47話目 勇者の手記
スターさんの案内で落札品の引き渡し所へと向かう。目的は勇者が記したとされる本の確認だ。あと、一応グラスの引き渡しの立ち会い。
場所は商業ギルドの1階奥、ちょっと広めの応接室って感じの部屋。
中に入るとテーブルの上には派手な装丁の本、横には白髪でモノクルを掛けた紳士。歳は白髪のせいで定かではないが50代くらいだろうか?きっとこの人が鑑定人だろう。
「おや、副ギルド長がお渡しの立ち会いですか?して、そちらの方は?」
白髪の紳士は俺を見て不思議そうな顔をしている。
「お疲れさまです、ギルバートさん。こちらはリョータ サワダ様です。内容が読めるかの確認の為、ご案内しました。」
スターさんの言葉にギルバートと呼ばれた紳士は息を呑んだのがわかる。
「始めましてギルバートさん、リョータ サワダです。もしかしたら読めるかもしれない、と言うことでスターさんに立ち会いをお願いした次第です。よろしくお願いします。」
「始めまして、ギルバートと申します。サワダ様のお噂は伺っておりますよ。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ギルバートさんと挨拶していると、ドアがノックされた。ギルバートさんは俺に一礼すると「どうぞ」と言って扉を開く。
「おや、今回の立ち会い人は副ギルド長でしたか。」
そんな事を言いながら太った中年の男が部屋に入って来た。その視線はスターさんの全身を舐める様に見ている。
全く遠慮が無えな。
ほら、スターさんの笑顔が引きつっている!…気がする。
「お待ちしておりました、プリマス卿。本日は参加、落札いただきありがとうございます。」
「今回は勇者の本が出ると聞いてな。仕事を放って駆けつけたよ。して、そちらの御人は?」
「こちらはリョータ サワダ様です。卿もお噂は伺っているのでは?」
「なッ!この者が魔王か!スタールーン殿、これは一体どういうつもりか!?」
「落ち着いてください、プリマス卿。ブレナン様がサワダ様の強さを魔王並みと表現したに過ぎませんよ。今回のオークションも、ブレナン様の紹介で参加されたのですからね。」
「おお…しかし…、いや、取り乱してすまない。サワダ殿にも大変な失礼を。すまなかった。」
納得の行ってない顔で頭を下げた。きっとこの男も奴隷解放を良く思っていないのだ。まぁ仕方ないのであろう。
俺は気にせず挨拶を返す。
「始めましてプリマス殿、リョータ サワダです。その本が私に読めるか確認の為、スタールーン殿に無理を言って同席させて頂きました。」
そう告げるとプリマスは「読めるのか!?」と声を上げ、俺とスターさんを交互に見る。
「プリマス卿、サワダ殿は南方の島と一緒にこちらの世界へ転移してきました。もしかしたら読めるのでは?と、思いこちらへ案内させて頂きましたが、確認していただいても?」
「なるほど……確かに。是非ともお願いしたい。」
プリマスはソファーに座り、俺を向かいに座らせると本をズイッと俺に差し出した。
「では、拝見させていただきます。
……ブッフッ、失礼、ゴホン、ンぅん。………プリマス殿、期待させておいて申し訳ありませんが、どうやらこの本は私のいた世界の文字では無い様です。」
「そ、そうか…残念だが気にしないでくれたまえ。だが、我が家には他にもコレクションがある。機会があればそちらも確認して貰いたいな。」
「ありがとうございます。島の運営が落ち着きましたら、伺わせていただきます。」
そう言って席を立ち、ギルバートさんと交代する。すぐにギルバートさんが鑑定し、その結果を書類に記して取り引き終了となった。
「リョータさん、さっきのアレ、読めてましたよね?なんて書いてあったんですか?」
プリマスが部屋を出た後、いたずらっぽい笑みを浮かべてスターさんが話しかけてきた。
「やっぱり気付きました?勇者タキザワの恋愛遍歴ってタイトルで、目次には女性と思われる名前が並んでました。白金貨55枚もしてましたからね…流石に言えませんでした。」
因みにサブタイトルは《童貞からヤリチンへ》だった。
本にすな!
「ブフッ。ホントですか?クフフッそれは言えませんねぇ…クッフフフ…」
タキザワ、お前の黒歴史はスターさんのツボにハマったようだぞ。
スターさんの笑いが収まった頃、グラスを持ったスタッフさんと、アルベール辺境伯が入室してきた。
「おお、スタールーン殿、凄い物を用意しましたね!辺境だと噂が届くのも遅くて、いやぁ~間に合って良かったよ!」
部屋に入るなりスターさんにハイテンションで話し掛ける。その様を見ている限り悪い人間では無さそうだ。
「落札おめでとうございます、アルベール閣下。」
「ありがとう!今回のグラスは貴族の間で噂になっていたからね、是非入手したかったんだよ!」
う〜ん、ハイテンション。
「アルベール殿、高額での落札ありがとうございます。製作者のリョータ サワダです。」
「おお、貴方が。いやぁ~素晴らしい作品です。まだお若いのにあれほどの技術とは、もっとお年を召された方かと思ってました。今後も期待しておりますよ。」
そう言って右手を差し出して来たので、握手で応える。
「幾つか考えている物が有りますので、楽しみにしていてください。」
「それは楽しみだ!良かったら、後で我が領地へ遊びにいらして下さい。他国との貿易もしていますので、この国では珍しい物もあるでしょう。作品の参考になる筈です。」
「そうですね、1度島に戻り、マーメイド達とも相談して決めたいと思いますが、近い内に必ずお伺いします。その時はよろしくお願いします。」
会釈程度に頭を下げながら、アルベールを睨め上げる。
ちょっとした牽制だ。
アルベールもその意味に気付いたのだろう。ビクッとして俺の手を離した。
「そ、それでは、私はそろそろ失礼させていただくよ。仕事を領に残しているのでね。」
そう言って、グラスを緩衝材の入った鞄に仕舞い、部屋を出て行った。
「リョータさん、何ですかさっきの?魔王の威圧ですか?辺境伯真っ青になってましたよ。」
「なんとなくね。軽く牽制しておこうと思ってさ。この後辺境伯はどう動くと思います?」
「アルベール卿は良識的で穏健な方です。武力でどうにかしようとは思わない筈ですね。後はリョータさんの情報を何処まで掴んでいるか、ですね。詳しく調べていれば何もせず、領地に来た時に話し合いになるかと思います。。
ただ、偏った情報しか持っていないと、必死になって奴隷のマーメイドを隠すかも知れません。まぁ、落ち着いて考えれば、それも無理と気づくでしょう。」
「マーメイドを隠すのは大変なのか?」
「いえ、彼がマーメイドを奴隷にしている事は有名ですので、今更隠した所で意味はありませんから。」
「どうせ貴族相手に見せびらかしてたんでしょ?なら、代わりになる様な手土産持って挨拶に行こうかな?それで交渉してみるよ。」
「私からも辺境伯に伝えておきます。色々と懸念なさるでしょうから。」
「あら、お優しい。」
「大きな貸しが作れますから。」
いたずらっぽく笑うスターさんに若干の恐怖を覚えながら、へステア館へと戻った。
ちゃんとプリンの件は伝えたよ!
忘れたら怖いからね。




