36話目 へステア館
受付で文句を言っていると、奥から男性が出てきて食堂の方に案内された。
「冒険者に見えなかったんだろう、それかナンパと思われたか。済まなかったな。」
俺は椅子に座り、男性はテーブルに座っている。
頭を下げる事も無い。
舐めてんのか?謝る態度じゃ無いだろ。
「テーブルに腰掛けて、上から目線で謝罪のつもりか?バカなんだったら出しゃばって来るなよ。もう良い、決めた!このギルドは潰す!死にたくなかったら逃げても良いぞ。」
「はっ、威勢だけは立派なもんだな!誰を相手にしてるか解って無いようだ。やれるもんならやって見ろ!」
「謝罪するのに名乗りもしないバカなんか知らねぇよ。教えてやる。俺は怒ってんだよ!
死にたく無いヤツは避難しなぁ!信じられないヤツは外に出て上を見ろ!」
何人かが外に出て空を見あげ、大慌てで戻って来た。
「ヤバいぞ!早く逃げろ!バカ、飯なんて食ってる場合じゃねぇんだよ!マジで死ぬぞ!」
大慌ての冒険者を見て室内がざわついている。半信半疑ながら避難を始めたようだ。
「ギルマス、アンタも逃げろ!アレはアンタでもどうにもならん。」
ギルマスと呼ばれた男も、他の冒険者達が逃げ出すのを見て出て行った。そして状況を理解したのかへたり込んでいる。
俺は無人のギルド内を歩く。敷地の大きさを確認しないとね。浮かべた巨石をギルドの敷地に合わせて、破片が飛び散らない様に内側にピラミッド見たいな窪みを作りゆっくり降ろす。俺は石の上に転移。
最後は2メートル位の高さから一気に落とす。
「おい、あの男が出てきて無いぞ。お〜い!裏はどうだ?あの男は居るか?」
「こっちも出てきて無ぇ!アイツ自爆しやがった!」
「心配には及ばない。俺は無傷だよ。」
巨石から飛び降りる。魔力モリモリで作ったからこの巨石は硬ったいぞぉ。この土地は2度と使えないだろう。
集まる野次馬に混じって獣人がチラホラ見える。皆でお揃いの腕輪をしている仲良し集団だ。
本当に…この街は俺の機嫌を損ねてくれる。
「なぁ、あんたら奴隷だろ?主人は誰だ?」
「はい。ご領主様に仕えさせて頂いております。」
「領主様ねぇ?ここの領主様の名前って何て言うの?」
「ギルベルト侯爵様にあらせられます。」
ギルベルト…ギルベルト…?どっかで聞いた名だな?誰だっけ?
「そこの者、止まれ!」
振り返ると衛兵が20人ほど。通りの反対側にも野次馬を挟んで同じ位集まって来ている。
「ねぇ、何でまだ公爵は奴隷使ってるの?国王から奴隷解散令が出てるよね?」
「何だそれは!そんな話しは無い!」
「聞かされてないのか?大方公爵が勅令を無視して、箝口令でも敷いたかな?これは問題だな、反逆の意志有りって事だもんね?ありがとう、君達にまで咎が及ばない様に対応するよ。」
ギルド壊したから捕まえに来たんだろうけど、もっと大きな問題をぶつけてすっとぼけよう。彼等には俺が上位者だと勘違いしておいて貰おう。
侯爵に自分の事は話すな、悪いようにはしない、と大銀貨を握らせる。
「報告ですとギルドを破壊されたと聞いておりますが?」
「間違いないよ。不正を問いただしたら武力に訴えて来たからね。一応、死者を出さないよう気を使ったつもりだけど…マズかったかな?こっちも私から報告を上げておくよ。」
「かしこまりました。失礼します。よし、解散だ。ギルド関係者に聞き取りを行う。冒険者もだ。手の空いている者で対応するように。」
もう王都まで行っちゃうか。黒王号(仮)で飛ばせば夕方には着くだろう。南門付近の厩に戻り黒王号(仮)を受け取るとそのまま王都迄飛ばす。
盗賊見たいな集団がいたが黒王号のスピードに何も出来ない。
「流石、王都って感じだなぁ。」
5メートル程の2重の城壁、上にはバリスタも並んでいるし、見張りの巡回もマメだ。何より街に入る人の行列が凄い。
「ちょっと舐めてたな…」
行列では野営の準備をしている人達がチラホラ、諦めて少し離れた所に土魔法ハウスを建てる。
夜明けと同時に列に並んだが、街に入れたのはお昼を少し過ぎた頃。
石畳が敷かれ、整えられた街並み。正面には遠くに王城が見える。まずあそこを目指そう。
2つ目の城壁にも検問があり誰何される。名乗り、ブレナンさんに話しが有ると言ったら、応接室に通された。確認の使者を出すそうだが…きっとかなり待たされる事になるだろう。
明日の同じ頃に来ると伝え、使者をお願いした。同時に宿も聞いておいた。
庶民的な宿だが、掃除が行き届いており小さいが風呂もある。何より飯が旨い。と門番さん激推し!
その名もヘステア館!
大通りを途中で東側に外れ、東門の側。近くに貧民街が有るので注意してくれとの事。因みに黒王は南門付近に預けてある。石畳って蹄に良くないからね。
辿り着いた宿は確かに綺麗にしている。ガラスは歪んでいるが良く磨かれ、店の周辺には雑草やゴミもない。
「こんにちは。1人なんですが部屋は空いてますか?」
「いらっしゃいませ。お1人様ですね。大丈夫、空いてますよ。」
料金は1泊2食付きで銀貨2枚、食事無しだと1枚と大銅貨5枚だそうだが、もちろん食事付き。
案内された部屋でのんびりしていると、食事に呼びに来てくれた。
なんと、コース料理見たいなスタイル。
トマトを4切れ、それぞれに違うソースがかかっていてどれも旨い。
次にスープ、これは本格的なコンソメに近い。
雑味が無く旨味が強いのにクドさは感じられない。
次は肉料理、シンプルに焼いた物かと思ったら表面はパリッ、中はロゼ色で肉の旨味を最大限に引き出している。掛かっているソースも肉負けずに濃厚、レバーペーストを使っているのかな?
サラダも旨い!この店の料理長はソースやドレッシングを作るセンスが抜群に上手いと思う。
そして魚料理、肉料理がこってりだったため、さっぱり。白身魚のマリネ。よく見ると少し火が通して有る。林檎や柑橘、ハーブが使われたソースとのバランスも絶妙。最後にフルーツで締めとなる。
大満足、料理だけで銀貨2枚でおかしく無い。
ただ、ここでもパンが硬いのが悔やまれる。焼きたてで他に比べたら十分軟らかいが、それでも気になる、気になってしまうのだ。
食事を終えてもテーブルを離れない俺に料理長が話し掛けてきた。40歳くらいの優しそうなおじさんだ。
「お料理どうでしたか?今日は特にいい出来だっと思ったんですが…お口に合いませんでした?」
「とんでもない!感動しました。料理だけで銀貨2枚取れる味でしたよ。宿泊しないと食べられないのが勿体ない。食事だけのお客さんは取らないんですか?」
「ありがとうございます。料理は私と娘の2人でやってまして、そんな余裕はとてもとても。」
「そーですか、残念です。では王都に居る間はこちらに宿泊させて頂きますね。オークションの開催日ってご存知ですか?少なくともそれまでは王都に居る予定ですので。」
「ああ、商人さんでいらっしゃいましたか、確か次回は6日後だったかと思います。毎週水の日開催ですので。」
「ではそれ迄お世話になります。」




