表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2話 街へ

仲良くなってくれよ

 あぁ、最悪だ。

 頭が痛い。

 原因は隣の狂信者野郎だ。

 俺がすれ違った旅人の懐事情を確認しようとしたら鉄拳制裁だぜ?

 こいつまともな飯食って真っ当に生きてきやがったなちくしょう。 

 ってか、どうやって俺の手グセがバレたんだ?

 俺の町ならポリ公の前でもバレなかったぞ。


「一日一善、出来れば二善、余裕があるなら三善四善、愛しきシスターの教えです」

「へいへい、それもう5回目」

「あなたのその手遊びもそれくらいでしょう?流石に見慣れてきますよ」


 トーザは何でもないことのように話すが、嘘だろ?

 フェイクも含めて11回くらいはやってる。

 正確に俺が手元に持っていこうとしたものだけが目につくってどういう神経してんだよ。


「これじゃあ今日の飯にもありつけやしねぇ」


 掴める腹を優しく撫でながらぼやくと何でもないようにトーザは言ってのけた。


「大丈夫ですよ、現地調達すれば」


 何だと!?

 俺に重労働を強いるのか!?

 そういう面倒ごとを全て解決してくれるのが俺の超運の力だってのに。

 これじゃ女神様が泣くぞ、多分あくびの涙、暇してるよきっと。


――――――――――――――――――

 

