#1-16 山本雄大 襲来!!②
「聖剣エクスカリバーは何処で売っている!? さぁ、答えてください!」
「いくら勇者様でも500億ドスコイは買えないと思うのですが……」
「今は買えなくても、下見しておかなくては! なるべく早く500億集めて、誰よりも早く手に入れないと誰かに取られてしまいます!」
そうか、聖剣だもんな。数量限定でもおかしくない。
「さぁ、早く場所を吐いて下さい! 僕は1秒でも早くあの剣を手に入れなくてはならない! 何故なら僕は選ばれし勇者だから!」
「公衆トイレです。」
「え?」
「公衆トイレです。」
「ちょっと、何言ってるんですか?」
「公衆トイレです。」
「いや、公衆トイレって言ってるのは分かりますよ? 僕が聞きたいのは聖剣エクスカリバーが売っている居場……」
「公衆トイレです。」
「……」
「……」
山本は自分がさっきから見つめている方向に首を振り向く。振り向いた先には、自分が連呼してた薄汚い公衆トイレがそこにはあった。
「……これ?」
「公衆トイレです。」
「……冗談ですよね?」
「冗談じゃないです。疑うのなら自分で確かめてみたらどうですか?」
「う、嘘だぁああああああ!!!」
山本は信じられない物事に絶叫を上げる。
「だって、聖剣ですよ!? 500億ですよ!? そんな凄いものがこんな薄汚い場所に眠っている訳が……!?」
「公衆トイレです。」
「嘘ですよね!? お願いです! 嘘って言ってください!」
「嘘じゃないです。」
「……本当に本当なんですか?」
「本当です。」
「……」
「……」
「わ、分かりました。そこまで言うのなら信じましょう。ですが、今から確認しにいきます! もし嘘ついていたら、貴方を殺して差し上げますのでそのつもりで!」
「了解です。」
なんか口調が某宇宙の帝王みたいになってる。
山本はゆっくりと公衆トイレに向かって入り口前で足を止める。
「男子トイレの方ですか?」
「男子トイレです。」
「……ちっ」
何で舌打ちしたんだ、コイツ。
「何で僕がこんな薄汚い場所に……待っていてください、エクスカリバー。必ず僕がこの薄汚い牢獄から解放させてやるからな!」
勇者はそう意を決して、トイレに侵入した。
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「大丈夫か?」
自分は山本がいなくなると、直ぐに倒れている谷口さんに駆け付けている。
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谷口彩香 HP:83/140
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HPバーが減っている。また、傷つけてしまったな。やれることをやったとはいえ、自分のようなモブには力不足すぎて悔しさを噛み締める。
「師匠……あれが普通だから。」
「……何が?」
「あれが、私に対する普通の反応だから……そのくらい私は皆に悪い事をしてきいてる……師匠には、もっともっと酷い事してるのに……何で何一つ怒らずにこうして心配してくれるの? やっぱり師匠はおかしいよ……」
「……」
「……」
「これだけは断言出来る。おかしいのは俺じゃない、お前だ。」
「え?」
「お前は世間にどんな悪い事をしたんだ?」
「……」
「お前は今迄、何処かの知らない誰かの為に尽くし生きてきた。それって悪い事なのか?」
「いくら全力になっても、結果が駄目なら……」
「結果? 自分の成果を自覚してないのか? なら、教えてやるよ。現在、荒川の生徒や教師にはまだ一人も犠牲者を出していない。1日3000万人が犠牲になっているこの地獄の環境で。お前の特別授業や立ち入り禁止のレッテルが無かったら一体どれだけ犠牲になっていたか。」
「……」
「これだけ成果を出しておいて、何所の結果が駄目なんだ? お前は充分すぎる程よくやっている、俺が知っている誰よりもな。」
「その分、犠牲も多く払っている……師匠には特に沢山迷惑を……」
「誰が決めたんだ?」
「……」
「迷惑をかけただなんて、そんなの誰が決めたんだ? そんなの私利私欲に飢えた周りが叫んでいるだけだろ? お前は何一つ悪い事などしてない。少なくとも悪い事なんてしようとはしていない。腐った連中達がお前を悪者にしようと催促しているだけだ。」
「さ、催促なんかじゃない! だって、誰一人残らず私を悪者扱いにするから……私が善人な訳が無い! それなのに師匠だけは、自分を犠牲にしてまで私を助けようとしている! 私なんか助けても何も価値なんてないのに! やっぱりおかしいのは師匠だよ!」
「おかしいのはお前のような善人を悪人に染めているこの現代社会と、その理不尽な現実を鵜呑みにしているお前だ。」
「師匠は自分以外が全部腐ってると思ってるの?」
「……まあな。」
ガシッ!
直後、谷口さんは自分の両肩を強く押し付け、激憤の表情で睨みつけてきた。
「その言葉取り消して! 私は皆が……この世界が大好きなの! だからこの世界の何もかもが腐ってるなんて、そんなの許せない!!!」
「ぐっ……!」
谷口さんの強い当たりに息が苦しくなる。
「そ、そうだ……それでいい。」
自分は弱弱しく、彼女に声を掛け続ける。
「……え?」
「周りの為に怒ってくれる……そのままの谷口さんでいてくれ……自分を投げ出してでも、誰かの為に全力を尽くす……そんな谷口さんに自分は惹かれていったから……だけど、頼む……無理だけはしないでくれ……これ以上、無理に苦しむ姿だけは……見たくないから……」
「あ、ああ……!」
谷口さんは失意し、全身の力がすっぽり抜ける。
ぎゅっ。
そして何んとなしに自分の胸の中に飛び込み、泣き出した。
「ごめんなさい……ごめんなさい、師匠……」
自分は彼女の頭をぽんぽん撫で返す。
「頼む、自分にだけは謝らないでくれ。責任を感じないでくれ。少なくとも、自分は谷口さんが何一つ悪い事していないと思っているから。」
「……うん。」
「それに、谷口さんを善人だと思っている人は自分だけじゃないと思うよ?」
「え?」
「ほら、例えばあの人とか。」
自分は公衆トイレの方に人差し指を指す。
「?」
バタン!!!
