#1-24 戦闘システム 襲来!!
「えっと……じゃあ、自分が谷口さんに殺意持つのでそれでいい?」
「お願いします……」
しょんぼりとした谷口さんがそう答える。
システムを知る目的とはいえ、谷口さんに殺意を向けるなんて正直やりたくない。でもやらないといけないし、躊躇ってはいけない。時間は1秒でも無駄にはしたくない主義だから。すまぬ、谷口さん。
「谷口さん、お死に下さい!!!」
自分は羞恥と悔恨を全て捨て、檜の棒を手に持ちながらそう叫ぶ。
谷口さんは突然の自分の叫びに身体が放浪する。
グサッ。
自身の身体から何かが刺さる音が響き渡った。自分はその謎の抵抗力を無理やり無視して、次の行動に移そうする。
(いでよ、ポーション!)
殺意を持つのと同時に、【アイテムボックス】を使用できるかどうか確認する。
『戦闘中に【アイテムボックス】は使用できません。』
あら、使えないのか。殺意を持つだけで戦闘状態扱いなのか。
「谷口さん、【アイテムボックス】使える?」
自分がそっと声を掛けても、彼女は硬直したまま反応しない。
「……えっ!? あっ! えっと……」
暫く経って、ようやく彼女が反応する。彼女はなにやらを念じる仕草を見せると、目の前のポーションが出現する。
「ちゃ、ちゃんと私は【アイテムボックス】使えるよー!」
谷口さん側、つまり殺意向けられる側は【アイテムボックス】使えるのか。このあたりの設定は運営さん、かなり適当に作ってるな。つまり、狙われても殺意さえ持たなければ、【アイテムボックス】使えるって事でしょ? やりたい放題じゃん。
「……」
「……」
会話が止まり、沈黙の空気が周囲を包み込む。
なんだろう、胸が痛い。
『お死に下さい!』は言いすぎてしまっただろうか? でも、間違ってはいない。明確な殺意じゃないと検証にはならないから、中途半端にやるのなら、最初からやらない方がいい。実行する意味が無いなら時間の無駄。だから、間違った事はしていない。その筈なのに……何故だろう、凄く後悔している。
彼女の様子を伺うと、非常に悲しそうな表情を浮かべていた。この姿を見て、自分は全てを察してしまった。
ああ、そうか……なんて事を。自分は彼女を裏切ってしまったのか。
谷口さんは沢山の人に裏切られている、悲しい思いを沢山している。自分でも想像もつかないような絶望を一人で抱え続けている。偽りとはいえ、自分はそんな屑野郎と同等、彼女を罵倒し裏切ってしまったのだ。想い人として失格だ。
「……ごめん。」
「え?」
「もうこんな事絶対にしない、約束する。」
「……」
突然の謝罪に彼女は困惑する。
「検証の為だからしょうがないよね? どうして謝るの?」
「……」
自分は彼女の目から逸らし、斜め上の天井を見上げてこう答えた。
「……自分はガチ勢じゃなくてエンジョイ勢だから。」
「意味わかんないんだけど。」
改めて、自分はエンジョイ勢なんだなと思い知った。リアルRPGは頑張ってガチ勢になって攻略サイト創ろうとしたけど、これは無理だな。もし自分がガチ勢になれていたら、『強さ』を求めて、何も抵抗せずに谷口さんを犠牲に出来たんだけど、自分には無理だと思い知らされた。そんな簡単に人を傷つけるなんて、自分にはとても出来ない。
そもそも、攻略サイトで世界の手助けをしようとしてるけど、一人の人間すら救えてないのにそんな大層な事出来る筈がない。
よし、これからは谷口さんを傷つけない事を最優先にしよう。少なくとも、自分の心に誓って彼女をこれ以上裏切る事はもうしない。こんなモブだけど、想い人として、これが唯一出来る事だ。攻略サイトは二の次、もう彼女は傷つけさせない。何故なら、自分はエンジョイ勢だから。
「そんな事で全然謝る必要ないからね!? 寧ろ、もっと殺意持っていいからね? 私の事嫌いになって貰わないと困るから!」
「強がり。」
「つ、つつつつ強がりじゃないですーっ!?」
「強がり。」
「違いますーっ!」
「強がり強がり強がり。」
「絶対違うーっ!!!」
「強がり強がり強がり強がり……」
便利だなー、同じ言葉を連呼するの。コミュ障でも優しい会話方法だから是非真似してみてほしい。こんな感じでもう相手にされなくなるけどね。
******************
戦闘状態の基準をもっと知りたい。とりあえず、相手に殺意や戦闘意識を持ったりすると、【アイテムボックス】が使えなくなる事が解った。だが、それは対人同士での話である。人間と魔物の戦闘状態になる基準も同じなのか確かめたい。
という訳でまたまたヴリドラさんの出番である。いつもすみませんね、今回も付き合って頂いて宜しいでしょうか?
