43話目 スタールーン
「リョータさん、お帰りなさい。」
へステア館に戻ると店主さんに挨拶された。ずいぶん疲れた様子だがちゃんと休んでいるのだろうか?
「ただいま、今日は湖まで行って釣りをしてきたんだが、サーブルはどうやって食べるのがおすすめです?」
「おお、サーブルですか。塩焼きでも十分美味いですが、柑橘を効かせたバター焼きがおすすめですよ。」
「この辺だと卵や白子を使った料理はあるのかな?後はシビレイカもあるんだが…」
「シビレイカを食べるのですか!?それに卵を食べた事は無いですね。あぁ、何かに使えればと、味を見たことは有りますが、生臭さが残ってしまうので料理には向かないかと思いますよ。焼くと硬くなり歯にへばりつく様な食感も、あまり気持ちの良い物では無かったので…」
「そうか…まぁパンには合わないよなぁ〜。」
帰ったら昆布と鰹の出汁に塩を入れて漬けてみるか…
「シビレイカもあの見た目ですからね。あれを食べるとは、寡聞にして聞きませんなぁ。」
「そうですか。良かったらサーブルをどうぞ。沢山釣れたので。」
「ありがとうございます。それにしても大物ですな。夕食に使わせていただきます。」
夕食にはサーブルのバターソテーがメインに登場した。皮はパリッ、身はホクホクジューシー。柑橘の香りを移したバターソースは脂の多いサーブルをさっぱりと仕上げていた。
翌日は約束の時間まで部屋でゴロゴロしたり、お店を冷やかしたりしつつ過ごした。服は欲しかったけど、俺がノットマスターで作った服が高性能過ぎて買うには至らなかった。まぁデザインの勉強をさせて貰ったと云うことで…
時間になり、冒険者ギルドに行くとすぐに2階に案内された。既に素材や商業ギルドの方々も集まっているようで、商談スタート。
「はじめまして、商業ギルド次席、スタールーンと申します。よろしくお願いします。」
席を立ち、挨拶をしてきたのは20代前半の女性。鮮やかなブルーのロングスカートにレースの付いた白のブラウス。長い金髪にスラッとした長身の美人であった。
「はじめまして、リョータ サワダです。リョータとお呼びください。」
「リョータさんですね。では私の事はスターと。
サーシャさんから、画期的な釣具を発明されたと聞き及んでおります。この国では貴族も釣りを嗜む方が多いので、是非詳しくお聞かせ下さい。」
「おいおい、2人で話しを進めないでくれよ。はじめまして、冒険者ギルド、ギルド長のローリィだ。リョータさん、よろしく頼む。」
こっちは50代だろうか?短く整えられた髪にも髭にも白髪が混じっている。しかし体つきは衰えを感じさせない、厚い胸板に太い腕。白いシャツも茶色のパンツも品があるのに野生を感じさせる。
「ええ、ローリィさんもよろしくお願いします。」
「では早速だが、新たな発明品を見せてもらおうか。」
そこからはリールを分解して機構を説明、適した素材選びや、リールに合わせる竿、様々なルアー、ワームに使えそうな素材の相談等々。ベアリングは…難しそうだった。
因みに相談の中で試作で作ったリールは、竿とセットでサーシャさんにプレゼント。今回はドラグ機能も付けてある。
後日使い方の説明も兼ねて皆で釣りに出掛ける約束をした。
商業ギルドは明後日のオークションの準備に忙しいらしい。
「オークションには俺も出品する予定なんですよね。ブレナンさんから話し行ってます?」
「ええ、伺っております。王城にて拝見もさせて頂きました。あれと同等の物を2つセットでのご出品との事で、既に喧伝もさせて頂いております。王族の方も高位貴族の方々にご自慢なさっている様で今回のオークションの目玉とさせて頂く予定です。」
「おお、王様グッジョブ!高く売れたら良いなぁ。売上金で釣具屋さんでも始めようかな?獣人達に仕事も与えないといけないし。」
