39話目 名前はクラウン
翌朝、朝食を摂ると早速パン作りに入る。
「パンを柔らかく仕上げる秘密はこの液体に有ります。」
店主さんに天然酵母入りの瓶を見せる。
「これは…なんだがブクブクいってますが大丈夫なのですか?」
「もちろん!このブクブクがパンを膨らませ柔らかく仕上げてくれるのです。」
説明しながらパンを作っていく。かかる時間は何時もの倍以上、1時間発酵させてガス抜き。形成してからもう一度発酵。倍位まで膨らんだら焼き上げる。
焼き上がったパンはふんわりと柔らかく、酵母に使ったリンゴの風味が爽やかだ。
「これがパン!?まるで別物じゃ無いですが!これがブクブクの効果なのですね?」
「はい。今回はリンゴの皮から作った物を使いましたが、干しブドウや桃の皮を使っても作れますよ。」
「このパンならば…しかしソースはどうするか……」
「では、僭越ながら私が。簡単では有りますが、このパンの可能性を示してみましょう。厨房をお借りしても?」
店主さんに許可を貰い調理に入る。肉を叩き荒いミンチを作り、下味を付けて捏ねていく。
ソースはマヨネーズを基本に香辛料やフライドガーリックを混ぜ込む。生卵は不安なので念の為浄化も忘れない。ミンチを押し付けながら焼き、半分に切ったパンも焼き目を付ける。
焼肉で余った葉物野菜、トマト、マヨネーズソースをたっぷりにパティ。
そう、ハンバーガーだ。出来ればお弁当用に作って欲しいからね!
「簡単では有りますが、これで完成です。手掴みでそのまま頬張っちゃって下さい。」
「なるほど、今迄のパンではこの様な食べ方は無理でしょうな。」
そう言うと、店主さんは一口頬張って目を見張る。
「ふかふかのパンにシャキシャキの野菜、溢れる肉汁もパンがしっかりと受け止めている。何よりこのソース!肉にも野菜にもしっかりとマッチしている。これは素晴らしい。」
「他にもレシピは有りますが、出来れば店主さんに考えて欲しいです。固定観念の無い方が何が出来上がるが楽しみですからね。」
店主さんはハンバーガーを頬張りながら、既にレシピを考えいる様だ。
声を掛けるのも憚れるので、厨房の片付けをする。
すると、厨房の奥の扉がガチャリと開かれた。入って来たのは、白い髪に紅い瞳のウサ耳少女だった。
目が合うと少女は固まってしまっている。
「娘さんかな?お父さんなら食堂の方にいるよ。お腹が空いてるなら君の分も作ろうか?」
問いかけると我に返った様で、凄い勢いで扉を閉められてしまった。う〜ん…激しい人見知りみたいだな。
「サワダ様、今のは娘が!?」
「ええ、貴方と勘違いして入って来てしまったようです。人見知りが激しい見たいですね?私を見て固まってました。」
「娘を見たんですよね?何か…その、仰りたい事も有るかと思いますが…」
「いえいえ、人見知りが激しいからって無礼だ等と腹を立てたりはしませんよ。」
「そうでは無く、あの子は獣人ですので…」
「ああ、そうでしたね。ウサギの獣人は初めて見ました。やっぱり耳は人間より良いんですかね?奥様もウサギの獣人なのですか?」
「いえ、実は…」と店主さんは娘さんを養子にした経緯を話してくれた。
出先で行き倒れてた娘さんの面倒を見出した事、最初は奴隷と言う体を取っていたが、解放令に伴い養子にした事。今でも差別の目で見られる為、人前に出たがらない事などだ。
家庭の事情を聞いて、正体を明かさないのも礼を失すると思い、俺は【魔王 サワダ リョータ】である事を店主に明かした。
ひれ伏す店主を何とか宥め、酵母の作り方も教え宿を出る。これでこの店の料理は更なる高みへと至るだろう。
さて、黒王号(仮)の様子でも見に行きますか。
南門近くの厩には、小さな牧場のようになっている。黒王は中央に立ち、周りには何頭かの馬が寝そべっていた。
既に群れの王の風格が有る。
厩のスタッフによると黒王はオスとの事だ。すると…既にハーレムを形成してるのか?けしからん!
黒王を連れて南門を出る。
性別も解ったし、ちゃんと名前を付ける事にした。
う〜ん…光沢のある真っ黒な身体に鬣の上部だけが白い。
頭を悩ませながら街道をなんとなく歩いて行く。
風が吹き抜け、逆立った鬣の白い部分が耳の間で王冠に見えた。
「クラウン!お前の名前はクラウンだ。」
某T社の高級セダンと同じ名前だが、乗り物つながりだし良いだろう。
本人?も名前を貰って喜んでいる…気がする。
名前も決まったし、クラウンのさらなる強化の為に島へと転移。草原に放っておく。
俺はと言うと、ディニクへ向かう。主釣りしたりと時間もだいぶ経ったので、解放される奴隷の様子を見に行く事にしたのだ。
「オイッス!」
冒険者ギルドのカウンターでギルマスに声を掛ける。
「おお!オークションどーだった?高く売れたかい?」
「いや、途中寄り道したからまだなんだよ。次のオークションに出品予定だ。」
「あっリョータさん!私を迎えに来てくれたんですね?マスター、お世話になりました。ミリーは幸せになりますね。」
まだミリーちゃんは直ってないようだ…
見なかった事にしよう。
「解放予定の奴隷の様子を見に来たんだが、どれくらい集まってる?もう10日以上経つし、街の負担になってるなら連れて行こうと思ってな。」
「この街だけだが、100人程が準備出来てる筈だ。今は元の主人共が面倒見てるが、扱いはかなり良くなってるみたいだぞ。連れて行くなら集めておくが、2時間後でどうだ?」
「ああ、それで頼む。それ迄に受け入れの準備をしておくよ。じゃぁ2時間後な。」
「リョータさぁん!私を忘れてますよ!リョータさぁ〜ん!」
島に戻り、ウィルに100人の受け入れ準備を頼む。丸投げだ。案内役と今日の食事の用意くらいで大丈夫だろう。竈は有るし、あっ炭が足りないかも!あとは肉と酒も買い足しておこう。余っても腕輪に入れとけば大丈夫だし。
さて、お米の追加は出来るかな?
俺はディニクの港へ転移した。




