30話目 特級職人
ギルドを後にし、目立たないよう路地裏から一度島の砂浜に転移。日本で硝子工房を営む友人を取材した事を思い出す。
価値が高いのはクリスタルグラスで、確かバリウムやら鉛が入ってたはず。
着色はコバルトで青、金を入れると赤だったか?
採掘した必要に成りそうな物を砂浜に並べていく。
友人の作品達を色々と思い出しながら、道具生成を発動する。
「クリスタルグラス、20脚!」
体内から魔力が抜けていくのが解る。
周囲30メートル程が光に包まれ、収まると砂浜には切子グラスが並んでいた。赤、青だけでなく、紫や緑、オレンジと様々だ。しかも既に切子が入っている。
どーなってんだ道具生成!
頭痛は無いが少し身体がダルい。かなりの魔力を持っていかれたみたいだ。ちょっと海に浸かって行こう。
並んだグラスを腕輪に仕舞い、再度路地裏へ転移。
以前ガラスコップを売ったクレセントローズへと向かう。
以前と同じ様に店主は丁寧に迎えてくれる。
「いらっしゃいませ、サワダ様。お約束の身分証が出来上がって御座います。只今ご用意致しますので、どうぞ、此方に掛けてお待ち下さい。」
店の一角、商談スペースになっているテーブルへと案内されると、すぐに女性がお茶とお茶請けを持ってきてくれる。
紛れもなくVIP待遇。
程なくして店主が戻って来る。
「此方が今回発行されました身分証になります。商業ギルド発行の物でこの大陸であれば全ての国で有効、しかも特級職人証明も記載されております。これがあれば何処の国でも上級貴族並みの待遇が受けられますでしょう。くれぐれも紛失なさらない様、ご注意下さい。」
おお…なんか…店主さん大興奮だな。
それだけ凄い物なんだろう。
「ありがとうございます、気を付けます。今日伺ったのは買い取って頂きたい物がございまして…こちらなんですが…」
腕輪から切子グラスを1脚取り出す。
綺麗な緑色で上へ行くと色が薄くなっていくグラデーションに菊繋ぎ紋が入った逸品だ。
「なっ…これは…一体どの様に…」
「どうでしょう。自信作なんですが、おいくら位になるでしょうか?」
「サワダ様、申し訳御座いませんが、此方は当店では買取り出来かねます。是非、王都のオークションに出品下さい。」
「王都?オークションですか?」
「左様で御座います。恐らく白金貨で50枚は下らないかと。もしかすると王家が買取る可能性も御座います。」
白金貨って1千万だったよな?1脚5億20脚で…100億!
ゴネてる貴族って何人位居るんだろう。爵位の高い所にコレを配って根回ししたらイケるんじゃね?
「解りました。こちらの1脚はオークションに出してみようと思います。」
店を後にし、ギルドへ戻る。
「よう!魔王様。金策は上手く行ったかい?」
「いや、王都のオークションに出す事を勧められたよ。で、王都迄の地図を求めて戻って来た訳だ。」
「ホントかよ!王都のオークションったら白金貨以下は扱わないって噂だぞ!どれ、ちょっと見せてくれ!」
「構わないが、ガラス製だからな!割ったら弁償だぞ。因みにクレセントローズの店主は白金貨50枚の値を付けた。」
「なっ!白金貨50枚!見てみたいが…万が一のことがあったら……」
「冗談だよ。ホレ、コレだ。」
腕輪から切子グラス出して見せる。
「ほぁ〜…キレイだなぁ〜。ど〜やって作ったんだコレ、オレにも作れねぇかな?」
「ハッハッハっ流石にムリだろう。ガラスを透明にするのも大変だし、それに色を入れて成形、カットの技術。どれも素人がパッと出来る物じゃないさ。」
「そりゃそうか。ただ、オレはそのグラスじゃ酒の味なんて解らなくなりそうだ。おっと、もう満足だ。早いトコ仕舞ってくれ。ここは荒くれ者集まる冒険者ギルドだからな。王都迄の地図だったら、受付で売ってるからそれを買ってくれ。」
「わかった、ありがとな!」
受付は昼過ぎという事もあり空いている。カウンターに向かうとミリーちゃんが手招きしている。
「やぁミリーちゃん、お疲れ様。王都迄の地図が欲しいんだ。」
「いらっしゃいませ、リョウタさん。少し前にブレナン様がいらっしゃいましたよ。私ご指名でいらしたのでマスターがビックリしてました。」
「そっか、ブレナンさん、何か言ってた?」
「争わなくて良かった。私の判断は正しかったって。青褪めたお顔でつぶやいてました。あっと、王都迄の地図ですね。こちらです。お値段がぁ…白金貨50枚ですね!」
「マスター!アンタのトコの受付がボッタクリやってるぞぉ!」
「アハハッ、聞こえてましたよぉ〜白金貨50枚のグラス!私も見たいです!」
「わかったわかった、ほら。」
「はぁ~凄い綺麗です。キラキラです。」
「実は青バージョンも有る。」
そう言ってもう1脚取り出す。
ミリーちゃんは言葉を失っている。
「……うわ〜凄いです!どっちも細かいのに同じ様に細工が入ってて……どっちか下さい!」
「いやダメだぞ!で、地図の値段はいくら?」
切子グラスを仕舞いながら訪ねる。
「ああ…白金貨100枚が…もっと見たかったのにぃ。…もっと見ていたかったから銀貨5枚です!もしくは結婚して下さい!」
ダメだ…ミリーちゃんは正気を失っている。
「大銅貨5枚だ。」
見かねたギルドマスターが背後から声を掛けてくれた。
「大銅貨5枚で良いので結婚して下さい!」
ミリーちゃんはまだ正気を失っている。
「定価だ定価!まったく!まぁ気持ちは解らんでも無いがな。リョウタもリョウタだ!白金貨100枚なんておかしくもなるだろうよ。」
「すまない、確かに調子に乗り過ぎたみたいだ。ただ、綺麗だとグラスを褒めてくれるのが嬉しくてな。」
もちろん道具生成で作っているが、お手本は記憶の中に居る友人の作品だ。嬉しく無い訳が無い。
「じゃぁ大銅貨5枚だ。地図、頂いて行くよ。」
今日は街の宿に泊まろうか?別に転移で戻っても良いのだが、旅の醍醐味には宿の食事や現地の人との交流も含まれる。別段急ぐ旅でも無いし、この機会にヨークデリアという国を見て回るのも良いかも知れない。




