#20 初恋 襲来!!
私は清水君に告白されてしまった。
清水君は学校でもトップクラスに人気がある男子生徒だ。
私は女子達の青春を奪わないように、告白を全て断るのは当然の上で、特に人気のある男子達から好意を向けられないように努力した。
だけど、最終的にはこの様だ。
私の力不足のせいで、彼に告白される結果になってしまった。沢山の女子達を裏切ってしまったのだ。なので、彼女達に罰を受けるのは当然だと思う。
望ちゃんには、私の内面を全部晒される事になるけど、無駄な抵抗はやめて、全てを受け入れよう。こうなってしまったのは、私の自業自得なのだから。
そう思っていたのだが、彼は突然やってきた。
松本直人。
彼はまるで人が変わったかのように、望ちゃん達を罵倒し、罰を受けていた私を救出してくれたのだ。
しかし同時に、私は松本君の行動の意味が全く理解出来なかった。彼にとって、ここで私を救出するメリットが何処にも無いからだ。寧ろ、彼にとってはデメリットしか無い。
望ちゃんは私に罰を与える為、沢山の女子達と繋がっている。私が罰を受けてる光景を見て、彼もそれを理解している筈だ。
つまり、ここで私の味方に付くと、私の罰に巻き込まれる恐れがある。
幾ら、彼が証拠を持っているとはいえ、望ちゃんなら簡単に隠滅出来てしまう。そうなったら、本当に松本君は傷つく結果になってしまう。
助けないと。
私が守らないと。折角、私を助けてくれたのに、彼が不幸になるのは耐えられない。これは私自身の問題だから。
不幸になるのは私だけでいい。彼を巻き込む意味など何処にも無い。でも、彼を助けるには一体どうしたら……
気付けば、松本君は見慣れた陰湿な雰囲気に戻っていた。彼は望ちゃん達がいなくなると、深く息を吐き、私に近づいて来る。
私のせいで彼が不幸になる事を察して怒っているのだろうか。それとも、私の醜い姿を見て失望しているのだろうか。
しかし、彼が発した言葉は完全に予想外のものだった。
「谷口さん、保健室行きましょ。」
「え?」
********************
「ほ、保健室?」
「はい。煙草の火傷跡がありますよね? 治してもらった方が良いと思いますよ?」
もしかして、こんな状況の中でまだ心配してくれてるの? 怒ってないの? 失望してないの? 私の好感度を上げても何も得ることなど出来ないのに、一体どうして?
「だ、大丈夫だよ。この位、自然に治るから。」
「駄目です。火傷は早めに処置しないと永遠に残っちゃいますからね。ほら、行きますよ。」
「でも、もう遅いし、保健室の先生に迷惑掛けちゃうから。」
「はぁ、いいですか? 保健室の先生は生徒の治療が仕事ですからね? 仕事なんですから、迷惑なんて掛かる以前の問題です。寧ろ、先生にとって負傷者や病人を放置される方が、迷惑掛かると思いますけど?」
グサッ。
「ほら、という訳で早く行きますよ。」
「ちょ、ちょっと!」
こうして、松本君に無理やり引っ張られながら、保健室に行くことになった。
********************
コンコン。
保健室に到着すると、松本君は何も躊躇いも無く、入口をノックする。
「失礼します。」
ドアを開けて、中の様子を伺う。部屋の中は静寂な空気に包まれており、人の気配が感じられなかった。
「先生いないですね。仕方ない、薬だけでも貰っちゃいましょう。」
松本君は前へ進み、薬が収納されてるロッカーを調べ始める。
「お、あった。火傷薬。」
彼は1つの薬用クリームを取り出し、私の元で渡し出す。
「これ塗って下さい。少しはマシになると思いますよ。市販で売ってる物みたいなので、勝手に使っても怒られないと思いますよ。多分。」
私は彼の優しい言動に我慢出来なくなり、聞きたいことを尋ねてみる。
「松本君。」
「どうしました?」
「何で助けてくれたの?」
「……はえ?」
「私を助けても松本君は何も得しないでしょ? 寧ろ、これから望ちゃん達に酷い目に遭わされるかもしれないのに。」
「あー、西村達に報復されるのか。確かにその発想は無かったですね。」
ズコッ!
