42話目 サーシャさん
「馬車で2時間少しかかりますが、この辺りは魔物は殆ど出ませんし、小さな湖が幾つか有りますので。今の時期は産卵の為にサーブルが集まってますのできっと大漁ですよ。」
「おっ、もしかしてお姉さんも釣りやる人?」
「サーシャです。私もやりますよ。王都の人は釣りやった事無いって人は殆どいないかも知れませんね。他に娯楽も無いですから。」
「そーなんだ、あっ俺はリョータ。釣具屋とかも有るのかな?」
「もちろん!北門と東門の辺りに有りますが、北門付近のがおすすめですね。東門辺りは治安があまり良くないのと、商品の質も北門の方が良いですから。」
「そっか、明日にでも行ってみるかな。色々ありがとう。地図、買っていくね。」
サーシャさんに地図代を支払い、ギルドを後にした。
まだ南門からそんなに離れないし、クラウンを北門側の厩に移動しておこう。帰りに釣具屋も覗いて見たいし。
厩で事情を話すと、騎乗しなければ北門までの移動は問題無いとの事。まぁ馬車は普通に町中走ってるしね。
と云うことで移動。
北門のすぐ近くに釣り竿と針の看板を発見。早速店内へ。
しかし、この世界には疑似餌の概念は無く、餌も現地調達が基本らしい。網で小さいエビを掬ったり、石の裏等にいる水棲の昆虫を使うらしく、お店で売っているのは竿、針、糸、錘位の物だった。
疑似餌やリールを教えた方が良いかも知れない。しかしこの世界の技術でリールが作れるか疑問だな…。
魚が疑似餌どんな反応するかも解らないし、サーブルで試して、良かったら勧めて見よう。
って事でへステア館へゴー!
まだ新しいパンのレシピは完成していないのか、店主さんは頭を悩ませているみたいだったけど、夕食のパンは柔らかい物に変わっていた。
うん!大満足!
朝食用にフレンチトーストのレシピを伝え、お弁当にサンドイッチをお願いしたら、快く了承してくれた。
まあ砂糖が無かったので代金代りに少しお裾分けしたからね。
大変喜んで頂けました。
翌朝、フレンチトーストとサラダをいただいて出発!
何気にバニラ的な香料がプラスされていて、一晩でレシピを改良してくるあたり、やはり店主さんは半端ない。後で詳しく聞き取ろう。きっと美味しいプリンが作れる筈だ。
北門を出て40分、地図通りに湖が見えた。そんなに飛ばしてないのにこの速さ。クラウン優秀。
早速釣りの準備を始める。今回試してみるのはスプーンと言われるルアーだ。
スプーンの掬う部分に針が付いており、水の抵抗を受けてヒラヒラ、あるいはクルクルと動いて魚を誘う。聞いた話しだとサーブルは最大で80センチほど。
ホントにスプーンのサイズのスプーンを投げる。
水は透き通っており、水草のすぐ上を通る様にリールを巻いていく。
程なく水草の中から大きな魚影がスプーンにアタック。ルアーを咥えて反転しようとするタイミングで合わせる。
よし、掛かった!
後はバレないように慎重に寄せてくるだけ。糸が切れる心配が無いが、沈んでいる倒木等に巻かれると面倒なため、竿を上手く使いながら誘導。
草の上に引きずりあげた。
よっしゃー!聞いていたよりサイズが大きいがコイツがサーブルだろうか?
ワニザメの反省を生かし、作っておいたフィッシュグリップを口に突っ込む。誰が写真撮ってくれと思うが携帯が無い事に気付く。
そーいえば食べられるか聞いて無かったな。まぁ水は綺麗だし、食べられない魚をみんなして態々釣らないだろう。
素早く締めて腕輪へイン。
その後も魚の居そうな所へルアーを通し、順調に釣果を伸ばして行く。その内の何匹かは釣り上げると卵が出てきた。
薄い黄色だが、それ以外はイクラそのもの。醤油があればイクラの醤油漬けが出来るのだが、まだこちらに来て醤油を見つけていないのが残念だ。
サーブルは大漁なのでもういらないが、帰るにはまだまだ早い。こぼれたイクラで何か釣れないかな?と短い竿に持ちかえ、近くの茂みの前に餌を落とす。
暫くすると竿先にツンツンと小さなあたり。クッと手首だけで合わせるが乗らない。
イクラをつけ直し同じ所に餌を落とす。
今度はすぐにツンツンとあたり。食い込ませる為に今度はそのまま暫く待つ。するとスーッとラインが動き出す。十分食い込ませたとクッと合わせると一瞬重みを感じたがすぐに抜けてしまった。
え〜今ので乗らないの?
もっと食い込ませないとダメなのか?
と思いながらイクラを付けようとして、針先に何かが付いている事に気付く。
ん?なんだコレ?えっ?ゲソ?だよな?
