#1-31 ファイアボール 襲来!!
谷口さんが遂に魔法を覚えた。噂では魔法の威力は攻撃力ではなく知力に依存しているみたいだから、遂に彼女は活躍出来る。彼女のステータスは鬼の様だが、攻撃力だけは貧弱だった。しかし、知力依存で威力が上がる【ファイアボール】が使える様になった事で火力が底上げされた。これからは彼女が火力役になっていくだろう。
谷口さんの知力は檜の杖を装備した状態で197まで増加している。日本の平均値は大体100程、自分もレベル5まで上げて108なので既に2倍弱差がついている。SNSの情報だけで知力が200超えているプレイヤーは見たことが無い。彼女の【ファイアボール】の威力が普通に楽しみである。
「【ファイアボール】出せれるようになった実感が無いんだけど……」
「とりあえず、壁で試し打ちしてみたら?」
御本人は魔法を使えるようになった実感が無いとの事。まぁ、ここは現実。普通に考えてそうなるよな。
「どうやって打つの……これ?」
「うーん、適当に詠唱してみたら?」
SNSでの魔法使いさんは適当に魔法名を詠唱して魔物を倒していた。適当に魔法名叫んだら使えるのではないでしょうか?
彼女は前方の壁に向かって右手を掲げる。ソワソワしている様子が伺える。初めての魔法だからなぁ。
遂に隠しきれなくなったのか、口角を少し上げて詠唱を開始した。
「天と大地に全ての恵を齎す光よ! 今その癒しを災いに転じ、あらゆる生類が平伏し、神すら有らぬ炎で全てを焼き尽くせ! 【ファイアボール】!!!」
「……」
「……」
「……」
「……あれ?」
「……何も起きないな。」
響き渡るのは彼女の意気揚々とした声量のみで、炎が出現する気配すら無かった。
「もう一度……! 天と大地に全ての恵を齎す光よ! 今その癒しを災いに転じ、あらゆる生類が平伏し、神すら有らぬ炎で全てを焼き尽くせ! 【ファイアボール】!!!」
「……」
「……」
「……」
「詠唱長くね?」
「あれ、おかしいな……詠唱が違うのかな?」
「魔法は戦闘状態じゃないと使えないみたいだよ。」
「え? 戦闘状態?」
主にスキルは戦闘状態ではないと使用出来ない。不意打ちや奇襲といった行為が出来ない。対人戦では此方が殺意を持つだけで戦闘状態になるので、奇襲は可能だが、対魔物戦では相手が此方に気付かない限り、戦闘状態にならない。戦う前にバフを掛けまくるズルは出来ないのだ。
「後、何か凄そうな詠唱してたけど、別に喋らなくても念じるだけで出せるみたいだよ。」
「ええ!? どうして教えてくれなかったの!? 」
「これらの情報元がSNSだからな。完全に信用している訳じゃない。だから、本当に戦闘状態でしか使えないのか、無詠唱で魔法使えるのか、この目で確かめる必要があった。」
「そういうのは前もって教えてくれても良かったのに……謎に一生懸命考えた詠唱を堂々と叫んで凄く恥ずかしいんだけど。」
「寧ろ、あの詠唱を一瞬で思いつくこと自体に疑問を感じるんだけど……」
「……」
「中二病?」
「違う。」
******************
とにかく、一部のスキルは戦闘状態ではないと使用出来ないのが確証された。【痛覚軽減】の方は任意発動ではなく常時発動だからずっと発動してそうだけど。後で調べておこう。今は【ファイアボール】の方だ。
「じゃあ、戦闘状態の時になったら【ファイアボール】を念じてみて。」
「了解。」
新しいヴリドラさんと対峙すると、谷口さんは杖を両手で念じ形をイメージしだす。
「【ファイアボール】」
ブオオオオオ!!!
お?
