#23 谷口彩香 襲来!!⑤
「じゃあ、資料を貸してほしいということは……」
「このホームページを完成させます。今回の特別授業は途中で中断されちゃったので、資料ごと貸して欲しいんです。説明できなかった所を知りたいので。」
「でも、どうしてこんなことを? 失礼だけど、松本君って自分自身の幸せより世界の平和だー! みたいなタイプだとは思わなかったんだけど。」
「そうですね、この世界は腐っています。人類のほとんどが西村みたいに私利私欲に溺れ、他者の人権を蹴落としている屑ばかりと思っていますね。」
「ええ……」
「その為、自分はなるべく人との交流を避けていました。最初は谷口さんの言う通り、『リアルRPG』でも独りでひたすらにレベル上げをして、独りで滅茶苦茶強くなって、独りで無双しようと考えていましたからね。」
谷口さんは自分の性格と照らし合わせて呑み込む表情を見せる。
「でも、色々と考えたんだすけどやっぱり止めようと思ってます。」
「えっ?」
あまりの予想外の発言に彼女は驚愕する。
「どうして? 松本君の偉大な経験と知識量なら絶対に凄く強くなれるのに! 世界救えるかもしれないのに!」
「谷口さんが誰かの為に一生懸命になっている所を見て思ったんです。自分は本当にこのままでいいのかと。ただ、自分が強くなればいいのかと。」
「……いいんじゃないの?」
「谷口さん、復習です。RPGで一番4にやすいのは序盤、中盤、終盤のどれですか?」
「えっと、序盤だっけ?」
「そうです。序盤が一番4にやすいんです。つまり、人類は宇宙人が世界改変された直後に一番被害が出ることが予想できちゃうんです。」
「あっ……」
「気づいたんです。沢山の人が犠牲になってる中で、自分だけレベリングしてて本当に良いのかと。そして、色々考えた末に決めました。」
自分は今後の方針を決意し、彼女に伝える。
「自分は攻略する側の人間ではなく、攻略を『作る』側の人間になろうかと。」
「?」
「自分だからこそ出来る事、それは独りで上に行くことではない。序盤になるべく多くの人を救う事じゃないかと。助かる命が増えれば、後に人類側の戦力も増えていきます。結局人類は数の暴力でどうにかなったりしますので。」
「人類側の戦力を増やす……」
「今後の方針は、自分が作ったこの攻略サイトに『リアルRPG』の情報を書き込むこと。ちなみに、谷口さんの特別授業もこの攻略サイトに『予備知識編』として書き込ませてもらいました。でも、今後の情報源は主に2つ、『SNS』と『検証』です。
検証とは、『リアルRPG』のゲームシステム面に対して試行回数を重ねて、見えない情報を調べることです。ステータスが出てきたら、『攻撃力』と『守備力』に影響するダメージ計算の法則を探したり、『武器』や『能力』の説明にはない隠し性能を調べたりします。
これらの情報を調べ上げ、攻略サイトで書き込み、情報を全世界に拡散する。これがプレイ時間15000時間の自分がやるべき結論です。」
攻略サイト。それは、ゲームを攻略する際に非常に強力な武器だ。半分チートアイテムと言ってもいい。ゲームの新作が発売されると、有志の方々が情報をかき集め、なるべく早く攻略サイトを作ろうと心掛けてくれている。
でも、『リアルRPG』ともなると有志の方々もそうと言ってられないだろう。なにせ、自身の命が掛かっているRPGなのだから。だから、自分が『リアルRPG』の攻略サイトを作ろう! と考えられる人物は非常に少ないと思う。そんな発想も余裕も生まれないから。
なら自分が作ってやろうと。でも、大したものは作れないと思う。あくまでも、個人でやろうとしているから。いつか、でっかい組織や企業が『攻略組』みたいなのを結成して、より精度の高い攻略サイトや本が作られるだろうからな。
しかし、世界が改変されて直ぐに『攻略組』が生まれるというわけではない。そう、ストーリーでいうと『中盤』辺りから現れるのではと睨んでいる。それでは遅いのだ。
何度も言うが、とにかくRPGは『序盤』が一番4にやすい。自分が『序盤』でなるべく情報を集めて、少しでも犠牲を減らす。これが自分の目的だ。
