#1-35 料理対決 襲来!!
「あ、そうだ。龍君ってなんでムーショックさんの名前使ってるの? お陰で世間が大変な事になってるんだけど。」
「俺は目立つのが嫌いなだけだ。外野がうるさいと目障りだからな。だから目立ちたかりな某無職を使ってヘイトを向こうに傾けている。」
「ムーショックさんに怒られたりしてない?」
「本人許可済み。」
「あ、うん……そうか。」
「で、そっちはどうなんだよ。」
「ん?」
「現状報告。」
「え? 別に何ともないけど……適当に検証して、ダラダラ攻略サイト作る生活を送ってるだけだけだよ?」
「そういう事じゃない。そこの女が直人の足をどのくらい引っ張ってるか聞いてるんだ。」
「うっ!?」
痛いところをつかれたのか、谷口さんは一歩後ずさりする。この人前も谷口さんにマウント取っていたよね。 龍君は何を根拠に谷口さんをそんなに嫌ってるんだか。
「別に何も足なんか引っ張ってなんかないよ。毎日助かってるし、こんな辛い作業にずっと付き合ってもらって感謝してるよ。」
「師匠……」
「師匠?」
『師匠』という単語に龍君は目を細める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
あれ、なんか空気変わったぞ?
「お前ごときが直人を師匠と呼んでいるのか? 直人にそう言わされたのか?」
ピクリ。
谷口さんが龍君と初対面で鉢合わせた時は、あまりにのオーラと威圧に委縮していたが、今回は2回目だからなのか完全にやられていないようだ。わずかながら対抗する意思を感じる。谷口さんは彼を見上げ、言葉を発する。
「いいえ、私自身の意思でそう言っています。」
「お前ごときが直人と師弟関係になれる訳ないだろ。」
「へ、へぇー、それはどういう事ですか?」
「分からないのか? お前ごときが直人の隣に立てるわけないと言ってるんだ。」
「ふーん。でも、師匠は助かってるって言ってくれてますが?」
「そんなの本心じゃないに決まってるだろ。」
「いや、それは本当に本心……」
「お前は直人の実力を何も知らない。お前と直人は5と53,0000くらいの差がある。何も知らない癖に師匠呼ばわりするとか完全に舐めてるだろ? 今すぐ地面に這いずり、300年間土下座してろ。」
だからなんでそんな過剰評価してるんだ。自分が強いと思ってる部分はRPGだけでそれ以外は皆無だよ。容姿、身長、運動神経……社会に役立つあらゆる分野で目の前の2人に5と530,000くらいの差があるのに……龍君に過剰評価されるほど、自分が惨めになってくるからもう止めて欲しい。
「師匠が凄いのは分かるよ? 今まで私が見てきた誰よりもね。私の不甲斐なさもちゃんと理解しているつもり。」
はい? 谷口さん?
「でも、貴方は一体何なの? 貴方は師匠の何なの? これは私と師匠の問題なので第三者の貴方が指図しないでください。」
あの龍君に対抗してる人生まれて初めて見たかもしれない。
「俺は直人を一番近くで見てきた人間だ。第三者ではないから出しゃばっている。」
「そう? でも、師匠をパーティーに誘ったのにフラれたみたいじゃない? それで一番近くで見てきた者って唯の自己満足じゃないの?」
「調子に乗るなよクソ尼。今すぐその髪を全て引きちぎってハゲにして宇宙の塵にしてやろうか?」
宇宙の帝王は自分じゃなくてお前だろ。
バチバチバチ……!
あれ、なんで喧嘩しているのこの人達。しかも、喧嘩内容すっごいくだらなくない? 谷口さんは龍君に一目惚れしてたんじゃなかったの?
