32話目 ケイト・ナファソとブルートさん
次の街に入る前に、盗賊を埋めて置いた場所に戻る。
雨は降らなかったみたいだな。祈りは届かなかったらしい。
2日間の断水でだいぶ衰弱してる。
埋める前に一杯水飲ませたはずなのに…。土からは出してあげるが、その手足には土魔法で作った拘束具が付けてある。
本気で死を覚悟していた様で、助かったと泣き出す者もいる。
イヤ助かって無いからな?この後衛兵に引き渡すし、盗賊なんか極刑で当然でもおかしく無い。
盗賊達を連れて転移。目的の街まであと少し、ここから街門まで馬と盗賊を引いて徒歩だ。
街門に辿り着く前に街から騎馬隊がやって来る。まぁ手足を拘束した人間を引き連れてたら職質くらいしますよね。
しかしこの街の衛兵さんは優秀だなぁ。まだ結構距離が有ったし、このタイミングで来たって事は転移後にすぐこちらに気付いたのだろう。
「私はナファソの街の南門を預かっているブルートだ。この状況を説明して貰いたい。この者達は貴方の奴隷か何かか?」
と言う事でブルートさんに状況を説明し、罪人として引き渡した。これから尋問を行い、余罪が無いかとか、隠し財産が無いかとか調べるらしい。命乞いの言葉に財産が有る見たいな事を言っていたのも伝えておく。
一部は捕まえた者に与えられるそうだが、丁重にお断りさせて貰った。それは被害者に返却されるべき物だからね。別にお金に困って無いし。
しかし騎士団として、犯罪者を捕まえてくれた者に何も無し。とは行かないらしく、ブルートさんが自腹で宿を手配してくれた。何だか逆に申し訳ない、と伝えると何かあった時、オレの居場所を把握しておく為でも有るらしい。
騎士団、南門統括の手配した宿はとても立派な建物だった。門近くで顔が効く店とは言っていたが、この辺りでは1番の高級店だろう。
早速夕食を頂き、お風呂を堪能。ここは大浴場だが、半分露天になっていた。中庭の庭園を見ながらのんびり湯に浸かった。
翌朝、部屋で朝食を摂っているとブルートさんが訪ねて来ていると宿のスタッフから報告を受ける。まだ早い時間だし、何か有ったのかも知れない。急ぎ朝食を済ませロビーに降りていくと、オレを見つけたブルートさんは直立し軍人さん見たいな動きで小走りに駆け寄って来る。
「おはようございます、サワダ様。ご相談が有りまして、南門詰所までご同行頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「おはようございます。どーしたんですかブルートさん?そんなに畏まっちゃって?」
「お話しは、出来れば詰所の方でお願いします。」
昨日は普通に接していたのに、まるで上官と話す新兵みたいになってるな。ここでは話せない内容の様だし、大人しく着いて行く事にした。
「ご足労頂き感謝します。」
「どーしたんですか?普通にして下さい。」
昨日は取調室の様な部屋だったのに、今日はきちんとした応接室に案内された。
「解りました。早速なのですが、盗賊をこの街まで連れて来るのに転移の魔法を使われた、というのは事実でしょうか?」
「あ〜なるほど。そーですよね、ブレナンさんもこの街を通りますもんねぇ?」
「ではやはり、リョータ・サワダ様にお間違え無いと?」
「はい。改めまして、リョータ・サワダです!相談という事でしたが?」
「やはり…実はこの街は奴隷解放に抵抗し、反王族派の拠点になりつつ有るのです。我々も調べていますが、騎士団や衛兵にも反王族派は居るらしく、思う様な結果は得られていません。そこで、サワダ様のお力を借りれればと、恥ずかしながらお願いにあがった次第です。」
「もう反対派が動き出してるんだ?利に聡いだけの貴族とかイヤだねぇ。反対派の中心はなんて人?」
「この街の領主夫人、ケイト ナファソ侯爵夫人では無いかと…確証は持てませんが…」
「侯爵夫人ねぇ…ちょっとお話しして来ようかな?」
「夫人は滅多に人前に姿を現しません。基本領主邸から出る事も無く、国の行事の時などに姿を見るくらいです。お会いするのは難しいと思います。」
「こっちでも考えてる事が有ってさ。ちょっと行ってくるよ。場所だけ教えて。」
「そんな…いくらなんでも無茶です。賛成しかねます。」
「門番にでもお会い出来るか聞いてくるよ。大体街の中心ってのがお決まりのパターンだよね。その辺で聞いたら解るだろ。じゃぁまた後でね。」
南門前の大通りを北に向かって歩いて行く。領主邸は中心よりやや北側に建っていた。
門の前の衛兵に大きな声で話し掛ける。
「おはようございます。ケイト様はご在宅でしょうか?魔王のリョータ・サワダが取り引きの品を持ち、お伺いました!」
朝の大通り、それなりに人は居る。
「知らん!ケイト様はアポの無い者には会ったりしない!訳の分からん事を言ってると牢屋にぶち込むぞ!」
「ああ!失礼致しました!ここでは人目に付きますもんね。何時もみたいに転移でお伺いさせて貰います。」
そー言って南門の応接室に転移する。
「ただいま戻りました。やっぱり会うのは難しい見たいですね~。」
「だからそう言ったじゃないですか!何しに行ったんですか!」
「ん~でもこれで解決すると思うけど…少なくともこっちが有利に話しを進められるかな?」
その頃、「本当に転移でケイト様の元に行っていたら」と考えた衛兵からの報告にケイト ナファソは頭を抱えていた。
まさか魔王自らの転移を使ったパフォーマンス。目の前で人が消える様を見た住民はどう思っただろうか…
国王の無茶な要求を逆手に周辺貴族をまとめ、上手くすれば簒奪、ダメでも独立をと目論んでいたがこれはマズい。噂が広まれば抜け駆けで魔王と取り引きしていた疑いを掛けられ、周辺貴族は離れて行くだろう。ナファソ領だけの独立などすぐに潰される。
イヤ、周辺貴族達に誤解だと、魔王の策略だと訴えればまだ可能性はあるか?
無いな…自らの利を1番に考える連中だ。私が沈めば後釜を狙って動き出す。風向きが変わったのだ。
「はぁ〜ロレンソになんて言い訳しようかしら…」
愛する夫を、あなたこそ王に相応しいと煽て、その為に動いて来たのだが、いとも簡単にその計画は崩された。
リョータ・サワダ
宰相ブレナンにして魔王と言わしめた男か…
どんな男なのか…
「1度会って見たいわね…」




