#1‐20 天地竜ヴリドラ 襲来③
「さっきからずっとここに居るけど、先に進まなくていいの?」
ふと、谷口さんがそんな事を問い出して来た。ここは【アパートの空部屋】の入り口から最も近い場所。つまり、ここ数時間ダンジョンに侵入してからちっとも先に進んでいない。帰ろうと思えは直ぐに帰れる、ずっとそんな環境だ。
「今回は検証がメインだから、別に先に進む必要が無い。ヴリドラさんとの闘いにおいて、まだまだ調べたい事があるし。」
入り口には天地竜ヴリドラレベル2とレベル3しか確認されていない。レベル3はレベル2より、少しだけ行動が速くて耐久力がある。ただし、行動パターン自体には変化が無かった為、難なく倒している。レベル差で変化するのはステータスだけのようだ。獲得経験値とお金もレベル2より少し多い。
ヴリドラさんの行動パターンは全て把握している。
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・押しつぶし(手から鷲掴み)
・アースボール(岩石を飛ばしてくる魔法)
・灼熱のブレス(口から炎)
・地響き(地面を揺らす、ダメージと休み効果)
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以上の4パターンからランダムでどれか発生する。魔物自体に意思を持っている気はあまりしない。行動パターンが決まっている以上、AIで動いている感覚がある。人間みたいに繊細に動いていたら、かなり厄介だったが、初歩的なAI相手なら自分の得意分野なので助かってます。
「はぁ……はぁ……」
ダンジョンに潜ってから5時間程が経過しただろうか。谷口さんの疲れが鮮明に見え始めていた。あ、しまったな……つい夢中でヴリドラさんを葬って来たせいで、彼女の事全然考えていなかった。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ……これくらい。」
無理してるかの様に彼女は笑顔を浮かべる。
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谷口彩香
ST:24/152
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「流石に少し休んだら? ST凄い減ってるよ。」
「ねぇ、師匠は大丈夫なの? STって私の3分の1も無いよね? 私でこれだから、師匠は大丈夫なのかなって……」
「いや、全然大丈夫だけど……」
谷口さんはセレクト画面を開いて、自分のSTの値を見ると、驚きで目を大きく見開く。
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松本直人
ST:51/58
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「嘘……!? どうして全然STが減っていないの!?」
「うーん、無駄な動きが少ないから?」
「それにしても、減らなすぎると思うんだけど。」
「細かい積み重ねだよ。谷口さんは戦闘中に無駄に体力を使ってる場面が多い。敵の攻撃から避ける時に無駄に多く移動したり、敵が瀕死状態にも関わらず思いっきり殴ってオーバーキルしたりね。あと全体的に力も入りすぎ、それだけで大分ST削られる。STを節約する精神は鍛えた方がいいと思う。」
「理論は分かるけど、5時間も動いてそこまで節約できるものなの!?」
「うーん、出来てるから出来てるんじゃない?」
自分は身体能力が終わっている。生まれつき身体が弱く、走るだけで直ぐにばててしまう。何とかして鍛えようと思っても、生まれつきの身体つきから、殆ど伸ばせないでいた。
そこで体力を鍛えるのではなく、体力を節約する精神力を伸ばすことにした。いかに最小限の体力で物事をこなすか、そうやって今迄生きてきた。
そう意識している内に気付いたのだ。人間って如何に体力を無駄に浪費していたのかと。
睡眠、食事、運動……日常生活においてあらゆる動き全てに無駄に身体に力が入り、エネルギーを莫大に消費していた。
この無駄な力を抑える訓練を心の中でずっとしていた、5年間くらい。努力を積み重ね続け、遂に長時間活動してもSTの消費を最小限に抑える究極の身体を手に入れたのだ。
「谷口さんは暫く休んでて。回復するまで、一人でレベリングするから。」
「いや、休んでいるだけで師匠のExpを貰うのは悪いよ……せめてパーティーを抜けて……」
