#19 西村望 襲来!! ③
「え?」
誰にでも敬語で話す松本君とは完全の想定外の発言を突き放ち、私としたら、唖然な声を吐き出してしまった。
そう、松本君がそんな口悪い発言が出来る筈が無いのだ。出会ってから、一度も彼の悪口なんて聞いたこともないし、想像もできない。きっと、私の思い違いな筈。
私は彼の発言がよく聞き取れなかったので、口を開いて聞いてみる。
「……えっと、どうしたの?」
「聞こえなかったのか、ブス? 煙草臭いから近づいてくるな。」
彼は今度は私に聞こえるように、そうはっきり宣言した。そう、私は彼の発言が聞こえなかったのではない。理解が出来ていなかったのだ。
『ブス』って何?
『ブス』とは、外見及び内面性の印象や大裁が醜い姿や劣る様を指す(引用元、Wi〇im〇edia)。つまり不細工ということ。それは誰に言っているのか? 一瞬、私かと思ったけど、すぐさまその可能性を打ち消す。
そっか、谷口のことか。身体が穢れているからね。
認めたくないけど、松本君もアイツに洗脳されていた。だから、アイツの醜い姿を見て動揺しているのね。そして、アイツの醜い姿に失望して、いくら敬語を話す彼でも、罵倒せざるを得ない状況になってしまったと。
可哀そうに。アイツはどれだけの人間を苦しめたら気が済むの? でも、大丈夫。そんな折れてしまった心も、私が癒してあげるから安心してね☆
「さっきから何処見てる? 西村、俺はお前に言ってるからな。」
「……」
「……」
「私が……ブス? 」
ちょっと何言っているか理解できない。私は誰よりも可愛くて綺麗な女の子。この世界が私をそうしたのだから。誰に聞いても私の事を『可愛い』と言ってくれる。ましては『ブス』など、生まれて一度も言われた事などない。
「そうだブス。お前、集団で独りの人間を罵倒してて恥ずかしくないのか? しかも、未成年でタバコ吸ってるのに、何で刑務所に行かないの? それにタバコの先端を女性の身体に押し付けるとか、ブスの神経しかできないことだからな。もう、お前のブス顔を見るだけでブスが移るから、さっさと消え失せろ、ブス。」
「き、貴様ぁ!!!」
私は生まれて初めて他人に罵倒された。まさか、罵倒されるだけで、こんなに黒い感情が生まれるものとは思わなかった。想像を絶するストレスに我慢できなくなり、無自覚に全てを吐き出してしまった。
「さっきから好き放題に不細工と言わせておけばっ! 私は可愛いの! 世界は私を中心に回っているの! それを分からないてめぇの方が何百倍もブスだわ!」
「お、やっと本性を出しやがったなブス! やっぱり、そんな思考を持ってる時点で、てめぇは社会のブスだ!」
「貴様、この私をここまでコケにしておいて、唯で済むと思っているのか!? 貴様が運動神経皆無なのを知っている! ここで痛い目にあいたくなければ、大人しく私の物になりやがれ!」
「おうおう、脅しか? へっ、その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」
松本はポケットからスマートフォンを取り出して、私に画面を見せびらかす。
「お前の悪質な言動は全て廊下で録音済みだ。お前は既に詰んでるんだよ。」
「録音? それで強気になってるとか馬鹿じゃないの!? 今時、そんな古い手が私に通用すると思っているの!? おい、てめぇら! 今すぐコイツの……」
「ちなみに、俺のスマホを奪って壊そうしても無駄だぞ。録音された音源は、自動的にクラウドサービスに保存されている。例え、スマホが手元になくても、別の端末から、何時でも音源を引っ張りだせるぞ。」
「な、なんだとっ!?」
「時代の発展をまだ理解していないの? 頭が古いのはそっちじゃねぇか。頭が古くてブスなお前には、クソババアの名に相応しい。」
「クソババアだとっ!? 今の言葉、取り消しやがれ!」
「嫌だけど? なんで事実を取り消さないといけないの? だからロリクソババアなんだよ。」
「4ねよ! ショタクソジジイが!」
「で、どうするんだ?」
「は?」
「お前が谷口さんに体罰をしているこの証拠。これから、問答無用でこの証拠を持って教師に報告するけど?」
「なっ!?」
「お望みなら、追加でSNSにも拡散してあげてもいいけど?」
「そ、それだけは!」」
その事実を教師に報告されたら、私のやってたことが全校生徒に知られて、間違いなく退学処分になってしまう。それだけはなんとしても止めなくては。
「お前、自分が発言できる立場にいると思っているのか?」
「くっ……」
まさか、こんな奴に私の運命を操作されるなんて!