 流石女神様、俺の手元には食料がたんまりとあった。

 まず一つ、てきとうな所に丸太を置く、すると「何故か」動物がぶつかって気絶する。

 生け捕り完了。

 次に川にふらふら、少し重めの石を投げる。

 水が弾け、たまたまそこにいた魚が川岸に上がってくる。

 もはや入れ食い状態。

 俺がルンルンで帰ってくると、火の準備をしていたトーザが、意外そうな顔をしてこっちを見てきた。


「そういうのには疎いのだと思っていました」

「俺の腕を持ってすれば大したことないんだよ」


 しかし運ぶの疲れた。

 俺はぺたんと地面に座り込むとぼーっとトーザの準備を見ていた。

 かなり手際がいい。

 良いとこの生まれだと思っていたけど、意外と野生的な生活をしてきたんだな。


「へぇ、上手いんだな」

「まぁ、山に囲まれたところで生活していたものですから」


 俺がとってきた大量の食い物に向かってお辞儀をした。

 と言っても、俺の知らない姿勢だった。

 両手を花の形の様にして頭の少し上に掲げて片膝をついている格好だ。


「何かの挨拶か?」

「あぁ、自然の神様たちへの感謝を表す姿勢ですね」


 自然の神様たち、聞いたことあるな。

 確か、大地の恵みにマジ感謝、みたいな宗教で、魔法使いが好んで崇拝していたような……。

 そこで俺はハッとした。

 俺は気が動転していて忘れていたが、あの威力の攻撃を生身の人間が出せるはずがない、と思う。

 加えて、俺の手癖を見抜いたんだ。

 何か魔法を使ったなら納得がいく。

 俺は、上手い具合にまとまった心の中を悟らせまいとてきとうに相づちを打った。


「ふぅ〜ん、熱心な事で」


 とりあえずその日の晩飯が美味かったのと寝床が最悪だった事だけ伝えておこう。


――――――――――――――――――


 最悪だ身体中が痛い。

 寝床が最悪だったのもそうなんだが、全身筋肉痛なんだな〜これが。

 早く近場の町に行って温泉にでも入りてぇ。


「もうそろそろで着きますね」

「あの目と鼻の先に点として映る何かを見てもうそろそろ言ってるなら、今一度お互いの地元の価値観について話し合わなきゃいけなくなるな」

「私は獣人の村出身ですよ」

「はぁ、ケモビト……はぁっ!?」


 俺は節々の痛みが消し飛ぶほどの衝撃を受けた。

 これも魔法の力だろうか。


「ケモビトって、あの獣人か?」

「はい、人間の方々はよく亜人などと言うらしいですね」


 そう、今もなおバチバチに睨みを利かせあっている停戦中の相手だ。

 その数は人間に劣るが、身体能力が確か2,3倍あるから良くも悪くも平行線で犠牲が多く出るから停戦になったとかなんとか。

 そんな村に人間がいて良いのかと突っ込まずにはいられない。

 と、顔にでも書いてあったのだろうか、トーザは苦笑気味に答えた。


「捨て子だったんですよ、私。物心ついた時から獣人が周りにいたので正直人間と仲が悪いってのが実感ないんですよね」


 話を聞くと、どうやらその村は外れにある上に宗教が根強くあるために、人種間での区別が少ないらしい。

 勿論立場としては獣人側だろうけど、中立に近いってところか。

 世界平和を聞くとそこに人間とか獣人とか言う雰囲気はなく、シスターがどれだけ博愛で生きてきたかがうかがえる。

 ただなぁ、一緒にやっていける気がまだ湧いてこない。

 そもそも一人でここまで来た身だもんな。

 ワンチャン隙ができたら離れるもありか。


――――――――――――――――――


 しばらくして俺達は町に着いた。


「何ですかこの薄着はぁぁぁぁ!!」


 しかし町に着くや否やトーザは女湯にでも飛び込んだかのごとく顔を赤らめていた。


「いや、普通に人とすれ違ってただろ?」

「あれはローブで覆われていたからそう言う者だと思ってたんです。まさかこんな肌が見える格好が普段着だとは思っていませんでした」


 腕も使って目一杯眼前を隠しているが、顔がめちゃくちゃ真っ赤だ。


「獣人って普段どうなってんだよ」

「皆毛皮でモフモフですよ。肌の上に厚い服を着ているようなもので、脱衣所や浴場すらも共有が多かったみたいですね。私だけは何故か分けて入れられてましたが」


 獣人の露出への耐性のなさどうなってんだよ。


「別に裸じゃないんだし、さっさと宿に泊まろうぜ、早くひとっ風呂浴びてぇよ」


 俺はトーザを引っ張って宿まで来た。

 そこの頃にはだいぶ落ち着きを取り戻し、顔の赤みも引いてきた。

 と思っていたがこいつ焦点定まってない。

 何となく遠くをぼんやり見ている。

 これでふらふらとどこにもぶつからずに到着できるなんてどうなってやがるんだ。

 これも魔法の一つなのだろうか。


「はぁ、これで一息つけるな」


 俺達は部屋のベッドに腰を落ち着かせると大きく息を吐き出した。


「少しばかりヒトの装飾の度合いを測り間違えていたようです。まさか裸に一枚布をまとっただけのような格好とは…」


 トーザは大きくうなだれていた。


「例え方が酷いよな、ってすると俺らから見たら獣人は服の上に服着てることになるのか。服着ながら風呂入るみたいなもんか?」

「ヒトと比べるとそんな感じだと思いますよ」


 トーザは自分の裸で見慣れてるんじゃないかと思ったが、自分の体と他人の体は別らしい。

 まぁ、わからなくはないが、自分の体で多少は見慣れてくれないか。


「私は、共用のお風呂に入れるのでしょうか?」


 悶々と1人煩悩と戦うトーザを他所に俺は早速風呂に入る準備に取り掛かった。

 荷物の整理も済んだことだし、俺はローブを脱いだ。


「何をしているのですか!?」

「はっ?えっ?何っ?」


 トーザの突然の叫びに動揺した俺は脱ぎかけのローブをとりあえず体に羽織らせる形となった。


「そ、そんなはしたない格好で私の前にいないでください」

「いや俺達男同士だし、そんな目で見る方が変だろ?」

「獣人は多種族で暮らしているのでオスやメスの細かい違いを基本気にしません。ヒトは皆露出が多くて困ります」


 獣人は顔よりは全体的な見た目や匂いで雌雄を判断してるらしい。


「勘弁してくれよ、そしたら風呂はこれからどうやって入るんだよ?」


 俺はもう限界だったのでローブを放り投げた。

 すると見る見るうちに顔を真っ赤にして鼻から血を一筋垂らしながら倒れてしまった。

 ちょうどいい、こいつが伸びてるうちに荷物をまとめて出て行ってしまおう。

 資金はそこら辺歩けば調達できるし、少しはこいつの懐も何かあるんじゃないか?