イカいるの?この湖!この湖?
水中に指を入れ舐めてみる。
うん。塩っぱくない。湖だ。
湖にイカがいるのか…流石異世界。
しかしイカなら釣れそうだな。
すぐさま道具精製で針の形状を変える。所謂トレブルフック、船の錨の様な形の針だ。通常は3から4方向、しかし今回は8方向に分かれる形状。それにイクラを付けて落とす。
直ぐにあたりが来たので、身切れしないように今度は優しく合わせ、リールを巻き上げる。
すると15センチほどの小さなイカが上がってきた。
おお、イカだ。しかし淡水のイカって食べれるのか?寄生虫が心配なんだが…
こんな時はモノクルの出番だな。
「か~ん〜て〜い〜モ〜ノ〜ク〜ルゥ〜!」
どれどれ…
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シビレイカ
ベルガナン周辺の湖に生息する小型のイカ。全身に微弱な電気を纏いその身を守る。そのため寄生虫がいる事は稀。
この個体には皆無。
身は淡白だが甘みがあり、肝は濃厚で旨味が強いが、独特の匂いがあるため好みが分かれる。
新鮮であれば生食も可能。
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おお、触るとピリピリ?ヒリヒリ?するけど、この位の電気なら問題無いな。
生食可能か…醤油は早急に入手しないとな。今はごま油と塩で我慢しよう。後塩辛も…もう少し釣っていこう。
と、その前にサーブルらしい魚も鑑定しておこう。
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サーブル
普段は海、または栄養豊富な汽水域に生息。産卵期には河を遡上し生まれた湖にて産卵を行う。
産卵期になっても身には十分脂が乗り美味。
最大サイズは2メートルを超えるが、そのサイズになると溯上出来る河が少なく、見る機会は少ない。
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なるほど、ここらではメーター位が限界なのだろう。
お弁当のサンドイッチを食べつつのんびりと釣りをする。クラウンが楽しそうに湖畔を走り回り、たまにゴブリンを蹴散らしている。
あーいるのね、ゴブリン。
クラウンのステータスは平均で1500まで上がっている。変な草でも食べたのか、生えてる草を鞭の様に操ってたりする。魔王の騎馬に相応しい戦闘力だな。
そろそろ日も傾いてきたので王城に戻る。サーシャさんに聞いていたより大きなサーブルが釣れたので一応報告(自慢)しておこう。
「あっリョータさん!どうでした?釣れました?」
「ああ、おかげさまで大漁だよ。ほらこれ。」
腕輪から1番大きかったヤツ(120センチ位)を取り出して見せた。
「えぇ~!大っきい!こんなの初めて見ましたよ。どの辺りで釣れたんですか?餌は?何を使ったんです?」
おお、良い反応してくれるじゃないか。よしよし、疑似餌の概念を説明してやろう。
「使ったのはコレだよ。」
俺はスプーンを摘んで見せる。
「何ですかそれ?ちょっと触って良いですか?」
「はい、どうぞ。」
サーシャさんは渡されたスプーンをマジマジと観察している。
「え?金属ですよね?コレで魚が釣れるんですか?」
俺はサーシャさんにルアーの概念、魚の習性なんかを説明する。
「でも、それだととんでもなく長い竿が必要になりますよね?私には無理かなぁ…」
「いや、この釣りにはリールと言う釣具が必要なんだ。これがそのリールね。ここを竿に固定して、このハンドルを巻くと糸が巻き上げられる仕組みになっているんだ。」
「ほぇ〜…凄いもの作りましたね。てっ軽!え?ミスリルですか?えぇ~!幾ら掛かってるんですかこれ?」
「いや、ミスリルの採掘から全部自分でやったからお金は掛かって無いよ。」
「コレって鉄で作ったら幾ら位になりますかね?」
「鉄だとすぐに錆びちゃうんじゃないか?」
確か前世だと最上位モデルにマグネシウム合金やらチタンやらが使われていたな。中位でアルミだったか?
アルミを圧縮するイメージでやれば作れるかな?
「錆びない素材ならミスリルじゃ無くても作れると思うぞ。値段は素材次第だな。加工は任せろ。昨日良くしてくれたしサービスだ。」
「じゃぁ、明日の夕方に来て貰えます?色々素材を用意しておきます。商業ギルドの方もお呼びして良いですか?大きな商いになる気がするんです。」
「分かった。俺もどんな素材が来るのか楽しみにしてるよ。」
「では明日、午後の3の鐘にお待ちしています。」
ちなみに鐘は午前の1の鐘が午前6時頃、そこから2時間起きに2の鐘3の鐘、12時頃に午後の1の鐘。3の鐘は6時頃になる。
約束を交わしてへステア館へと戻った。




