#1-8 師弟関係 襲来!!
「谷口さーん。」
「……」
彼女にいくら声掛けても、肩をトントン叩いてもビクともしない。
駄目だ。完全に硬直してしまってる。よっぽど龍君に動揺してるのか。まぁ、そうだよな。何せ、あの龍君に壁ドンされてたもんな。
谷口さんは固まったまま、無理やり動かすかの様にゆっくりとこちらに首を振り向く。
「ま、松本君……」
怯えた声でそう小さく呻く。一目惚れしてるのだろうか。『龍についていきたいからパーティー抜ける』とか発するのだろうか? 別にそれはそれで、納得するけど。
しかし、彼女の次の言葉は予想外の物だった。
「ごめんなさい!!!」
そう、彼女は全力で自分に向かって謝罪をしたのだ。
「……はえ?」
「ごめんなさい! 私正直に言うとRPGを舐めてました! 今迄松本君の事、何でコイツRPGという変なジャンルやり続けているんだろう? とか、コイツ人生RPGに注いで何がしたいんだ? とかずっと思っていました!」
「あ、うん。」
ま、まぁ一般人にとってはそう考えて当然だよね。そう聞かれたら自分はただ楽しいからと答えるしか無いのだけど。
「でも、萩原君だっけ? あの人見て思ったの。RPGプレイヤーってあんなに凄かったんだって。」
「RPGプレイヤーが凄いんじゃなくて龍君が凄いだけだと思うけど。」
谷口さんが『秀才』だとすれば龍は『天才』。龍君の得意分野はRPGだけではない。『学問』『スポーツ』『ゲーム』などあらゆる分野においてトップクラスであり、正に超人の様なスペックをしている。
そんな次元の違う龍が、何でこんな自分と関わろうとしているかは未だよく分かっていない。だが、SNSで繋がったとはいえ、人生で初めて出来た『友達』であり、生まれてから永遠にボッチに囚われていた自分を解き放ってくれた『恩人』である事実には変わりはない。
「プレイ時間1万時間の萩原君があんなに凄いのに、1万5000時間の松本はもっと凄いの?」
「そんな訳無い。自分は好きで沢山やってるだけだし、龍君が謎に過大評価しているだけ。あの人自身は2つも3つも次元が違う。」
谷口さんは顎に拳を当て、思考する。
「松本は萩原君と一緒に行かなくてよかったの? 会話聞いた感じ誘われてたみたいだけど。」
「もう決めた道なので。」
「勿体ないなー。萩原君と松本が組んだら絶対に魔王倒せるのに。」
「だから自分はそんな大した人間じゃないって。ゲームはともかく、現実で組んでも龍君の足を引っ張るだけだし。それに『攻略する』側になっても、自分は龍君みたいにいきなりGランクダンジョンに潜ったりしない。そもそも、魔王討伐は『特別職』持ちに任せればいいし。」
「『特別職』なんてどうでも良くなったよ。萩原君の言動を見て思い知らされた。大事なのは強さだけじゃなくて、圧倒的な知識や経験、そして勇気が必要なんだって。」
「それらを強い人達に与える為の『創る』側。攻略サイトで見つけた情報を与え、『攻略する』側の増員、若しくはサポート。これが『KTW!!』のやるべき事だけど?」
「そ、そっかー。」
自分の意図が全て繋がり、谷口さんは高揚の表情を浮かべる。その後何かを決意したようにこちらに顔を向けた。
「ねぇ松本君、これからは師匠って呼んでいい?」
「いや、何で?」
「RPGプレイヤーに憧れたから。もっとRPGを知って……強くなりたいの。」
「……」
強くなりたい……か。
今まで彼女は他人の為に何かしたいと言い続けてきた。だが今回の願いは、ただ強くなりたいという私欲。そんな言葉を放つ彼女を生まれて初めて見る。そしてその姿は、より神々しく見えた。
彼女は新しい道に進もうとしている、新たな幸せを得るために。そんな意図を察した。
「自分は攻略サイトを作るだけだよ? 龍君を見て憧れたなら龍君を目標に頑張ればいいのに。」
「萩原君の性格を見て絶対に断られるから却下。まずは足元が見えるくらいにはここで修行しないと。」
やっぱり龍君を狙っているのか。
「……」
自分は彼女が新しい道に進んでいるのに対し、祝福し応援しなくてはいけない。しかし、その道が他の好きな男の為だと思うと……なんかちょっとだけ胸にトゲが刺さる気がする。
自分の心もまだまだ弱いということか。折角の機会だ。ここで心の修行でもするとしよう。
「だからこれからよろしくね、師匠!」