 そうして俺はトーザをペタペタと触っていったが、金目のものが一切なかった。


「ま、マジか…流石野生児…」


 俺はトーザの懐に数枚自分の分を入れて部屋を去った。

 まぁ、あれだけあれば2,3日はどうにかなるだろ

 そんな事を考えながら宿を後にして大通りに向かった。

 結構大きな町なのだろう。

 人の川が見事に出来上がっている。

 川に揉まれるとどうなるかって。

 俺の場合はこうなる。

 人の邪魔にならないギリギリの隙間に少し体積の多い俺がねじ込まれる。

 と同時に懐が少し重たくなるのがわかる。

 しかし欲張ってはいけない、ちょっと盗んだと思ったら返したいと願う。

 と、超運の女神様は持ち主に返していく、それを数回繰り返す。

 しかし、その場でタップダンスするわけにもいかない。

 一応進路を決めて流れに逆らわずに進んでいく、盗っては返しての繰り返し、懐もだいぶ暖かくなってきた。

 が、まぁ、言い訳をすると少し欲が出た。

 もう少しだけ、そう言う気持ちがあったのだろう。

 俺は人ごみの中で流れがちょうど分かれている分け目にいた。

 だから、当然人と当たる確率が多い反面流れに逆らう事は出来ない。

 女神様は微笑むのだ、その天からの微笑みは無差別に俺に降り注ぐ。

 例え次ぶつかる相手がとびきりやばそうな男であってもだ。


(ちょちょちょちょちょ、止まれ止まれ止まれ〜!!)


 俺の、人より少し体積の大きい体が、何の抵抗もなく長身で厳つく数人子分を従えてそうな男にぶつかった。


「うぐっ」

「イッテェなおい!!」

「ごめんなさい悪気はありません!!」


 俺は速攻で土下座した。

 もしも大会があったら優勝も狙えるだろう。

 ただし、懐の重さとともにどう言い逃れようか試行錯誤している。

 加えて、背中から尋常じゃないほどの汗が滴り落ちる。

 辺りにできていた人混みが嘘のように散り、俺とその男とその子分を除いて丸く空間ができていた。


「あ、兄貴ぃ!!兄貴の大切な剣が!!」

「あ゛ぁ゛!?」


 そういえばさっきから何かを握りしめながら土下座している事に気がつく。

 シーン…、とあたりは静寂に包まれ俺の手には随分と立派な剣の柄が収まっていた。


「て、てめぇ!!」


 あまりに怒り狂った男は顔を真っ赤にさせてユデダコのようにプルプルと震わせていた。


「あ、え、いやっ、そのっ!!」

「もしかしてロベリアの奴らか!?」


 俺は重たい剣を返すことも、話の内容を理解することもできずに、慌てふためくだけだった。

 すると男は思い切り握りこぶしを作りこちらに飛び込んできた。


(俺の超運もここまでか…)


 俺は手で顔を覆い塞ぎ込んだ。

 しかし、衝撃が来ることはなく、ゆっくりと腕の隙間から前方を見てみると、さっきまでよく見た後ろ姿を目にした。


「ト、トーザ、お前なんで!?」

「私が村に出たとき、決めていた事があるんですよ」


 トーザは男の拳を両手で受け止めて拮抗していた。

 男は困惑顔で、それでも力を込めていた。

 トーザは細い腕が震えながらも俺の方に少し顔を傾けた。


「ヒトの友達を作ろうって」


 守る事でいっぱいいっぱいなのか、その声は押し出したようにか細く、しかししっかりと俺に届いた。


「ば、馬鹿じゃねぇの?俺とお前は他人同士で、俺はお前とどっかで別れる事を考えてた。あわよくば金を奪おうと思ってたんだぞ!!」

「さっきからごちゃごちゃうるせえぞ!!」


 男が拳を振り抜きお互いに少し距離が開いた。

 トーザは俺をかばうように左手を出しながら中腰の姿勢でズルズルと滑り込んできた。


「僕の懐にお金を入れてくれたのもそうですが、後は…目ですね」


 トーザは向こうの男へと視線を固定したまま口を動かした。

 俺はただ、続きが話されるのを待った。


「私と同じだと思いました」


 ああ、わかった。

 わかったよ。

 そうだよな。

 同じだったんだ。

 なんやかんや言ったって全部が建前だ。

 本当は心のどっかでずっと思ってたよ。


「「英雄になりたいって!!」」


 俺は立ち上がり、剣を足で踏んだ。

 当たり前だが、男はもうこれ以上赤くならないだろう顔をさらに真っ赤にしてこちらを見ている。

 頭の血管の一つや二つ千切れてくれれば良いのにって思う。


「俺はどうしたら良いんだ?」


 俺は腕を組んで踏ん反り返ってみた。

 トーザはゆっくりと体を少し屈ませて走り出す準備をしていた。


「彼は私が相手をするので、周りの相手をお願いできますか?」

「あ、はーん、成る程、3対1ってわけね」


 正直後ろの奴らも普通に強そうなんだけど、女神様、今回は頼むぜ。


「では、行きますよ」

「行け行け好きに行け、俺は後から行くわ」


 こうして俺とトーザの初めての共闘が始まるのだった。

トーザの苦手なもの「露出」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