「Expは平等に分けるって決めたよね? 悔しいと思ったら、休みながら自分を観察してSTを節約する動きをいち早く覚えることだよ。」
「ううう……はい……」
谷口さんが武器をしまって戦わない意思を確認すると、自分はある物を取り出して、彼女に渡す仕草を見せる。
「はいこれ。」
「?」
谷口さんに渡したのはストップウォッチと自分のスマートフォン。
「これで今のSTと回復するまでの時間を測って。」
「え、何がしたいの?」
「STの回復速度の法則性を知る為にデータが欲しい。」
「【創る側】って本当にやること沢山あるんだね……分かった。」
「それから、スマホで戦闘様子を録画してほしい。」
「SNSに上げて自慢したいの?」
「そこまで承認欲求じゃないからそんな事言わないで……ヴリドラさんの動きや速度などをもっと知っておきたい。」
「分かった。」
谷口さんは遠くで休みながら、自分の戦闘様子の撮影を始める。
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松本直人 HP:46/110
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塵も積もれば山となる。微量とはいえ、何十体も戦闘を続ければ流石にHPの減りが蓄積されていく。そろそろ、ポーションで回復した方がいいかもしれない。クリティカル飛んで来たら怖いし、回復しておくか。
いでよ、ポーション!
『戦闘中はアイテムボックスを使用する事が出来ません。』
はえ?
『ギャオオオおおおおおお!!!(女の子にかっけぇ様子撮影させてるんじゃねぇよ、糞がああああ!!!)』
シュン。
ばこーん!!!
ポーションを取り出せない事に少し焦っている最中に、ヴリドラさんが鷲掴みしようとしたが、直ぐに冷静に回避してヴリドラさんに攻撃を与える。
戦闘中はアイテムボックスが使えない? えっと、じゃあ……
ポーション!
そう念じるのと同時に、ポーションが手元に出現した。取り出せた。『袋』からなら戦闘中でも取り出せるみたいだ。
パリーン!
直ぐにポーションを真下の地面に叩き割る。叩き割った破片は飛び散ることなく消滅し、地面からは緑の光が広がっていく。
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松本直人 HP:110/110
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ポーションは別に飲まなくても、身体に掛けたり、周囲の地面に叩き割っても回復する。自分ではなく、他者にポーションを使いたかったら、その人に向かってポーションを瓶ごと投げれば良い。ちなみに、ポーションが敵に当たったら敵も回復する。結構、他者に使うには注意が必要なアイテムだ。
それでも、1000ドスコイで全回復するのは美味しい。最大HPが低くて全回復しているように見えるだけだけど、実際にはどれくらい回復するんだろう? それは最大HPが伸びたら分かる事だから今知ろうとしなくてもいいんだけど。
回復して元気が戻ると、ヴリドラに一撃を与え討伐する。
「戦闘状態で【アイテムボックス】が使えなかった。」
「えっ、それって……」
「戦闘中は【袋】しか使えなかった。成程……これで【袋】と【アイテムボックス】の違いがおおよそ把握できたか。」
その後も幾つか検証をし、『袋』と『アイテムボックス』の違いを識別することが出来た。
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【袋】
・どんなものでも最大10個までしか入れられない。
・アイテム名のみを強く念じる事で取り出しが可能。
・戦闘中にも取り出しが可能。
・【袋】に武具を入れておくことで戦闘中でも武具を交換する事が出来る。交換前の武具は【袋】に収納される。
【アイテムボックス】
・どんな物でも無限に入れられる。
・1種類に入れられる個数に制限はない。99個が上限値とはなく、100個でも200個でも1000個でも入れられる。
・『いでよ、【アイテム名】』と念じれば取り出しが可能。
・戦闘中では使えない。
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戦闘中は【袋】しか使えない。これはかなり貴重な情報だ。これを知っておけば、強いアイテムをアイテムボックスに収納して、戦闘中取り出せずに負ける事例を回避できる。今夜はこの情報をメインに掲示しよう。