「貴様ぁぁぁ!!! 俺様のうん〇を見て、唯で返すと思うたかぁああ!!!」
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「な、何だコイツはぁぁぁ!!!?」
日本が誇る屑勇者とパンツ一丁の巨体の男が、突如公衆トイレから飛び出して来た。
「兄貴ぃ!!! どうしたんでぇ!!!」
ついでに、ダンジョンに向かっていた筈の子分達が、兄貴の叫び声が聞き戻って来た。
「聞いてくれよ!!! コイツが許可無しで俺様の〇んちを覗き見したんだ!!!」
「なんだとっ!?」
「兄貴のう〇ちを覗き見しただとっ!?」
「他人のプライバシーを何だと思っているんだっ!?」
再放送お疲れ様です。
「松本ぉ!!! 貴様、嘘つきやがったなーっ!!!」
「嘘ついてますぇーん! ここの公衆トイレとは一言も言ってますぇーん!!!」
「貴様ぁ!!! 僕は勇者なのだぞ! 世界を救う英雄なのだぞ!? この僕をおちょくりやがって、絶対に殺す!」
「てか、谷口さん!? どうしたんでぇ、その傷は!?」
子分の一人が谷口さんが傷ついてる姿を見て、一驚を浴びる。
「あ、コイツがボコボコに殴りました。」
自分はすかさず、山本に指を指す。無職グループは一斉に彼を凝視する。
「ふんっ! 僕はこの世界に害を与えるゴミを処分しようとしただけですよ! それより愚民共、よく聞いてください! 」
山本は自身の頭上の職業を指で指し、強調させる。
「僕は勇者です! 日本でたった一人しか確認されていない最強の職業です! 僕は魔王を倒し、世界の英雄になる存在になります! 将来の為に、今の内に僕を讃え、下につく事をお勧めします! それに対し、そこのゴミは僕を裏切った存在です! 見た目とは裏腹に世界に害を与える、悪女です! 決して関わらないようにしてください!」
山本はそう『無職グループ』にそう演説をした。
終わった。
谷口さんはそう思った。『無職グループ』が勇者側に付くことが見え見えだったからだ。唯の『魔法使い』と日本で1人しかいない『勇者』。どちらを支持するかなど、一目瞭然だろう。
だが、『無職グループ』からは信じられないような反応を見せられることになる。
「なっ!? コイツが谷口さんを殴っただとっ!?」
「谷口さんは俺が唯一知っている『女性』。それを……こんな屑野郎なんかに!?」
「許せねぇ!!!」
「他人のプライバシーを何だと思っているんだっ!?」
「マジで性根が狂っていやがる! ガチで通報した方良くないか!?」
「それは無理だ! 全国中の刑務所が崩壊していて、110番が機能していない!」
「じゃあ、どうするんだよ!?」
「簡単だよ! 俺達が代わりにコイツをボッコボコにすればいい!」
「おっ! 言い考えじゃねぇか!」
「二度と谷口さんに近付けないようにしてやろうぜ!」
「グヘヘへへ!」
無職グループ達が山本をゆっくり追い詰めていく。
「な、なんだと!? や、やめろ! 僕は勇者なんだぞ!? 何故僕ではなく、こんなゴミを庇う!?」
「そんなの決まってるだろ? てめぇの存在自体が生ゴミだからだぁ!」
「ひ、ひぇええあああああああ!!!」
山本は無職集団の威圧に耐えれなくなり、その場から逃走を開始する。
「逃げやがった!? 待ちやがれぇ! ごらぁ!!!」
「おめぇだけは、ぜってぇに許さねぇ!!!」
「血祭りに上げてやる!!!」
「1〇円っー!!!」
全力で逃亡する山本に、無職グループが全力で追いかけるカオスすぎる描写が完成した。お、これはチャンスかも。写真撮っておくか。
パシャ。
謎の無職集団に世界が誇る『勇者』が追い回される一枚絵、後にSNSに拡散して運がよくバズらせれば、自分達の攻略サイトの知名度が上がるってものよ。
「どうして……」
谷口さんは何故、『無職グループ』が勇者ではなく、自分の味方に付いてくれるのか困惑している。
「無職グループは少し変わった力を持っていて……人の外見を見るだけで内面を知ることが出来る。少なくとも先輩たちは、自分と同様、谷口さんを善人として見ていると思うぞ?」
「そんなことって……」
「谷口さん!」
その時、無職グループの子分の一人が自分達の方に駆け付けてきた。
「これ使ってください! 多少は傷を癒せると思いますので!」
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ポーションを一つ入手しました!
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ポーションはHPを回復する液体。1個1000ドスコイ、決して安くない。深刻な金銭問題を抱えている中で、ポーションをぽんぽん渡せるのはそれだけ彼は本気で心配しているのだ。勇者なんかよりずっと。
「あ、ありがとう……」
「いえいえ、それでは! ……待ってくださいよ、兄貴ー!!!」
「ほらね? あの仕草を見ても先輩達が谷口さんを悪者扱いにしてるように見えるか?」
「……」
「……」
「……もう、なんでこんなに皆バカなの?」
彼女は頬を桃色に照らしながら、ぎゅっとポーションを抱える仕草を見せる。
今作のポーションはHPだけではなく、心も癒してくれる効果も持っているようだった。