「奴隷解放ですか…思い切った事をなさいますね。」
「最初に出会った獣人達の扱いが酷かったからねぇ。ギルベルト侯爵の所は悪くなかったんだけど、息子がなぁ…アイツ無いわぁ〜。」
「確か6男のアツハナカナ様でしたか?あの方以外は比較的まともですがね。末の子と云うことでずいぶん甘やかされて育った様です。家督を継ぐ事は出来ないので、侯爵が何とか軍に入れた様ですが、今回の件で除隊となるようです。」
「だろうね。偉そうにしてるだけで1番弱かったもん。」
「ええ、侯爵の子息とはいえ軍では1兵士。なのに随分と横柄にしていた様ですね。軍から除隊ってそうそう無い事なんですよ?侯爵も今回の事で蟄居を命じたとか。」
「侯爵ふんだり蹴ったりだな…ちょっと侯爵に同情してきたよ…」
「ああ、王命無視の件は咎められずに済みそうですよ。書状を受け取った者は行方不明、その者はナファソ侯爵家の紹介だったとか。そのナファソ侯爵も反王族派を密告した事で難を逃れたとか。」
「この国大丈夫?一応、獣人の解放とか、獣人の為の土地貰ったりしたから助けるつもりはあるけど、ヤバくない?」
「大丈夫ですよ。1日で謀略を暴いたり、一瞬で軍を動かしたりした誰かのお陰で、王を敵に回すよりは、その誰かとの緩衝材に使った方が良いと判断したのでしょう。」
「オウ…まぁ良いや。で、商業ギルドの次席として、獣人商会ってどう思う?」
「はっきり言ってしまうと”夢物語"ですね。昨日まで見下して来た相手です。人は対等な取引なんか考えません。
獣人もそうでしょう。長年虐げられて来たのです。人に利する取引などしないでしょう。もし獣人が恨みを忘れても、人は報復を恐れます。逆も然りです。そこに信用は生まれません。無理です。」
「そーだよねぇ…魔王商会のがまだマシか。」
「そうですね。最悪から2番目位ですが。誰が魔王から商品買うんですか?何を売るつもりですか?喧嘩ですか?普通にサワダ商会で良いじゃないですか!」
「それは何かヤダ!社会に迎合している気がする。」
「迎合するのが商人です。もし真面目に商会を運営する気になったら相談に乗りますよ。何時でも尋ねて来てください。オークションの準備も有りますので失礼します。」
「は~い。お疲れ様でした。」
忙しい中来てくれたのに、最後ふざけちゃったな。後でちゃんと謝ろう。
「フッハッはっ。あのスター嬢にあんな軽口叩くとは、今代の魔王様は人たらしでもあるようだな。」
「ローリィさん…いやぁ、彼女中々面白いですね。つい調子に乗っちゃいました。」
「だが気をつけろよ?調子に乗せらせて骨の髄までしゃぶられても知らんぞ?」
「こわ!え?今の、彼女に俺が言わされてたの?」
「あの年で商業ギルドの次席だぞ?最後のはちょっと失礼だったかな?と思わせたらヤツの勝ちだよ。実際、そう思わせるタイミングで辞去しただろ?アイツならオークションの準備何かとっくに終わってる筈だ。」
「な、なるほど…俺が商人に向いて無い事が解ったよ。」
「リョータさんは特級の職人なんだろ?売るのは別の誰かに任せたら良い。何でも出来る人間なんかいやしねえからな。」
「それもそうだな…でも獣人達に自立して貰わないとなぁ。冒険者ギルドとしちゃぁ獣人の冒険者ってどう思う?」
「強ければ問題無いな。絡まれても弾き飛ばす強さがあればやっていける。ただし、活動する場所を選ばないとな。初心者向けの便利屋見たいな仕事は難しいし、アホな貴族が治める土地も難しい。いっそリョータさんの領地に街でも作ってみたらどうだ?」
「それ良いな!後はディニクと貿易が出来れば完璧だな。よし。あの街の領主に賄賂を贈ろう。」
「初手が賄賂かよ…一応別の国扱いだから、賄賂を受け取ったら領主様が罰せられるぞ?」
「じゃぁ贈り物をしよう。」
「一緒だよ!先ずは利を示せ。それから交渉しろ。」