満面の笑みで彼女はそう浮かべる。
こうして、非常に心が痛くなる師弟関係が完成したのだ。
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さて、体力テストも終わり大体必要なデータも取れた。ここからはステータスと実際の測定値を比べる作業をして、ステータスの仕組みを追求する。
「それは?」
「計算機ソフト。」
PCを開いて、計算機ソフトを起動させる。おそらく、今後攻略サイトを作る上で一番お世話になるソフトウェアだろう。計算機ソフトは関数を入力すれば様々な計算が出来る。
最初に体力テストの結果をセルに入力していく。谷口彩香はともかく、松本直人の結果が悲惨な事になっている為あまり見せたくないが、ステータスを解明するためには仕方が無い。強くなる上で大事な事、それは羞恥心を捨てることだ。
まずは『敏捷性』だな。50m走の最高記録と『敏捷性』のパラメータを比較する。
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松本直人:50m走8.47秒・敏捷性76
谷口彩香:50m走6.62秒・敏捷性142
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50mの距離に記録を割って、1秒間に何メートル進められるかと言う『秒速』を求める。
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松本直人:50÷8.47=5.90 m/s ・敏捷性76
谷口彩香:50÷6.62=7.55 m/s ・敏捷性142
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50m走と言ったが、実際には60m走っている。最高速度の状態で50m走りたかったからだ。
スタートする際は速度がゼロの状態でスタートする。そこから最高速度に達するまでには時間が掛かる。50mの状態で速度を求めると、最高速度ではなくゼロから最高速度までの速度も含めた、平均速度が出てしまうので正確な値が出ない。最高速度を求めるためにはスタート時点で最高速度が出ている状態にしなくてはいけない。
よって10m多く走って助走する時間を作り、最高速度が出る状態から計測を開始したのだ。最高速の状態でスタートするので、普段より速いタイムが出る。
ここから自分と谷口さんの速度と敏捷性の商を求める。
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7.55 m/s ÷ 5.90 m/s = 1.28
142 ÷ 76 = 1.87
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以上より、『松本直人の速度が1.28倍になると、敏捷性が1.87倍になる』事が判明した。更に『松本直人の速度が0倍になると敏捷性が0倍になる』『松本直人の速度が1倍になると敏捷性が1倍になる』事実が最初からあるので整理すると、
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【松本直人の速度がα倍になると → 松本直人の敏捷性がβ倍になる】
α倍 → β倍
0倍 → 0倍(0m/s → 0)
1倍 → 1倍(5.9m/s → 79)
1.28倍 → 1.89倍(7.6m/s → 142)
2倍 → 5.28倍(11.8m/s →?)
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「やっぱり……この感じだと速度が2倍になっても敏捷性は2倍にはならなそうだな。」
「記録間違いで本当は2倍になったりしない?」
「その可能性は低いと思う。もし2倍だったら、自分の50mのタイムが谷口さんの2倍近くに……記録が13秒くらいになっている筈だから。もしかしたら、足の速さは敏捷性に影響しないのかもしれないけど……まぁ、それも含めてレベルが上がって敏捷性が変化すれば分かる事だから、その時にまた測ればいい。」
谷口さんが主人公に対する呼び方
松本君→師匠→???