彼女の杖先から美しい赤い炎が出現した。赤い炎はやがて小さな太陽の様に美しい球体へと変貌する。太陽を操るそんな華麗な姿には1枚絵になっている。いや、お鍋の蓋のせいで台無しになってるわ。
「ギャオオオおおおおおおお!!!」
ヴリドラさんの突進と同時に【ファイアボール】が高速で発射された。
「ギャオオオおおおおおおお!!!」
途轍もない高温に絶叫を上げるヴリドラさん。HPバーがどんどん減っていき、直ぐに空になった。
「おお、一撃か……」
とんでもない威力だな。クリティカルでも出たのかな? でも、クリティカルは主に物理攻撃のみ発生する事が多く、魔法にはない傾向がある。クリティカル無しで1撃で葬れるとしたらとんでもない威力だな。これが知力200弱の魔法か、恐ろしいぜ。
「す、凄い手応え。」
谷口さんは初めて有効な攻撃手段を得たのか、驚愕と微笑の表情を浮かべている。
おっと、見惚れている場合ではない。彼女のステータスを確認しなくては。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【谷口彩香】
MP:161/164
ーーーーーーーーーーーーーーー
初めてMPが減っている、消費MPは3か。これは多いのか少ないのか分からない。MPが164あれば54回打てるけど、回復手段次第かな? 寝れば回復するのか、時間経過で少しずつ回復するのか、MP回復ポーションやレベルアップしない限りは回復しないのか……それはいずれ調べなくても分かる事か。
「というか谷口さん、今手応えが凄かったって言った?」
「え、そうだけど……?」
自分は手を顎下に当てて考察する。
彼女には少し汗を流しているように感じる。これは疲れているのか? あ、もしかして……
ーーーーーーーーーーーーーーー
【谷口彩香】
ST:154/174
ーーーーーーーーーーーーーーー
やっぱり、そういう事か。
「魔法使うとMPだけじゃなくてSTも消費されるみたいだね。」
「え? あ、本当だ!?」
「MPが残っているからといって連発は出来ないということか。」
【ファイアボール】1発でSTが20も消費されている。つまりシャトルラン20回分の体力が持っていかれると言う事。STは常に動き回る前衛職が主に必要なのかと思っていたけど、スキルでSTを消費するなら後衛職の方が必要なのかもしれない。
「ST鍛えた方がいいかな? 毎日走った方がいい?」
「いや、谷口さんは元々ST自分の3倍あるからいいよ……」
これ以上ST伸ばされると自分が惨めになるから止めておく。それに、走れば最大STが伸びてくれるかも分からない。レベルアップで最大ST伸びてるから変に筋トレするよりも、レベリングした方が確実で安全だ。
「「ギャオオオオオオオオオオオ!!!」」
2体の新しいヴリドラさんが襲い掛かって来た。
「丁度いい。谷口さん、2回連続【ファイアボール】打ってみて。」
「うん、分った!」
指示通りに彼女は【ファイアボール】を1発放ち、ヴリドラさんを一撃で葬る。また一撃か。これもクリティカルではなく通常攻撃っぽい。
「あれ、打てない?」
とここでトラブル発生。1発撃った所までは良かったが、2発目は何度も念じる素振りを見せても【ファイアボール】が出せなかった。ヴリドラさんはやがて接近し、【火炎】のブレスを吐いてきたので、自分達は何も危なげも無く麓に避難する。
「師匠! 2発目が打てません!」
「もう一回やってみたら?」
「え? ……あ、出せた。」
腑抜けた発言をしながら巨大な【ファイアボール】が目の前に出現し、ヴリドラさんを一撃が葬る。
「なんで、あの時出せなかったんだろう? STもまだ残っているのに……」
「【ファイアボール】を打つ時に【セレクト画面】で何か変わったことなかった?」
「あっ! なんかステータスバーの左にファイアボールっぽいアイコンが出て来てたよ! なんと言えばいいか……なんか円を描いていて……」
「成程、クールタイムか。」