『ギャオオオオオオオ!!!(またテメェかよ!? もう勘弁してくれよ!!!)』
ヴリドラ語は分からないけど、元気よく受け入れてくれた事だけは分かる。案の定、襲い掛かってきてくれて感謝です。
さて、この状態で【アイテムボックス】が使えるかどうか。自分はヴリドラさんに殺気は向けていない。この場合、対人同士なら普通に【アイテムボックス】は使える。しかし、相手はダンジョンの魔物。この状態で【アイテムボックス】を使えるかどうか。
(いでよ、ポーション!)
『戦闘中に【アイテムボックス】は使えません。』
駄目か、戦闘状態扱いになるのか。やっぱり対人と対魔物では仕様が違うのか。
ヴリドラさんの攻撃を【ジャスガ】し、クリティカル攻撃で1発KOする。
「次。」
新しいヴリドラさんを発見する。ヴリドラさんはまだこちらに気づいていない。こちら側が気づいて、向こう側が気づいていない状況、この状況で【アイテムボックス】を使おうとする。
(いでよ、ポーション!)
シュッ!
無空間から手元にポーションが出現する。
使えるのか。では、この状態で殺意を持ってみよう。
ヴリドラさんに気づかれないように、心中で『死ねやオルァアアアアア!!!』と叫ぶ。
(いでよ、ポーション!)
シュッ!
出てきた。殺意を持っても現れる、使えなくなる基準は何だろう?
『ギャオオオオオオオオオオ!!!(見つけちゃったから襲わないといけないじゃん、畜生ぉぉぉ!!!)』
数十メートル離れているのにも関わらず気づかれてしまった。予想外の出来事に動揺したが、直ぐ冷静になり、【アイテムボックス】を使用するとする。
(いでよ、ポーション!)
『戦闘中に【アイテムボックス】は使えません。』
ここで使えなくなると……成程ね。
ガッチーンッ!!!
ぺチッ、ペチッ!
襲いかかってしまったので、【ジャスガ】と谷口さんの杖殴りで葬っていく。
次はスナイプだな。
今度は向こうが気付かずにこちらがスナイプをした場合。弓は高いから買わずに、そこら辺の石ころを用いる。
新しいヴリドラさんを見つけると、岩陰に隠れて見つからないようにやり過ごす。
【アイテムボックス】から学校の校庭で拾った石ころを取り出す。
ピューン!
ヴリドラさんが背後を振り向いたタイミングを見定め、石ころを投げる。
カンッ!
外した、的が全長5mもあるのにコントロールが終わっている。ヴリドラさんが音に反応するが、すぐに岩陰に隠れた為バレなかった。
暫く経過してヴリドラさんの警戒心が薄れると、もう一度石ころを投げて調整する。
ピューン!
カンッ!
また外した。今度は距離が遠すぎて届かなかった。
『ギャオオオオオオオオ!!!(お前ハンドボール投げ8mだろっ!? だっすぇええ!!!)』
遂にヴリドラさんに見つかってしまった。
そして何故か、ヴリドラさんから滅茶苦茶煽られてる気がする。イラついたので、何時もよりボコボコにしておいた。




