#1-23 ジャストガード襲来!! ②
『ギャオオオおおおおおお!!!(いつまで経ってもお仕置きが来ない……これは放置プレイ!? これはこれで……はああああん!!!)』
ヴリドラさんが【押し潰し】をしようと谷口さんに襲いかかる。
お?
谷口さんはその瞳を閉じて、精神を研ぎ澄ましていた。力が完全に抜けている。明らかに前までと違う。落ち着きの精神でヴリドラさんの瞳だけを凝視し続ける。
「はああああああ……」
おお、これは【ジャスガ】が成功する確定演出!
ガンッ!
「痛あああああああ!!!」
駄目でした。
「なんでっ!? 明らかに成功する演出だってでしょ今の!?」
「力を入れるタイミングが早い。もう少し遅めだな。」
「これで早いのっ!?」
「『リアルRPG』に限ってだけど、かなり【ジャスガ】判定が狭い。【ジャスガ】判定が広いゲームなら今のタイミングで入っている。」
「どれくらい判定狭いの?」
「うーん……体感だけど1フレームくらい。」
「1フレーム?」
機械知らずの彼女は首を傾げる。
「60分の1秒。」
「ええ…‥」
普通の【ジャスガ】の判定は3~5フレームくらい。自分は【ジャスガ】を極めている身として、2フレームくらいの【ジャスガ】なら9割9分成功する。だが、『リアルRPG』での【ジャスガ】成功率は8割くらい。判定は2フレーム無いと考えていい。
「でも、力はちゃんと抜けていたから後はタイミングだけだよ。折角挑戦してるんだ、1回成功するまで帰さないつもりつもりなので宜しく。」
「ひええ……」
その後、谷口さんとヴリドラさんのタイマンが無限に続いた。自分は彼女に適度にポーションを投げながら、彼女の様子を伺う。
そして、30分後。滅茶苦茶疲れていた、主にヴリドラさんの方が。
『ギャオオオおおおおおお!!!(いつまで放置プレイする気なのよ!? あああんんんいい!!! 凄くいいぃ!!!)』
ヴリドラさんのMPが切れたのか、【押しつぶし】しかして来なくなった。やがてSTも切れたのか、動き自体も徐々に鈍くなり、何も攻撃していないのに少しづつHPが減少している。そのおかげで谷口さんにも余裕ができ、STを残していた。
谷口さんも大分慣れてきたのか、力の入れ方が桁違いに上手くなっている。後はタイミングのみ。60分の1秒の判定を引けるかどうか、それだけだ。
ガッキーン!!!
お?
明らかに違うSEが響き渡る。【ジャスガ】成功だ。反動でヴリドラが後方によろける。
バコーンッ!!!
思いのままに彼女は檜の杖で殴りかかり、クリティカルダメージを叩き続ける。ヴリドラさんのHPバーが一瞬ですべて無くなり、30分の放置プレイから解放される。
「や、やっとできたぁ……」
彼女は全身の力が一気に抜け、膝を着く。
「お疲れ。」
「えへへ……やったよ。」
「という訳で今後【ジャスガ】するのは禁止で。」
「……うええ!?」
「成功率が低すぎる。絶対に【回避】の練習した方が生存率高い。」
「そんな……」
「1回成功するのに30分も掛かって、今後安定して出せると思っているの?」
「でも、ガチ勢は必須級の技術だよね? だったら……」
「別に必須級じゃないよ?」
「え?」
「ガチ勢は皆【ジャスガ】よりも【回避】を優先している。そっちの方がずっと楽だから。龍君ですら殆どやっていないと思う。」
「師匠はどうして、【ジャスガ】しているの?」
「自分はガチ勢じゃなくてエンジョイ勢だから。」
「ええ……」
なんだ、その『お前がエンジョイ勢だったら他の奴等は一体何なんだ?』という目は。勘違いしないで欲しいんだけど、エンジョイ勢は決して手を抜いている訳じゃない。
