#1-14 職務皆無 襲来!! ②
「師匠、ここは別に普通の公衆トイレのままで施設になってなかったよー……うわっ!?」
女子トイレを捜索していた谷口さんが帰って来た。だが、外のあまりの異常の光景に彼女は驚愕とドン引きに満ちた反応を見せる。
まぁ、そりゃそんな反応するわな。だって、自分が数名の大男共に囲まれているのだから。しかも、ムーショックさんはパンツ丸出しの状態だし。
「お、お……」
また、『無職グループ』側も谷口さんの愛しい姿を見て身体が打ち震えている。
「お、女だーっ!!!」
「女だとっ!?」
「まさか、本物っ!?」
「あの幻のポ〇モンと言われているっ!?」
「いや、〇タモンに化けてるかもしれねぇぞ!?」
「いや、現実を見ろ! ここは地球だ! ポケ〇ンの世界じゃねぇ!」
「でも、今の地球はファンタジーの世界だぞ?」
「そうか! この女は魔物に化けてるのか!」
「そうか! そうだよな!?」
「俺の中の女は2次元の世界にしか存在してねぇ! 女が3次元に居る筈がねぇ!」
「じゃあ、この魔物には俺がたっぷりとお仕置きをしなくちゃな! グへへへへ!」
無職グループが谷口さんに迫る。谷口さんは圧迫した男達に青ざめ、瞬く間に自分の背後に避難する。
「なんだ、この生き物!? 直人の後ろに隠れたぞ!?」
「震えてるの可愛い。」
「こんな可愛い生き物がこの世に存在してたなんて……」
「おい直人! そのペットは何だっ!? 何処で売っている!?」
さっきから何言ってるんだ、コイツ等。
「ペットじゃないですよ……この人は谷口彩香さん。訳ありで一緒にパーティーを組んでいる同級生です。ちゃんとした女性ですよ。」
谷口さんを女性であることに困惑してるとか、今迄どんな人生を送って来たんだ、コイツ等。
「あ、あの直人が女を連れてるだとっ!?」
「あれが女なのか……生まれて初めて見た。」
「まさか3次元に女の概念が存在してたなんて!? 女が存在しているのは2次元だけで3次元はブスとババアしかいねぇと思ってたわ!」
「同じく。」
「同じく。」
「同じく。」
『無職グループ』には少し特殊な力(?)を持っている。人の内面を知る能力だ。もう少し詳しく言うと、人の姿や外見を見るだけで中身の性格を何となく知ることが出来る。原理は知らない。本人達は『無職』で培われてきた力だとしか答えてくれない。
彼らには3次元の女性には基本好意を持たない。中身が腐ってる事が見え見えだからだ。3次元の女性を女性として見ていない。代わりに『ババア』や『ブス』としか認識し、罵っている。世間から見るとチャラいナンパよりもかなりヤバい奴等。
しかしながら、彼らにとって谷口さんを『ババア』や『ブス』と認識するには無理があったみたいだ。当たり前だ、何せ自分が好きになった女性だからな。彼らにとって初めて見る『女性』、その興奮は計り知れな様だ。
と言う事はだ。谷口さんはこれから自分と同じ世界線を辿る事になる。
「谷口さん……だっけ? よかったら俺たちの『無職グループ』に入団しませんか!?」
「一緒に無職になろうぜ!」
「無職は最高ですよ! 残業もしなくてもいい!そもそも働かなくてもいい! 誰にも縛られずに自由に生きていける! ただし給料はありません!」
「資金の困っても大丈夫! パパ活すればおっけー!」
「身長202cm、34歳のお前が『ぱぱーお小遣いちょうだい~♪』とねだっても一度も成功したのを見た事ないけどな!」
このように中身が腐っていない存在を発見すると、自分達と同類だと思って全力で無職勧誘してくる。自滅行為のアホすぎる勧誘により流石の谷口も呆然としている。
谷口さんは自分にしか聞こえないように、自分に耳打ちしてきた。
(し、師匠、この怖い人達は?)
(SNSで出会った先輩。別に悪い人達じゃない。)
(先輩!? わ、悪い人じゃな……い?)
彼女は『無職グループ』の姿を見上げる。彼らの顔つきは、何というか……一言で言うととにかく酷かった。完全に谷口さんを欲望の眼差しで舌を舐めまわしており、パンツ丸出しの恰好で勧誘ダンスを披露しているのだ。
(無理無理無理!!! 明らかにヤバイ顔してるもん! ほら、あの人! 私に向かって『デュフフ』と言ったもん!)
(大丈夫、悪い人達じゃない。)
(これを見てどこがっ!?)