いや、これはあれだ。喧嘩する程仲が良いって奴だ。痴話喧嘩みたいな奴だ。うん、きっとそうだ。
それに少し変なんだ。谷口さんは基本誰にでも優しく接している。それなのに、現在ほぼ初対面の龍君をボロクソに言っている。つまり、龍君にだけ特別扱いしているイコール、龍君に特別な感情を抱いているという事だ。
この喧嘩は大きな進展なのかもな。これは応援のしがいがありそうだ。
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幾時が経つと、龍君は大分調子が回復したからなのか布団から出る仕草を見せる。
「もう大丈夫なの?」
「ああ。」
「今日は泊っていきなよ。自分達も今日は休んでるし、明日からまた頑張ればいいよ。」
「そうだな。」
良かった。意外と素直に頷いてくれた。これで今からダンジョン行くって言って出て行ったらキレてたかも。
「夕食はどうする? 折角の休みだし外食でもする?」
「いや……手間かかるし外食はクソ不味い。」
「ちょっとは物言いを考えたらどう?」
「休みだし、今日は俺が作る。」
「いや、いいよ。一応客なんだし。」
「じゃあ、誰が作るんだ?」
「谷口さん。」
「……は?」
龍君は『何言ってるんだコイツ』という表情を浮かべながら谷口さんを凝視する。
「まさか、俺がこんな奴の飯を食えと言ってるのか?」
「まだ食った事すらないのにそんな事言うなよ。」
「ひ、師匠!」
ガシッ!
「うわっ!?」
直後、谷口さんに腕を引っ張られ、龍君と距離を置かれる。彼女は壁越しで龍君に声を聴かれない様にしながら、自分に耳打ちをした。
(師匠!? まさか、萩原君の分も作れって言ってるの!?)
(そうだけど……流石に龍君にだけ食わせない訳にはいかないでしょ。)
(絶対に私の料理にボロクソ言われるって!)
(大丈夫! 谷口さんの料理は【神々の品々】なんだから、もっと自分を信じろって!)
(やめて! それ私の黒歴史だから!)
黒歴史だったんだ。
「おい、さっきから何ボソボソと喋ってる? 俺はその女の飯を食うなら、食わない道に進むぞ?」
「まぁまぁ、谷口さんの料理は【神々の品々】と言われているほどの絶品なんだよ。一度口に入れてみたらどう。」
「師匠!?」
「ほう、【神々の品々】か。」
「なんで食いついてるのっ!?」
なぜ、食いついたのかって? 答えは簡単だ。龍君は食に飢えているからだ。
こう見えて、龍君は美食家である。自分が作ったものより美味かったら『美味い』と言うし、不味かったら『不味い』とはっきり言うタイプの人間だ。
それと同時に、龍君の料理スキルは既にカンストしており、龍君より料理が上手い生命体などほとんどいない。そこら辺の料理人程度ではボロクソに言われるほど、龍君の料理は絶品なのだ。
自分の作った料理より美味くないと満足しない。同時に、自分より美味い料理を作る人間はいない。そういう意味で彼は食に飢えてるのだ。
「それは美味いのか?」
「少なくとも、『不味い』とは言わせないと思うぞ?」
「ほう。」
龍君は興味津々に谷口さんを見ると、彼女は冷や汗をかきながら委縮する。
「よし、女。その【神々の品々】というやらを今すぐ作れ。お前が直人の料理人に相応しいか俺が確かめてやる。」
「わ、私なんかそんな大したもの……」
「出しゃばりはいい、さっさと作れ。」
「で、でも……も、もしお気に召さなかったら……」
「殺す。」
「は、はひぃ……!!!」
こうして、龍君の拷問を受けた谷口さんはキッチンに猛ダッシュしたのであった。
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自分がキッチンに向かうと、急いで何かを作っている谷口さんの姿を捉えた。
「もう……師匠はとにかく、どうして萩原君の分まで……」
「聞こえてるよ。」
「ひゃっ!? 師匠!?」
自分の存在に気づかなかったからなのか、谷口さんは驚嘆の反応を見せる。
「なんか谷口さんの愚痴って生まれて初めて聞いた気がする。」
「え? そう? ……言われてみれば、心の中でずっと腹黒い愚痴言ってるけど、実際に口に出す事はあんまりないかも……」
そうだよね、谷口さんって我慢強いし。不愉快な事はずっと心中に留めておいてる彼女にとって、愚痴は非常に珍しい。龍君の影響で彼女も変わってきているのかも。
「そんなことより、私の料理って萩原君に通用するのかな……?」
「大丈夫でしょ。」
「その自信はなんなの……萩原君ってプロが作る店の料理ですら『クソ不味い』って言ってたよね?」
「まぁね。龍君はそのくらい料理スキルが高いんだよ。」
「いやいやっ!? プロで無理なら私は絶対に無理だよ!?」
「大丈夫、自分の力を信じろ。」
「だからその自信は何処から湧いてくるの!?」




