリ。
うん、美味いな。
お次は胃袋、味は余りしないか?ただ食感は心地良い。これはごま油に塩だな。
そんなオレを見ていたコレットも肝、胃袋と試して見るようだ。
肝を食べた時は微妙な顔をしていたが、柑橘を絞って食べるのが気に入ったらしく、ひょいひょい摘んでいる。
本体の方だが、鱗を引っ張ると簡単に抜けた。付け根に結構身が付いてきたのでそのまま一口。
なんだコレ?調味料を付けなくてもちゃんと味が有る。味が有るなんてもんじゃ無い。スパイシーにして弾力があり、皮目の脂は仄かに甘い。なるほど、これは美味い!
コレットに聞くと、丸焼きでもこの味だが、脂は落ちてしまうのか、ここまで美味しく無いそうだ。それに、身が締まって鱗を取るのに苦労するんだとか。
「リョータ!コレット!ハルに内緒で何食べてるの?ねぇ!内緒で!何食べてるの!」
「おお、ハル!お前も食べてみろ。凄い美味いぞ!」
「……食べるけど、最初から呼んでよね!まったくもう!」
この後、目を輝かせたハルに大半を食べられ、次は沢山釣って来る事を約束させられたのだった。
コレット!ちゃんとハルを止めろ!