(そんなことより、『無職グループ』に誘われてるけどどうするの? とりあえず、返事だけはした方がいいんじゃない? 一応、相手は先輩だよ?)
(む、『無職グループ』って入ったら損する?)
(別に損はしないと思う。働く事自体禁止されるけど、誰にも縛られずに自由にやりたい事をやれるようになる。今までは資金面だけは問題視されているけど、ダンジョンに潜って稼げるようになった以上、その問題は改善されているし。別に普通に入団してもいいと思うぞ?)
さて、谷口さんは『無職グループ』に入団するのだろうか? 普通に考えて、このカオスすぎる集団に入ろうなんて誰も思わないけど、断れない性格している谷口さんだからな。嫌でも入りたいと言うのかもしれない。
もし、彼女が『無職グループ』に入ったら彼女はびっくりすると思う。見た目とは裏腹の居心地良さに。彼らは谷口さんを『人間』として見ている。幾ら谷口さんの醜い全容を見られたとしても、おそらく彼らは何も気にしない。何故なら、彼らはもっと酷い全容をしているから。
(ねぇ、師匠は『無職グループ』に入ってるの?)
(入ってない。)
「ごめんなさい。」
「そ、そんな……!?」
バタン。
「ば、馬鹿な……!?」
バタン。
「お、俺様の谷口さんが……!?」
バタン。
谷口さんの一言で子分達が次々と倒れていく。大げさすぎるだろ。
「な、何故だ……何故断る!?」
兄貴のムーショックさんにも大きなダメージを受けているが、必死に耐えて立ち続けている。やはり、リーダーは伊達ではないようだ。
「俺達よりも魅力的なグループはこの世に存在していない! もしかして、俺達よりも尊敬している人物が存在しているのか!?」
尊敬以前にお前らが働いたらいいだけだと思うけど。
「まさか、直人っ!? 直人なのか!?」
「いや、自分は告って振られた身だから。」
「うわ、ざまぁwww ……って直人告ったの!? ヘタレかと思っていたが、お前やる事はやってるんだなっ!? その勇気に感服したぜ! どうよっ! 俺達と一緒に無職に……」
「結構です。」
「それにしても、直人じゃないとなると一体誰なんだ!? 谷口さん、俺達より尊敬している人物は一体誰なんだ!?」
だから尊敬以前の問題だって。てか、谷口さんも真剣に考えているし。谷口さーん、別にそんなに真剣に彼の話を聞かなくても……
谷口さんの熟考している姿に誰もが息を呑む。流れているのは、無職グループの『緊張』という名の汗のみ。それだけで緊迫した空気が全体を包み込む。
「……」
「……」
「……」
そして、彼女は自信なさげにゆっくりと口を開いた。
「……萩原君?」
あっ。
「……は、萩原……萩原龍だと!?」
バタン。
「「あ、兄貴ーっ!!!」」
谷口さんの止めの一撃で遂にムーショックさんが倒れた。
何この光景? 何で190cm超えのおっさん達が谷口さん一人によって壊滅しちゃってるの? シュールというレベルじゃないぞ。
「ま、まさか龍が先に仕込んでいたなんて……」
「またアイツは俺達の先に行くのか……!?」
「ち、ちくしょう……!」
子分達が見えないところで龍に完全敗北して病んでいる。
「て、てめぇら! そんな弱音を吐きやがって、本当に『無職グループ』なのか!?」
ムーショックさんが再び立ち上がり、子分達を激励し始める。
「俺達と龍の戦いはまだ始まったばかりだ! 谷口さんが龍に尊敬しているのなら、俺達は今から龍を超えればいい! そうだろっ!?」
「はっ!?」
「分かったか! 絶対に龍を超えて、谷口さんを『無職グループ』に入れるぞ! 分かったならさっさとダンジョンに潜れ!」
「「うおおおおおおおおお!!!」」
子分達は一斉に立ち上がり、全員ダンジョンに向かって駆け出した。
ポジティブすぎる……相駆らわず人生楽しんでるなこの人たち。普通に羨ましいんだよな、人生楽しんでるの。自分も就職という親孝行の理由が無ければ、『無職グループ』に入団していたかもしれない。
「あれ、ムーショックさんはダンジョンに向かわないんですか?」
「俺様はまだう〇ちを済ませていない! だから〇んちしに戻る! じゃあな、直人! 谷口さん!」
「え、ちょっと!? 自分もトイレに……」
ムーショックさんはダッシュで一席しかないトイレに掛け込んでしまった。ああ……また、トイレに行けなかったんだけど、畜生。




