#1-13 職務皆無 襲来!!
トイレに行けなかった。これは由々しき事態だ。公衆トイレまでが武器・防具屋になっているとなると、全ての公衆トイレが全滅している可能性がある。見過ごせない問題だ。何故なら漏れそうだから。
「他の公衆トイレも調べてみよう。」
二人は公園から出て、別の公衆トイレを探す。30分程歩いた先に、別の公園の公衆トイレを発見した。そろそろトイレが我慢できなくなってきた所で、中に侵入する。
ここも扉が1つしかない。また、施設になっているのだろうか? 宿屋とかになっていたら地獄だよね。なんで、便器に座って一泊しなくちゃいけないんだ、ということでね。
恐る恐る、扉を開ける。
ガチャ。
案の定、全く気配を感じなかったおっさんが便器に座っていた。さっきのおっさんとは違う。ここは別の武器屋なのだろうか?
いや、ちょっと待て? このおっさんは何で下半身脱いでるんだ? いや、普通か。だってここはトイレだもんな。でも、前のおっさんはちゃんと着たまま座っていたぞ? この着脱の違いは何だ?
あれ、ちょっと待って?
この人はプレイヤー同様、『名前』『レベル』『職業』『HPバー』が表記されている。前のNPCは『名前』しか表記されていなかったけど、NPCにもステータスという概念があるのか? SNSの情報ではステータスの概念は無いみたいだけど、彼が特例なのか?
というかう〇ちしてるじゃんこの人!? NPCもちゃんと〇んちするのか!? しかも、臭い匂いもちゃんと再現されている!?
いや、流石におかしい。NPCは食事を摂らない。うん〇するなんてどう考えてもおかしい。あれ、この人もしかして……
プレイヤー?
「……」
「……」
これは、やっちまったか?
自分は今、知らない人のう〇ちを覗いている残虐非道な行為を実行している。これは人生終わったか? いや、まだ焦る時ではない、落ち着け。気配を見せずに、鍵を掛けていない向こうも悪いのだから。
このまま何も知らない振りをすれば、向こうも空気を読んでくれる筈、おそらく。
自分は何も気づかない振りをしながら、無表情で扉を閉める。
……ガチャ。
……ふぅ。
バタンっ!!!
「貴様ぁぁぁ!!! 俺様のうん〇を見て、唯で返すと思うたかぁああ!!!」
「ひぇええええ!!! すみませんすみませんすみません!!!」
〇んちしていた男が下半身パンツの状態で飛び出して来た。
その言動に自分は反射的に全力で叫び、外に向かってダッシュしていた。捕まったら死ぬ。本能がそう叫んでいた。
「兄貴ぃ!!! どうしたんでぇ!!!」
逃げた先からなんか来たんだけど!?
原告者の叫び声で、逃げ先から子分みたいな男達が数人駆けつけてきた。囲まれてしまった!? これでは逃げられない!
「聞いてくれよ!!! コイツが許可無しで俺様の〇んちを覗き見したんだ!!!」
「なんだとっ!?」
「兄貴のう〇ちを覗き見しただとっ!?」
「他人のプライバシーを何だと思っているんだっ!?」
相手は身長190cmを超える大柄な男達。まさか、兄貴と呼ばれてる男がこんなにもお偉い存在だったとは……どこかのヤクザの族長なのか? くそっ、万事休すか!?
と思ったその時、身を竦むような瞳で睨んでいた兄貴が突然、きょとんとした表情に移り変わる。そして、自分にこう呼びかけてきた。
「あれ、お前直人じゃねぇか?」
「え?」
この人、何で自分の事知っているの? こんな名前の人知らないけど……いや、待てよ。
彼の職業名が……『無職』!? 周りの子分達も全員『無職』。まさか、この人達は……
「む、ムーショックさん?」
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「うお、その呼び方っ!? やっぱり直人じゃねぇか!」
「えぇっ!? 本当にムーショックさんなんですか!?」
驚いた。兄貴と呼ばれた男の正体はまさかのムーショックさんだった。
ムーショックさんはSNSで出会った知り合いだ。自分が悩んでいる時によく相談相手になってくれた先輩でもある。但し龍君とは違い、直接オフ会をしたことが無い。その為、姿も本名も分からなく初見では気付けなかった。
ムーショックさんは「無職グループ」という訳の分からないグループのリーダーを務めている。この前、職業選択しなければ『無職』になれるから『無職』になれと誘われたが、全力でお断りした。まさか、こんな所で会えるとは……世間って思ったより狭いんだな。
「うえっ!? お前本当に直人なのか!?」
「うおおお!!! 直人じゃねぇか!!!」
子分さん達にも非常にお世話になっている。『無職グループ』にだけは絶対に入らないけど。
「てか直人ちっちぇな!? 本当に高校生なのか!?」
自分が小さいのもそうだけど、あんたらがデカすぎるのよ。
「よしっ! 直人なら全てを許そうじゃねぇか!」
「今後直人には『兄貴のう〇ちを自由に覗き見する権利』をやろう!」
世界で1番いらない特権を頂きました。
というか、ムーショックさんの名前、プロフィール設定していないから本名だよな? 彼の本名初めてしったんだけど……
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職務皆無 無職 Lv.2
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いや、本名も酷すぎる!? これを付けた親の神経どうなってるんだ!?