許せない許せない許せない許せない許せない!!!
アイツの醜い顔をブン殴りたい! アイツが泣きべく顔が見たい! アイツを突き落として嘲笑いたい!
でも、アイツをどうにかしないと私の立ち位置が! 今まで積み上げてきたものが! それだけは、絶対に……!
「……お、お願いします。」
「ああ?」
「お願いします……それを拡散しないでください。」
「はぁ、人間って普段から他人の人権を踏みにじってるのに、どうして自分が追い込まれると、こうして許してもらおうと請ってくるのだろうね? お前はそうやって必死に許しを請ってきた無罪の人間を、何回蹴とばしてきたんだ?」
「……」
「今まで、何回も蹴とばしてる癖に、自分だけ回避できると思っているのか?」
「……」
松本は谷口を少しチラ見をして、深くため息をつく。
「まぁ、俺はお前みたいなクソババアにはなりたくないからな。お前の行動次第では、この件を見逃してやってもいい。」
「「えっ!?」」
予想外の事態に期待という二文字が胸に刻む。
「ただし、条件が二つある。一つは、谷口さんにこれまでの事を謝罪すること。もう一つは、今後一切谷口さんに関わらないことだ。」
「ふ、ふざけるなっ! 私は被害者なんだ! なんで、加害者のコイツに私が謝罪を!?」
「お前らに何があったら知らんけど、お前らが谷口さんに暴力を振ってる時点でお前らが加害者で谷口さんが被害者だ。被害者面してるんじゃねぇよ、クソババァ共。 どちらにせよ、お前が謝罪しないなら、今からでもSNSに晒すけど?」
「く、くそっ……」
ふざけるな! 谷口は私の全てを奪った加害者! こんな奴に謝罪するなら4んだ方がマシだ! 決めた、意地でも謝罪などしない! 絶対にだ!
「ほらほら、早く謝らないと本当に送信しちゃうよ?」
絶対に、絶対に!
「さん、にー、いち……」
「谷口ごめん、私やりすぎた。」
「谷口さん、すいません。」
「なっ!?」
私の仲間2人が谷口に向かって謝罪してきた。畜生! どいつもコイツも私を裏切りやがって、クソ豚共が!
全て松本のせいだ! コイツのせいで私は……!
「あとはお前だけだぞ。」
「……」
「……」
「……ごめん。」
言ってしまった。まさか、私がこんな屈辱になる日が来るなんて。
「はぁ、まぁいいだろう。お前ら全員、今すぐここから消えろ。そして、二度と谷口さんに関わるな。少しでも怪しいと思ったら、即晒すからな。行け。」
「望ちゃん、行こう。」
私は二人に連れていかれながら教室を出た。何も言葉を残せずに。
松本直人、録音という姑息な手段を使っている癖に、それだけで私の前で威張りやがって。絶対に許さない!
だけど、奴は大きな失敗を犯している。それは私を無傷で見逃したことだ。
向こうは録音で脅しているけど、こっちだって、そんな脅しが出来なくなるくらいにアイツらを報復する手段を大量に持っている。あんまり私を舐めないでよね?
首を洗って待っていなさい! この礼は何百倍にして返してあげるわ!