この発想に至ったのも谷口さんのお陰だ。もし彼女がいなかったら、今でも多くの犠牲を差し置いて、独りでレベリングをしようとしようと考えていただろう。
「……凄いな。私ずっと、自分が強くなることだけが皆の為になると思っていた。」
「まぁ、人間は競争心に溢れている生き物ですからね。誰よりも早く強くなろうと思わせるのも、宇宙人の思惑かもしれません。無論、目の前の人を助けるために強くなることも大事ですが。」
「人類のやるべきことはなるべく序盤の犠牲を減らして、中盤になるべく多くの戦力を整えて、終盤に皆で手を取り合う。それが松本君の理想?」
「まぁ、半分はそうですね。
ですが、人類は自分勝手な人しかいないので、最後に皆で手を取り合うことは今の所考えていません。手を取り合うのは分かち合える人だけですね。
勇者パーティとかは、特に分かち合いたいとは思えません。改心するなら別ですが。とりあえず、今は序盤の犠牲をなるべく減らすことを最優先で考えています。」
谷口さんは何かを決意したように自分に語り掛ける。
「松本君、お願いがあるの。私も松本君の手伝いをさせて?」
「……と言いますと?」
「私も誰かに役に立ちたいの。1人でも多くの命を救いたいの。でも、今私が役に立てる場所はここしかない。だから、松本君の元で働かせてくれないかな? 助手でも奴隷で何でもやるから。」
「……」
彼女の事だ。何となくそんな事を言うと思ったよ。
「普通に駄目ですけど?」
「……理由を聞いても?」
「谷口さんは自分に気遣っているからです。誰かの役に立ちたいという肩書きを背負って、本当は自分に犯した罪を償おうとしている。そう考えてますよね?」
「……バレた?」
彼女は苦笑いしてそう答える。
「自分、言いましたよね? 幸せになって欲しいと。こんな謎の理想論だけを語ってるモブの為に、罪を償おうと自身の全てを捧げて、本当に幸せになれると思ってるんですか?」
「……なれる。私の幸せは他者の幸せだから。」
「でも、今まで他者の為に尽くしているのに幸せになっていませんよね?」
「それは私の力不足だから。」
「……谷口さん、何で他者を幸せにすれば自分が幸せになれるか分かっていますか?」
「え? それは、お母様にそう教えられたから……」
「教えられただけで、実際に具体的な理由を分かっていませんよね?」
「……」
「烏滸がましいかもしれませんが、その理由が分からない限り、他者を幸せにする意味は無いと思いますよ。」
「……じゃあ、どうすれば。」
「取り敢えず、自身が幸せになれる別の方法を考えるべきじゃないでしょうか? お母さんの教えの意味を探しながら。」
「……」
彼女は黙り込んでしまった。やはり、僭越だっただろうか?
と思いきや、彼女の雰囲気がここで急変する。
彼女から酷く汚れた漆黒のオーラが解き放った。まるで、押してはいけないスイッチを押してしまったように。人生終了の気配がビンビンに感じた。
「松本君?」
……はえ?
「こんなにも私の事考えて!!! やっぱり私の事嫌いになってないわね!!!」
……はえ?
「どうして嫌いになってくれないの!? 嫌いになってくれないと松本が不幸になるのに!」
……はえ?
「い、いや、自分は谷口さんと出会って全然不幸にになってませんよ?」
「どうして!? 毎日不法侵入したのに!」
「特別授業の為なら仕方ないですよ。」
「食事は毎回地味で普通なのに!?」
「食生活改善してくれて、ありがとうございます。」
「途中で寝落ちしたのに!?」
「好きな人の寝顔見れて幸せでした。」
「特別授業も全部無駄にしたのに!?」
「今無駄にしないようにサイト作っています。」
「こんなに身体が汚らわしいのに!?」
「こんなに辛い思いしてたのに、今迄気付いてあげられずにすみませんでした。」
「小2の私の不細工の写真見たのに!?」
「え、あれ本当に谷口さんなんですか? てっきり別人の写真かと。」
「私だよ。どう、失望した?」
「特殊メイクしていることは、認めないんですね?」
「……」
無言ということは、努力のみでここまで可愛くなった事を黙認している事を意味する。
「……可愛くなりましたね。頑張っている小学生の可愛らしい姿が目に浮かびます。」
「ムキーッ!」
可愛い。