ま、まさかの考え知らずだった。
「まぁ、たとえそれを知っていても、助けない選択肢は無かったですね。」
「じゃあ、どうして!?」
「うーん、助けたかったから?」
「へ?」
「目の前の人が辛い思いをしてたので、助けたくなった、それだけです。谷口さんだってずっと、誰かが困ってたら手を差し伸べてるじゃないですか。貴方と一緒ですよ。」
「それでも、私を助けたいと思う理由なんて何処にも無い筈! それなのにどうして!」
「……」
「……」
「谷口さんが、好きだから?」
「……」
「……」
「止めて……お願い、好きにならないで。」
何時も間にか私は涙を流していた。私を好きになると、彼は不幸になってしまう。だから、それだけは特に止めたかった。
それにしても、自分の気持ちを伝えてくれたのに、こんな自分勝手な返し方するなんて、やっぱり私は最低だ。
でも、これが彼の為に出来る目一杯な事なのもまた事実。これで、彼が私を嫌いになってくれれば、彼が不幸にならないで済むのだから。
「……分かりました。じゃあ、今のは独り言という事で、聞かなかったことにして下さい。」
「え?」
彼は苦笑いをしながら、人差し指を立ててそう応えた。まるで、私の事情を読んでくれた様に見えた。
普通、そこは怒るよね? どうして、嫌いになってくれないの? こんなに酷い仕打ちをしているのに。
「あっ、じゃあその代わりに、1つだけお願いしても良いですか?」
「なっ、何?」
松本君が私に望んでいるものがある。それを知って、私は胸を踊った。今迄、彼が私にお願いしてきた事など殆ど無く、彼の恩も優しさも何も返せていない状況だったからだ。
それで少しでも返せるなら、例えどんな理不尽な願いでも成さなければ。
「幸せになって下さい。」
「え?」
「自分が谷口さんに求めてる事はそれだけです。」
そう残し、松本君はそのまま保健室を出て行ってしまった。
幸せになってほしい? それが松本君が私に求めている事?
何でそんな事を望んでいるの? 私が幸せになれば、一体彼に何の得が?
『谷口さんが、好きだから?』
もしかして、まだ私の事を嫌いになっていない? もしそうなら、絶対に許さない。私の事を嫌いになって貰わないと、彼が不幸になってしまうから。
そうだ、『松本君のお願い、私には絶対無理です!』と言えば嫌われてくれるかな?
私が幸せになるには、周りを幸せにしなきゃいけない。他者の喜びこそが私の幸せ。だけど、私の実力では他者を喜ばせることなど出来ない。寧ろ、他者を悲しませて、自身が不幸になってしまう事の方が多い。
そう、私の実力では絶対に幸せになることなど出来ないのだ。そう、絶対に。
「……」
何だろう、この温かい気持ち。
「……」
もしかして私、『幸せ』と感じているの?
「……」
何もしてないのに、どうしてこんなに幸せなのだろう……?
********************
言ってしまったな。
まさか、生まれてから一度もリア友が出来た事無い自分に告白する日が来るなんてね。
告白は自分でもビックリする程、普通に喋ってしまった。ほぼ、無意識と言ってもいい。もっと勇気のいるものだと思っていたけど、こんなに自然に言えるものだとは思わなかったな。
何でだろうね、住む世界が違い過ぎたから逆に簡単に告白出来た。とかかな? オタクがアイドルに告白するのは簡単に出来るよねって話。モブキャラの特権だよね。
谷口さんはアイドル枠だから、無論断られるのは分かってたけど、まさか泣いてしまう程に嫌がられるとは。分かっても、ここまで思い知らされると流石に傷つくよ。
でも後悔はしていない。想いを伝えて、相手の気持ちを聞けたのだから。元々、伝える気なんて微塵もなかったからね。返事が聞けただけで満足です。
それにしても、まさか谷口さんがあんな目にあっていたとは。谷口さんのファン且つ想い人として、ついつい熱くなってしまった。
本当はブチ切れたくないんだけどね。ブチ切れると性格が変わっちゃって、後に黒歴史として晒されるとめっちゃ恥ずかしくなるから。
そして、ブチ切れてる間は、周りから何故か気持ち悪い程、微笑ましい目で見られてしまう。これだけは全く意味が分からない。本当、何でだろうね。
さて、家の玄関に着いたのだが、今日は流石に谷口さんは居ないだろう。
何時もゲームをやりに家に居座っているのだが、今日はあんな事があったんだ。流石に来てたら笑うよね。
自分は玄関のドアノブを握りしめる。
ガチャ。
「……」
はぁ、うん、やっぱり。なんかそんな気がしたよ。だって、谷口さんだもんな。
目の前には神々しい女神がいた。