ガチ勢とエンジョイ勢の違い。エンジョイ勢は『楽しむ』ことに全力を尽くす。それに対し、ガチ勢は『強くなる』事に全力を尽くす。全力を尽くす方向性が違うだけで、どっちも真剣にやっているのは変わらない。
自分はエンジョイ勢だが、ガチ勢を批判している訳じゃなく、寧ろ尊敬している。楽しくない事なのに極め、全力を尽くしている事に人格として敬意を感じている。龍君もガチ勢の分類で、かなり強さに執着しているプレイヤーだ。
とはいえ、エンジョイ勢として【ジャスガ】をずっと極めていたけど、練習しておいて良かったなと思う。リアルRPGの【ジャスガ】は滅茶苦茶強い。ダメージ軽減量は体感10分の1、物理は休み効果、魔法は反射、更にスタン中は確定クリティカル、ここまで強い【ジャスガ】は相当無い。その分、判定は体感1フレームで発動難易度がとんでもなく高い、そんな感じか。
「それに谷口さんは後衛職。攻撃を受ける機会が少なく、防御力の伸びも悪い筈だから、絶対にダメージを無効にできる【回避】の方がいい。敏捷性もアホみたいに高いし。」
「…‥そうなの?」
「自分だって、【ジャスガ】を安定して出せる様になるまで3年以上掛かった。それでも、谷口さんはこれから数年掛けてでも【回避】じゃなくて【ジャスガ】を選択するの?
「うう……分かった、これからは【回避】する。」
「よしよし、良い子だ。変に滅茶苦茶強い格上に【ジャスガ】しようとして、失敗して即死したら笑えないからな。避けれるものは避けて欲しい。それに谷口さんは後ろで脳死で攻撃魔法撃つ火力役になると思うから、引き付け役は【ジャスガ】出来る自分に任せておくが良い。」
「役割分担ってことね?」
「そういう事。」
谷口さんの知力は凄まじい。攻撃魔法の威力が知力依存なら、とんでもないダメージ源になる。『コマンド式RPG』では魔法攻撃より物理攻撃の方が強い傾向があるのだが、『アクションRPG』での魔法攻撃はちゃんと差別化できている。
物理攻撃は敵の麓まで近付かないといけないのだが、魔法攻撃は遠距離から出せる。安全な場所から脳死で高火力がバンバン出せるのだ、これがとにかく強い。
ただし、遠距離から攻撃魔法を脳死で打つには引き付け役、いわゆる壁役が必要だ。ここで、【ジャスガ】ができる自分が最適解。自分が敵に最接近して敵に物理攻撃を促す。【ジャスガ】をして、敵をスタンさせる。その間に谷口さんが遠距離で脳死で攻撃魔法を連打する。今後、この戦法が主流になっていくと思う。
この戦法はアクションRPGで龍君と一緒によく遊んでいた。自分が「盾職」、龍君が「攻撃魔法職」として。もし、自分が龍君とパーティーを組んでいたら、龍君は『魔法使い』になっていた、その戦法をするために。今回は断っちゃったから彼は『格闘家』だけど。
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「よし、谷口さん。自分に殺意向けて。」
「はえ?」
「攻撃しなくていい、とりあえず殺意だけ向けて。」
「どうして?」
「戦闘状態での基準を知りたい。」
「?」
「戦闘状態では【アイテムボックス】が使えない。【アイテムボックス】が使えなくなるタイミングをもっと具体的に知りたい。」
「戦闘状態かぁ……」
「だから、とりあえず自分に殺意だけを向けて欲しい。それで【アイテムボックス】が使えるかどうかを確かめて欲しい。」
「う、うん……分かった。」
ジーッ。
谷口さんは自分の目を凝視して殺意を向けようとする。
ジーッ。
谷口さんは自分の瞳を凝視して殺意を向けようとする。
ジーッ。
えっと……これは殺意なのか?
「ふえーん! 師匠にそんな事できないよー!」
可愛い。




