37話目 ギルベルト侯爵
翌朝のメニューはサンドイッチにオムレツ。薄くスライスしたパンに野菜や肉が挟んである。ここでもソースが抜群の仕事をしている。
やはり…少し硬い。
王城へ行くのはお昼過ぎ、3時頃と思っておけば良いだろう。片付けをしている料理長に「実は…」話し掛ける。
「少し手間が掛かってしまうんですが、もっと柔らかいパンの作り方を知っていまして…貴方の料理が絶品なだけにそこが残念で。柔らかいパン作りの方法をお教えしたいのですが、どーでしょうか?お忙しいでしょうし、無理なら断って頂いて構いません。」
「いえいえ、とても有り難いお申し出です。料理を残される方はほとんど居ないのですが、パンは焼きたてと言うだけで、特別な物ではありません。たまに残される方もいらっしゃいます。パンは娘が担当なんですが、ずいぶん試行錯誤している様ですし、お客様の提案、娘にも話させて頂きます。ただ…娘は余り人に会いたがりません。その時は私から娘に伝えるという形でもよろしいですか?」
「構いませんが…娘さん、どうかされたんですか?見える所に傷が有る、とかなら治療出来るかもしれません。」
「実は……いえ、娘に聞いてみようと思います。お申し出、ありがとうございます。」
「こちらこそ、無理言ってすいません。では、娘さんによろしくお伝え下さい。」
宿を後にし、市場をうろつく。キョロキョロしているのでお上りさんとバレたのだろう。掏摸をしようと男がぶつかって来る。もちろん俺に弾き飛ばされて尻餅をつく。
「おっと、ごめんよ。王都の人混みに慣れて無くてね。怪我はないかい?」
優しく声を掛けながら、男の尻の埃を払ってやる。
「こっちこそすまねぇ、急いでてよ。悪かったな」
掏摸はするけど掏られる事には無頓着なのかな?男の財布、身に付けていたアクセサリー類を転移で、島の自室に送った。
そのまま市場を回っていると、さっきの男が俺に掴み掛かって来た。
「お前、俺の財布掏っただろ?返せ!」
「さっきぶつかった兄さんじゃないか。勘弁してくれよ。どっかに忘れて来たんじゃないか?」
「そんな筈ねぇ。さっきまで有ったんだ、アンタとぶつかる前までな!」
「派手に尻餅付いてたもんな。その拍子に落としたのかもな。一緒に探してやるよ。俺とぶつかったせいかも知れないからな。」
「ふざけんな、何処に隠した!」
「わかったわかった!好きに調べてくれていいぞ。ほら!」
足を肩幅より広げ、【大】の様なポーズをとる。男は必死に弄るが俺は手ぶらだ、何も出て来ない。
「もう気は済んだかい?全く、都会の人間は皆こうなのか?人が親切で言ってるのに。」
「ああ…気は済んだ。悪かったな…。」
男はとぼとぼと去って行った。これに懲りて掏摸から足を洗ってくれるのを祈るばかりだ。
引き続き市場を巡回、お昼も市場で済ましてしまおう。屋台を巡り気になった物を購入して行く。ただ、どの店も余り変わり映えしない。串焼きもスープの店も、肉の種類が違っていたり、スパイスが違うぐらいの差だ。基本、料理と言えば焼く、煮るの2パターン。
へステア館の料理がこの世界でいかに非常識なのかが伺える。
別料金でお弁当作ってくれないかな。
料理の落差が酷すぎて辛い…
そろそろいい時間かな?とゆー事で城に向かう。
昨日の門番さんがいたので、へステア館が大変気に入った事、教えて貰った事への感謝を伝えていると、案内の方が来たので、一緒にブレナンさんの下へ。
城の中は少し暗いが、重厚とか、壮厳って言葉が似合う、石造りの城だった。サワダ城のが全然大きく美しいので特に感動は無い。
2階の1室に入ると部屋の中は廊下に比べるととても明るい。角部屋で窓を大きく取っている。中にはブレナンさんが既に待っていた。
こうゆう時って上位者が後から入室するんじゃ無かったっけ?気を遣わせてしまった様だ。
「ブレナン殿、お忙しい中、時間を作ってくれた事、感謝致します。」
「いえいえ、わざわざ先触れ迄出して頂いて。こちらこそ、お気遣い、感謝致します。」
芝居がかったやり取りをすると、ニヤリっとブレナンさんが笑う。
「して、どうしました?私に皮肉を言いに王城まで来た訳では無いのでしょう?」
「もちろん。オークションに参加する為に王都に来たんだけどね、来る途中のギルベルト侯爵領?あそこではまだ奴隷が侯爵様に仕えててさ。衛兵は奴隷解散令なんか聞いて無いって。ホントに王命出してるか確認に来たんだ。」
「それは誠ですか!?いや…ギルベルト侯爵ならあり得るか?血筋だけの無能とは思っていたが、ここ迄とは…」
「誠ですよ。今から行って見る?転移ですぐ行けるよ。そー言えば、ギルベルトって聞いた事有るんだけど、俺会ったこと有る?」
「サワダ殿が捕虜にしていた者が侯爵の息子でしたよ。それより、すぐに準備致しますので暫しお待ちを!侯爵領へ向かう兵を集めます故。」
「あーアイツか!アイツね、周りの兵が全部やられてから自己紹介しだしたんだよ。僕は偉いんだぞ、殴ったらパパに言い付けるぞって。」
「爵位しか誇れる物が無いのでしょうな。それも今回失う事になるかも知れませんね。では、失礼させて頂きます。」
いい笑顔で去って行った。きっとブレナンさん、ギルベルト侯爵の事嫌いなんだろうなぁ。
ブレナンさんと入れ替わりでメイドさんが入って来て紅茶を淹れてくれる。
「ありがとうございます。この国にも紅茶があるんですね?」
「ええ、王都周辺では栽培も盛んに行われてますよ。その中でも特に香りの良い物をご用意しております。」
紅茶はあまり詳しくないが、そう聞くと華やかな香りがする…気がする。
そんな事を考えながら、40分位待っただろうか?ブレナンさんが、デュランさんを伴ってきた。
デュランさんは見るからに不機嫌だ。
「お待たせ致しました。こちらの準備は整いましので、騎士団の訓練場までお願いします。」
「訓練場ってあそこだよね?直接行っちゃおう。」
2人を連れて転移。こちらに気付いた兵士達が一斉に左胸に右拳をつけて、気をつけする。
少し間をおいて、状況を理解したデュランさんが号令を掛ける。
「ギルベルト侯爵に国家反逆の疑いが掛かっている。これより我々は侯爵邸に入り、真偽を確認、侯爵を捕らえる。相手はヨークデリアの国民でも有るが、向かって来る者は斬って構わん!全員騎乗!」
「あーごめん!転移で移動すると、馬が暴れる事が有るから降りてぇ!転移後はちゃんと自分の馬の面倒は見るようにね。いい?じゃぁ行きまーす!」
デュランさん、渋い顔しないの!