「あの、ムーショックさん……その本名を親につけられて、恥ずかしいとは思わないんですか?」
自分はすかさず、彼のコンプレックス的に悩んでいそうな事を聞いてみる。自分だったらこんな名前つけられたら人生終了する。恐らく、一生親を恨む事になる。
「そんな訳ねぇ! こんなに素晴らしい名前を付けていたんだ! 寧ろ、誇っているくらいだぜ!」
あ、うん……そうか。
人生を無職に捧げてる人にとっては、関係ない悩みだった。
「でも本名が世間に公開されるのはやっぱり恥ずかしいな!」
「名前変えれますよ?」
「え、マジっ!?」
「セレクト画面を開いて、スキル一覧→強さ→プロフィール編集で変えられます。」
ムーショックさん達は見えないセレクト画面を開いて指示通りの操作をする。ふむ、やはりセレクト画面はパーティー同士にしか見えないのか。
暫くすると、彼の名前が変更された。
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ムーショック 無職 Lv.2
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お、変わった。子分達も元の見慣れた名前に戻っていく。
このようにプライバシー考慮して、ニックネーム表記に出来る。自分は面倒くさいから本名のままだけど。SNSでも本名で生きてるし。ちなみに職業とレベルは隠せない、プライバシーとは。
「うおおお!!! 助かったぜ!!! というか直人のそれ……」
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松本直人 盗賊 Lv.1
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「何で『無職』にしなかったんだよーっ!? しかも『盗賊』とか犯罪者になってるじゃねぇか!? 犯罪者になるくらいなら無職になれよ!?」
「犯罪者も無職もそんなに変わらないと思うんですけど……」
「ちっちっちっ。無職は基本自由に生きていていいが、一つだけ絶対に守らないといけない事がある。それは他人の人権に危害を加えない事だ。無職とは『自由』の象徴。自分の『自由』だけではなく、他者の『自由』も尊重しなくてはならない。犯罪者は他人に危害を加える社会のgmに対し、無職は他人の人権を守る社会の不適合者なのだ!」
「どっちも変わんないわ!」
ここだけの話、自分が職業選択する中で『無職』という候補があった。自分が職業選択する基準の1つとして『選んでいる人が少ない』というものがあったからだ。
基本職の中で一番選ばないであろう職業は何か? それは『無職』だ。『無職』は全職業の中で、おそらく一番弱い職業。宇宙人も『職業選択しないと「無職」になるから気を付けてねー!』と警告していた程だから間違いないだろう。
しかし、『無職』には『無職』にしか出来ない事がある可能性も決してゼロでは無い。今回の目標は強くなることではなく、なるべく多くの情報を収集し、攻略サイトを作る事。『無職』の情報を集めるために、自分が『無職』になる選択肢も一応あった。
だが、その選択肢は直ぐに無くなった。『無職』の情報はムーショックさん達から回収出来るからだ。よって、最終的には一番情報を収集できそうな『盗賊』を選択した。
お前ら、絶対にこの事をムーショックさんに晒すんじゃないぞ? 無職の事になるとあの人暴走しちゃうからな。
「というかムーショックさん達、もうレベル2になってるんですね。」
ムーショックさん達だけではなく、子分達も全員レベル2になっていた。
「ああ、既にダンジョンに潜ってるからな! 俺たちは無職で最強になってみせる! 特に龍だけにはぜってぇに負けねぇ!」
『無職グループ』は、萩原龍を何故か『アンチ無職グループ』として認定され、ライバル視されている。
「お前ら! 絶対に龍を超えるぞっ!!!」
「「おおおおおおお!!!」」
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1位:【G】萩原龍
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ちなみに今世界ランキングを開いてみると、龍君は既に1位になっていた。彼に強さを聞いてみたところ、レベルは11、格闘家専用のスキルも2つ習得し、既に一つ上のFランクダンジョンに潜っているという。ちなみにリリースされてまだ3日目である。
『無職グループ』はランキング1位のこの人を超えようとしてるのか。
「……」
うん、まぁ頑張れ。




