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1話 出会い

「クッソ、このままじゃ追いつかれるのも時間の問題だぞ」


 俺はひいき目に見ても、スマートとはいえない体型で、人よりほんの少し存在する体積が大きいのは否定しない。

 地面に足が触れるたびにどっしどっしという効果音がついていてもおおむね許そう。

 半殺しだ。

 だけど、そんなのは基準が人の話であって、今まさに比べ物にならないほど地面を揺らしながら木々をなぎ倒しながら着実に詰め寄ってくる生物がいた。


「話が違うぞこのやろう!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 話は少し遡る。

 紹介がまだだったな。

 俺の名前はニスト・ディーシェ。

 とある町で生活する普通の少年、とは少し違う。

 説明するよりも見てもらった方が早い。

 ということで、俺はいつも通りフラフラと町を歩いていた。

 そこそこにぎわっているこの町は意外と人通りが多く、よそ見してるとぶつかったりするものだ。

 今もここの町の者じゃない奴が目移りしながらこちらに向かってくる。

 俺はそれをあえて避けようとはせず、気の向くままに衝突した。


「あ、すみません」

「いえいえ、こちらこそすみません」


 まぁ、そういうこともあろう。

 周りが気になって目の前が疎かになる事はしばしばある。

 だから、俺の手元に「誰かの財布」があっても何ら不思議はない。


 まぁ、ざっとこんなものさ。


「あ、すみません。財布落としませんでしたか」

「えっ、あ!ほんとだ、わざわざすみません」


 せっかくこの町に来たんだから楽しい思い出で終わってほしいからな。

 こういうのは「身内」で行うものだ。

 俺は「もう一つの誰かの財布」をとり出した。

 実は俺は運がいいんだ。

 まず、失敗したこともないし、ばれたこともない。

 遅刻したことも約束をすっぽかしたこともない。

 遅刻した日に限って何かが起きてたり、約束をすっぽかした日に限って、相手に急用ができてるんだからここまで来ると怖いくらいだ。

 きっとどこかで幸運の女神が俺に微笑んでくれているに違いない。

 ただ、難点があるとすれば、毎日がつまらないってことだ。

 そんな俺に転機が訪れた。

 実は、日夜俺たちの町にはこういううわさが流れていた。


―5つ集めると願いが叶うと言われる石がこの世界のどこかにある―


 その石の名前は「マシンセキ」と言うらしい。

 俺はその話を聞いたときから冒険に出たくて出たくてたまらなかった。

 ちょうどいいことに、俺の町には、まぁ何もないのだけど、唯一観光の名所となるものが存在する。

 それが、「マシンセキ」の場所がわかるといわれる伝説のリングである。

 それは、偉大な男がモチーフの銅像がかかげていて、正直銅像がでかすぎてリングはかすんでしまっていた。

 それを俺は盗んで旅に出ようと思ったのだ。

 俺はその期をうかがっていた。

 そして、その日はきた。

 嵐の夜だ。

 俺はそこら辺のごみをリングの形にして銀色に光らせたものを持ち、両親の寝静まった時を見計らって家を出た。

 本当に運がよく、家に出るのもはばかれる突風がなぜか俺にだけは吹いてこなかった。

 俺は銅像まで来て、よくよく考えた。


「いや…、この体型じゃ無理じゃね?」


 俺は自分の腹を少しつまんでふよふよと動かしてみた。

 連動して他の部分も動きだるんだるんという効果音とともに弾んだのがよくわかった。


「よし、投げてみるか」


 運動ができるというわけではないが、上手い具合にこのクズリングを投げればいい感じに上のリングにあたって落ちてくるだろう。

 俺は大きく振りかぶって思いっきり投げた。

 そのゴミは放物線を描きとんでもない方向へと飛んでいった。

 そう思った瞬間だった。

 大きな風が吹いてきて浮き上がった先は例のリングのところ。

 上手い具合にそれがごみにヒットしてぽろっと落ちてきた。

 俺が手を差し出すときちんと入り込んできた。


「おし、計画通り」


 なぜかキメ顔をかまし、俺はこの町から去ることを決意した。


「大豪邸、絶世の美女、大金持ち、世界最強、頼むぜ幸運の女神様!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そうして、時をもう少し進めるが、結果として俺が追われることはなかった。

