#1-36 料理対決 襲来!! ②
「2人とも、出来たよー!」
谷口さんの声が聞こえたので食卓に向かう。卓上には、豪華な料理の姿が・・・そこにはなく、料理は何故か1枚の大きな食卓カバーで机ごと隠されていた。
「あれ、なんで料理隠してるの?」
「萩原君にこうしろと言われたの。」
「どういう事?」
「勝敗をつけるためだ。」
自分が疑問に思うと、龍君が食卓に入ってきてそう答える。
「龍君、どういう事?」
「言っただろ? そこの女の料理が直人の口に入れていいのか、俺が確かめてやるって。審査基準は見た目から始まるからな。だから、隠すように指示した。」
何それくだらない。折角の3人での食事なんだから、もっと皆でわいわい楽しめばいいのに。
「萩原君、合格基準はなんでしょうか?」
「そうだな・・・俺が『不味い』と言わなかったらお前の勝ちという事にしておいてやる」
「それってちょっと判定が甘いんじゃないの? 私は師匠と萩原君に『美味しい』と言ってもらう為に作ったんだけど?」
「ふっ、俺は数々の人の料理を口にしてきたが、99.7%の料理を酷評してきている。ましてや、『美味い』と言った事など生涯1度も無い」
そんなドヤ顔で言える趣味じゃないと思うぞ。
「つまり、お前の料理に対して『不味い』と言わなかった時点でお前の料理は上位0.03%だ。これでも何か文句はあるか?」
「随分と舐められているね・・・分かった、それでいきましょう」
谷口さんは自分と龍君に席をつくように促し、食卓カバーを外す仕草を見せる。
「それじゃあ、いくよ!」
バサッ!
う、うお・・・!
食卓カバーを取りだし、出現した料理には至極圧巻した。
まず、目に引かれたのは主食には炊き込みご飯だ。無論、ただの炊き込みご飯ではない。お椀の頂上に半熟卵が添えられているのだ。
米の上には生卵や目玉焼きが乗せられるイメージが強いのだが、あえて彼女は半熟卵をそのままぶち込んだのだ。ただ半熟卵が乗ってるだけなのに、何でここまで食欲が注がれるのだろうか。
更に主菜・副菜には豚肉の野菜炒めが光り輝き、豚肉を余らせたからなのか、汁物には熱々の豚汁が注がれている。もはや、一品一品が食欲の塊と化している。
いつも出してくれる【神々の品】の見た目は120点満点なのだが、今回は200点満点つけよう。うん、ここまではいつも通りだ。
「ふむ、見た目は悪くないな。」
あの龍君でさえこの評価。この実力は食レポ担当の龍君から見ても本物なのだろう。
「今日はスタミナ料理にしたんだ」
「気付いた? 特に萩原君は2週間ダンジョンに篭っていたらしいからね。だから体力をつけて欲しくて」
気遣いも200点満点。
「ふん、幾ら見た目や気遣いを配るのは料理人として当然の義務だ。全ては味に掛かっている」
ツンツンしてるねぇ。
「谷口さん、何時もありがとう」
「う、うん……」
テレテレとしながら彼女は返事をする。
「直人、お前なんか変わったな。」
「そう?」
「なんというか、お前そんな無遠慮な奴だったっか?」
「そうなの? うーん、変わった自覚は無いんだけど。」
もしかして、無意識に告った事で何か変わったのかな? いや、フラれたから吹っ切れただけなのかもしれない。
「まぁ、いい。さっさと食べるぞ。」
「そうだね、頂きます。」
手を合わせて感謝を込めながら、食べ物を口に入れていく。味の方は・・・まぁ、ノーコメントで。今回は自分より龍君の感想の方が大事だ。
自分と谷口さんは大人しく龍君の方の感想を待つ。
「……」
「……」
「……普通だな。」
うん、知ってた。
「何だ、これは。こんな物食った所で何も感じないぞ? ふざけているのか?」
「……」
予想通りの酷評を聞き、谷口さんは少し顔を下げる。
「おい、直人。なんで今までこんなクソ料理に文句を言わなかったんだ?」
「別に文句の言いどころなんてないし、龍君こそなんか文句あるのか?」
「腐るほどある。まず何から何まで普通だ、主食・主菜・副菜何もかもだ。これほど何も感じる事が出来ない料理は初めてだ」
「ふーん、で、他には?」
自分は龍君の評価に違和感を察し、他の意見が無いか委ねてみる。
「それは・・・それだけだ。食に感情を持たないのはもはや料理ではない、論外だ」
「そう、じゃあ、合格でいいかな?」
「は? どうしてそうなるんだ!?」
「だって、不味いって言ってないじゃん。」
「……まz……」
「……」
「まz……ま……何故だ……何故言えない……?」」
あーあ、気付いちゃった。
「谷口さんの【神々の品々】はね、少し不思議な品々なの。確かに味は『普通』なんだけど、あまりにの『普通』さに『美味しい』と『不味い』が言えなくなる呪いのようなものが掛けられるの。」
「何だそれは!?」
「つまり、龍君が『不味い』と言わない限り、この勝負は谷口さんの勝ちになるよ? ほら、頑張って言ってみな。」
「まっ・・・クソっ! 味が普通すぎて『まっ…‥』なんて言えねぇ!」
「それに『何も感じない』って言ってたよね? それって龍君が一番求めていた料理なんじゃないの?」
「……どういう事だ?」
「今までの龍君の食レポって、
『塩見が足りない』
『火加減が強すぎる』
『材料がgm』
『スープに虫が入ってる(卓上調味料を全部倒す音)』
って結構相手の不十分点をしっかり指摘しながらボロクソに叩いてたよね? でも、今回の【神々の品】に何か不十分点があったか?」
「……」
「無いよね? だって谷口さんは毎日懸命に料理の分野を研究し、『完璧』な品を作り上げてる人だからね。食レポのプロの龍君でさえ、不十分点を見つけられない程にね。【神々の品々】こそ、龍君が今迄求めていた『料理』だと自分は思うんだけど?」
「そんな事は・・・」
龍が今まで気持ちよくボロクソに叩けたのは、相手の『不十分点』を明確に言葉に表せたから。しかしそれもここまで。今日食した【神々の品々】も他の料理に例外なく、『不十分点』を感じている。だが、同時に『不十分点』を言語化することが出来ていない。だから、『普通』や『何も感じない』といった適当な事しか言えなかったのだ。
「これが、俺の求めていたものなのか?」
「そうなんじゃない?」
「屈辱だ」
「そんな事言うなよ。」
「てか直人……『美味s……っ』や『不z……っ』が言えなくなる呪いに掛かるって言ったよな?」
「もしかして『美味しい』と『不味い』って言ってる? そうだけど?」
「何でお前は普通に喋れるの?」
「谷口さん、今日も美味しいよ。」
「だから何で普通に喋れるの!?」
「これは敬意と感謝の『美味しい』だよ。例え味が普通でも、毎日懸命に努力している【神々の品々】を独り占めさせてもらってるんだ。そのくらいの敬意と感謝を持たないと駄目でしょ?」
「ししょー???」
あ、ヤバイ。なんか谷口さんがドス黒いオーラを出してる。
「それって今までの『美味しい』は本心じゃなかったって事?」
「……」
「……」
「……はい。」
「どーして今まで教えてくれなかったの?」
「…………すんません。」
「本心じゃなくても『美味しい』って言ってくれるのは嬉しいよ? でもね、不服と感じるならそこを指摘して欲しいって何時も言ってるよね?」
「本当にすんません。」
この後、豚汁が冷めるまで2人は説教された。




