#22 攻略サイト 襲来!!
アパートの自室の玄関前の廊下、最近はよくここで足を止めてしまう。彼女が居座っているかもしれないからだ。
鍵を掛けて自室を出ると、帰宅時に彼女は必ず玄関前で待機していた。流石に毎回外で待たせるわけにはいかなかったので、彼女に自室の鍵を渡して自由に出入りすることを許可している。
今回も彼女は居るのだろうけど、何故だろう。何時もより、物凄い不気味な雰囲気を感じる。
鍵は開いてる。うん、今日も谷口さんは居るみたいだ。
恐る恐る、扉を開けてみる。
中は暗い雰囲気が不気味に包まれいた。谷口さんは何時もリビングに居るのだが、今回は何故か扉の先で彼女が待ち構えていた。
それも、下着姿で。
「……」
ガチャ。
思考を停止しながら、反射的に再び扉を閉じる。
「……」
んんん???
な、なんで谷口さんが下着姿!? もしかして着替え中だった? でもなんでこんなところで!? ち、違う! これは不可抗力だ! !!
ど、どうしよう。誤解だと説得するか? いや、それは駄目だ。それでは冤罪が悪化していくだけだ。ここでの最善な選択肢は、不可抗力とはいえ全力で謝ること。 謝るのが遅くなればなるほど、どんどん冤罪が重くなってしまう。よし!
「着替え中に覗いてしまってすみませんでしたぁ!!!」
外で渾身の土下座しながら、扉先の彼女の返事を待つ。
「……入ってきて。」
彼女から弱弱しい声がドアの向こうから聞こえた。ご許可を頂いたから、もう着替え終わってるということでいいんだよな? 自分は加害者。被害者様に顔向けしていいものではない。恐る恐るドアノブを握り、扉を開ける。
玄関先には谷口さんが居た。それも、下着姿で。
「……」
な、なんで着替えてないの!?
「待って! 私の意思でこうしてるの! だからこのままで居て!」
再び扉を慌てて閉めようとした時、彼女にそう止められる。
は? どういうこと? というか谷口さんのその姿……
谷口さんの下着姿。その姿を想像だけで、誰もが興奮してしまうことでしょう。しかし、彼女の現在の姿は……
とても悲惨なものだった。
想像した綺麗な白肌とは裏腹に、全身が傷だらけで真っ黒に覆われており、とても同じ日本人の姿とは思えなかった。
嘘……まさか、これ全てが谷口さんの受けた傷なのか?
完全に絶句している自分に対して、彼女は苦笑いを浮かべる。
「ここで待ってて。」
そう残すと、彼女は背を向いて部屋の奥へ行く。暫くすると彼女は再び戻って来た。一本の木棒を手に持って。
「はい。」
彼女は持ってきた木棒を自分に手渡しをする。いや何、どういうこと?
「松本君、それで私を殴って。」
「……」
「……」
「はい?」
何言ってるんだコイツ?