 不思議なくらい何もない。

 これは女神様も微笑み通り越して爆笑に違いない。

 俺は口角が上がって仕方がない中、町と町をつなぐ一本道で周りに人がいなかったので、例のリングを覗き遠方を確認する。

 すると小さく点滅する赤い光が一つ見えていた。


「結構歩いた気がしたんだけどな。これはかなり距離があるんじゃないか? まぁ、2、3個あった点滅が1つに絞られただけ良しとするか」


 そうだ、「マシンセキ」の場所が分かるのは俺だけなんだ。

 俺には幸運の女神様だっている。

 まぁ、気楽に行こう。

 そう気を抜いたからか、日頃の行いのせいか、小さな影が俺に飛び込んできた。


「おわっ、な、なんだ!?」


 俺はとっさに腕を顔の前で組み防御の姿勢をとった。

 しかし何も起きないのでキョロキョロと辺りを見回した。

 するとエリマキトカゲが足早に林の中へと姿を消した。


「なんだ、脅かしやがって」


 俺は一息つき、手を膝に置いた。

 何かがおかしい。

 俺は今普通に手をついた。

 手にはリングを持ってたはずで膝に手を乗せれば勿論金属が当たってそこそこな不快感が得られるはずだが。


「な…ない!!」


 慌ててさっきのエリマキトカゲの消えた林へと飛び込んだ。

 クソ、あんな小さな生き物をこんな草だらけの場所から見つけるなんて至難の業だぞ。

 俺は急に不安な胸を落ち着かせるように一旦立ち止まり深呼吸した。

 しかし、それは杞憂に終わり、目の前がカサカサと音を立てたかと思うと、先ほどのエリマキトカゲが例のリングを持って飛び出してきた。

 俺はほくそ笑んで、しかし素早いエリマキトカゲを逃さないようにしっかりと目で追いかけた。

 しかし妙だ。

 エリマキトカゲが引き返してくる理由は何だろう。

 それが頭をよぎるのと地面が揺れていることに気がついたのは同じくらいだった。

 まず一つ、例のリングを取られたことによる焦燥感。

 そして二つ、エリマキトカゲが帰ってきた安堵。

 最後に三つ、そいつがちょこまか逃げること。

 それらのせいでかなり揺れが大きくなってからそれに気がついた。

 しかもその揺れは徐々に近づいていることも。

 俺は背筋が凍りつくような感覚がして無我夢中で振り返った。

 振り返った途端木々の間からけたたましい叫び声とともに巨大なオオトカゲが飛び出してきた。


「GYAOOOOO!!」

「おいマジかよぉぉぉ!!」


 俺は自分の目と鼻の先にエリマキトカゲがいることすら忘れ全力で逃げ出した。

 そうして時は現在にやっと戻ってきたわけだ。

 これはまずい、下手したら、いや運が良くても生き残れるのか?

 とりあえず俺はダッシュで直進に走り出した。

 町と町をつなぐ道を横切り反対側の雑木林に突っ込んだ。

 少しはこれで足止めが出来ればと考えた3秒前の俺を殴り飛ばしたい。

 ドミノ倒しかってくらいの手軽さであっさりなぎ倒される音が聞こえてくる。

 地獄か。

 兎に角俺は大きく左右に走ってオオトカゲを少しでも減速させようともがいた。

 しかし効果が大きければ大きいほど自分への負担も大きく、正直体力の限界を即座に感じるのだった。


「はぁ、はぁ、くそっ、こんなところ…でっ!!」


 悪態を吐いても何も変わりゃしないのはわかってるが、それでも叫ばずにはいられなかった。

 しかし、そんなことをすれば呼吸が乱れて余計しんどいんだよな。

 本気で自分をぶん殴りたい。

 何この悪循環。

 なんて1人脳内会議をとり行なっている時に突然人影が現れた。

 俺は少し戸惑ったものの、動かすだけでいっぱいいっぱいの足が素直に回避することも止まることもできるはずもなかった。

 このままでは目の前の人影にぶつかるし、そうしたら一緒に転げてザ・エンドってわけ。

 俺はどこか他人事な感じで、「あぁ、死ぬんだな」なんて思っていた。

 目の前の人影は一瞬のうちに消えた。

 と思うほど一瞬にして俺の後ろに行った音がかすかに聞こえた。

 俺はそれに見とれてとっさに振り返り転げる。

 その人影はさっきと変わらない速度でオオトカゲに迫っていた。

 と思った次の瞬間消えて地面の落ち葉が舞い上がった。

 その舞い上がりに目を追うと、その人影が高く飛んだことがわかった。

 しかもオオトカゲを少し越すくらいの高さで。


「コルテージ!!」


 するとフワッと浮いているような状態から急降下した。

 その姿はまるで一筋の稲妻のようだった。

 ドゴンという硬いものに大きなハンマーを振り落としたような鈍い音が辺りに響き渡った。

 あまりの大きさに爆発が起きたのではないかと錯覚するほどで、俺は頭を抱えて縮こまった。

 同時に木々を住処としていた鳥類があたりへと散り散りになった。

 先ほどの騒々しさから打って変わり、物音一つしないこの空間は、土の香りが無ければ1人暗い底にいるような錯覚を覚えるほどだった。


「大丈夫ですか?」


 この静寂の支配者であった声の主は、どうやら俺と同い年くらいの少年だと思う声であった。


「あ、あぁ」


 俺は現状が理解できず、そう答えることで手一杯だった。


「怪我がないようで何よりです」


 きちんとした話し方が息苦しかったが、命の恩人には変わりない。

 俺は服のチリを軽くはたきながら愛想笑いを浮かべた。


「助かったよ。命の恩人さん。えーっと、名前は…」

「いえいえお気になさらず、私の名前はトーザです」


 爽やかな笑顔で手を差し伸べるトーザの手を握り返す。


「世界平和を目指す者です」


 その爽やかな顔に似合わないギラギラとした瞳が、どこかの誰かさんと重なって、俺も笑みをこぼす。


「ハハッ、気が合いそうだ」


 俺はまだ知らなかった。

 この出会いが、最低な旅になる始まりだったなんて。

初めまして、桜冠ルピナスと申します。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

ついでに、ザエンドはわざとです。

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