「私、毎日松本君の家に押しかけて特別授業を作るために、沢山迷惑を掛けた。だから、特別授業だけは絶対に成功しようと頑張ったの。
けど、結果はこの様。私のせいで、松本君に貰った知識を全部無駄にしてしまった。誰の役にも立てなかった。
しかも、私のせいで松本君が悲惨なことになってしまった。松本君が煙草吸ってる冤罪で、先生達の間で松本君を停学・退学処置にするか検討してしまっている。それだけは止めたかったけど、信憑性が失った私ではどうすることもできなかった。
私は松本君の時間だけじゃなく、人生さえも滅茶苦茶にしてしまった。全部私のせいで。
許されないことだと分かっている。だけど、せめての償いとして私を好きなだけ殴ってほしい。
他にも松本君が望むことなら何でもやるよ? 迷惑しか掛けていない私に出来ることなんて、殴られること以外は思いつかないけどね。」
「……」
何も言えねぇよ。
彼女は今まで、ここまで重いものを1人で背負い続けてきたのか。彼女は自分でも想像も出来ないような、辛みや痛みを味わっている。それも誰にも頼らずににたった一人で。ずっとずっと。
彼女は強すぎる。今まで出会った誰よりも。
彼女のために何かしてあげたいと思っていたけど、それは烏滸がましかったようだ。自分みたいな小物では、偉大すぎる彼女の涙を一滴すら拭えないのだから。
でも、それでも何とかしなくては。好きになった人が泣いてる以上、小物なりに出来る事をやらなくては。
今、彼女の為に出来る事。それは……
彼女に上着を着させることだ。
自分は谷口さんに渡された木棒を投げ捨て、玄関に掛けてある上着を取り出し、そのまま下着姿の彼女に羽織らせた。
「え?」
「谷口さん、何でもしてくれると言ってくれました? じゃあ、ひとつ頼み事をしてもよろしいでしょうか?」
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自分は谷口さんに着替えるようにお願いして、リビングに上がる。彼女は殴られないことに不信そうな顔をしたが、素直に着替えに向かった。
元の恰好で谷口さんが戻ってくると、向かい合わせに彼女は座った。
「で、お願いって何?」
「谷口さんって、今日の特別授業の資料をまだ持っていますか?」
「無駄になってしまった分だよね? 一応、まだ手元にあるけど……」
「その資料を一晩貸してくれませんか?」
「え? 勿論いいけど、それ使ってどうするの? それで私を殴りたいの?」
何でそうなる。
「ちょっと待ってください。」
自分は手元のノートPCを起動させ、あるホームページを開く。
「谷口さん、特別授業が全部無駄になったと言ってましたが、自分は無駄にする気はありません。」
「え?」
彼女にそのホームページを見せる。
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【『リアルRPG』攻略サイト】ホーム → 予備知識
有志の方がファンタジーの世界に改変する前に知っておくべき予備知識をまとめてくれたので、その内容を掲載します。自分の命を守るため、是非ご覧ください。
・#1『これから起こること』
・#2『ステータスについて』
・#3『選択する職業について』
・#4『特別職について』
・#5『耐性について』
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ホームページを見た谷口さんは驚きに目を丸くさせる。
「これ、私の特別授業の概要が纏めてあるホームページだよね!? 一体誰が?」
「自分です。」
「……えっ!?」
「誠に勝手ながら、谷口さんの特別授業の概要を自分のサイトに掲載させてもらいました。ホームページくらいなら自分でも作れるので。
特別授業は、幾ら自分の知識が混ざっているとはいえ、誰でも見やすいように纏めてあるのは心に惹かれました。
そこで学校だけではなく、日本中にこの知識を知って欲しいなと自分は思ったんです。
谷口さんの授業内容を毎回メモして、毎日深夜にコツコツ作った奴なので内容は不十分かもしれませんが。」
「……」
「まぁ、SNSに拡散しているとはいえ、自分自身そんなにネット界で知名度持っているわけじゃないので、PV数は滅茶苦茶少ないですけどね。」
と自分は苦笑いをする。
PV数を見ても、一日10回見てくれるかどうか。そんな少ない数だけど、これを見た誰かが救われたなと心の底から願って作ったものだ。人の授業を転載しただけだど。
谷口さんは自分の声が何も聞こえなかったかのように、ただ自分が作ったホームページを見つめている。今少し見せたことを後悔している。凝視される度に恥ずかしくなるから。
そして彼女はゆっくりと涙を流し出した。
「えっ!? 谷口さん!? もしかして、不服でしたか!? すみません、嫌でしたらすぐ消しますので!」
「ううん、違うの。私の努力が生まれて初めて役に立ったような気がして……だから嬉しくて……ありがとう。」
「……」
自分がやりたくてやったものなんだけど、まさかこんなに喜ばれるとは。喜んで欲しくて作ったものではないのだが、彼女の報われた様な姿を見て、作って良かったと心の底から思ったり思わなかったり……複雑な感情が漂っていた。




