#17 西村望 襲来!!
少し残酷の描写があります。
苦手な方はお気を付けください。
なんだ、この光景は。
あんな西村さんは生まれて初めて見た。いや、今まで彼女は表舞台では無口を演じていたのかもしない。ということはあれが西村さんの本性なのか?
「もう一度言うぞ! ビッチ、てめぇのすることは何だ? 答えろ!」
「わ、私が望ちゃんのパーティに入らないようにすること……」
「ちげぇわ! 雄大君と健一君に近付かないことだ!!!」
西村さんの発言に谷口さんは驚愕と戦慄の表情を浮かべる。
「で、でも、昨日はパーティの勧誘を断れと……」
「なんで私がそのように言ったか考えなかったわけ? パーティを断れと言ったのは、てめぇが二人から嫌われるための『手段』だよ『手段』! 何でそんなことも分かんねぇんだよ! 糞ビッチが!」
「でもまさか、清水君が告白してくるなんて……裏でどのようにコソコソしてたのかしら?」
「健一君だけじゃないよ。雄大君もそこのビッチに好意をよせてる。健一君が動いて動揺しているみたいだし、雄大君が告白するのも時間の問題。」
「「なっ!?」」
「わ、私の好きな遠藤君も奪ったし、どこまで私達の青春を壊したら気が済むのかしら?」
「やっぱり男子達を片っ端から洗脳してるとか考えられられないね。」
「洗脳なんて……そんなの私……」
「じゃあどうやって、健一君も雄大君もてめぇみたいなビッチが好きになるんだよ? 『賢者』持ちの私をほったらかしにして。それなのに、てめぇは特別職すらない雑魚なのにどうして特別職のみのパーティに誘ってくるんだ! 普通に考えて、おかしいだろ!?」
「それは……」
「私達は高校生女子! 誰もが好きな男ができる! だが、てめぇの洗脳で男も女も全部滅茶苦茶だ! だから、私達は立ち向かう! てめぇが洗脳を解くまで、絶対にてめぇを許さない!」
「だから洗脳なんか……」
「はぁ、ビッチは嘘つきの癖になんでこうも無駄にプライドが高いのかしら? ああそっか、だからビッチって呼ばれてるのか。……もうてめぇに生きる価値ないだろ? お前たち、コイツが認めるまで好きなだけ暴れな。」
「よくも、私の好きな中村君を……絶対に許さない!」
「生きる価値ない奴に天罰を与えてやれ!」
西村が命令すると、女子2人は険しい表情で谷口さんに暴力を振り始めた。谷口さんは小さく悲鳴を上げながらも抵抗は見せず、じっと堪えている。西村は谷口さんの悲惨な光景を嘲笑うように教室で煙草を吸い始めた。
自分はそんな悲惨な光景を見ているのに関わらず、酷く冷静だった。かつての思い出と重なり合う音がした。
……そういえば、そうだったな。
「の、望ちゃん……!」
ボロボロになりながらも、谷口さんは西村に必死に声を掛ける。
「ああっ!?」
「未成年だから……煙草はよくない……」
「またいい子ぶって! ビッチは臭いから二度と喋るな!」
谷口さんがやけに人の気を遣っている理由。身体が傷だらけだった理由。なんでそんな単純なことに今まで気づけなかっただろうか? そのことに関して自分は無駄に敏感な自覚はあったんだけど。
「私だって煙草を吸いたくて吸っているわけじゃねぇから! てめぇに罰を与えるために、わざわざ吸ってあげてるんだから!」
「それってどういう……」
「こういうことよ!」
「あああああ!!!」
西村がタバコの先端を谷口さんの腕に強く押し付けだした。谷口さんは想像を絶する高温で絶叫を上げる。
「はーはははははっ!!! ざまーみやがれ!」
いじめ、暴力、体罰。
なんだかんだで久しぶりに見た気がする。自分はとっくの昔から、そんな醜い現実から逃げ出してる身だ。だが、彼女は自分とは全然違う。逃げることなく、ずっと向き合い闘い続けている。
かっこいいなぁ。
素直にそう思った。たった一人で、あんな不細工たちの『幸せ』の為に抗い続けて、こんなボロボロになっても、立ち上がり続け、目を逸らさないでいる。そんな彼女を尊く見えないわけない。
だが同時に、谷口さんは人の『幸せ』のために動く根本的な理由を間違えている。
何故、人間は人の『幸せ』を願うのか? それは『自分』が『幸せ』になる為だ。
何故、大切な人の為に自分を犠牲にしてまで動くことができるのか? それは人の『幸せ』を見たい自分がいるからだ。誰が何を言おうと、結局は自分の為に人の『幸せ』を願う。人間とはそんな生き物だ。
自分は過去に学んだ。『幸せ』を願う相手は選ぶ必要があるということを。
自分の『幸せ』の為に、『幸せ』を願う相手は選ばなくてはいけない。お互いの『幸せ』を与え合う事で、自分の『幸せ』を何倍にも出来るのだ。
しかし、谷口さんは自分を犠牲にしてまで人を『幸せ』にしようとしている。この時点で彼女は間違っている。なぜなら、今の彼女は泣いているから。
谷口さんが『幸せ』を願っている不細工達は、谷口さんの『幸せ』なんて決して願っていない。寧ろ、彼女を『幸せ』を奪い取って自分達を満たしている。だから、ブスと言っている。
『幸せ』を与えようとする相手を間違えてるなんて、そこはやはり谷口さんらしいというかなんというか。
だが、気づけばそんな谷口さんを好きになっていた。理由は特にない。ただ、独りで向かい続けているのが、かっこいいから。それだけ。
だが、自分は他人の『幸せ』を願い、自分が『幸せ』になる人物は大好きだが、他人の『幸せ』を奪い取って、自分が『幸せ』になるブスは大嫌いなんだよ。
だから、自分は谷口さんの『幸せ』を守りたいと思っている。全ては自分が『幸せ』になるために。
そして、谷口さんの『幸せ』を踏みにじっているあのブス達を絶対に許さない。
覚悟しとけよ、ブス共。血祭りにあげてやる。
俺は数年振りにブチ切れた。
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ガラガラガラ……!
扉が強く開く音がする。教室にいた誰もが扉の先を反射的に振り返ってみると、クラスメイトのチビ陰キャ、松本直人が立っていた。
「ま、松本君?」
彩香が驚く様に口を開く。望たちは自分達以外の誰かが教室に入って来た事実に動揺している。暴力やタバコを第三者に見られてしまったからだ。
しかし、望は入って来たことが直人に対して、不幸中の幸いだとほっと息を撫でおろす。直人は常にボッチで面倒事を嫌う人材だからだ。
清水健一の告白は望にとって、絶望的なイベントだった。しかし、それを直人が止めたことにより、彩香と健一が付き合う最悪な展開を回避できたのだ。
これにより、望は直人の評価をほんの少しだけ上げていた。とはいえ、ほんの少し上げたとは言え陰キャは陰キャ。好意を感じるなど微塵も無かったのだが。
直人はボッチで面倒事を嫌う。つまり、望の本性が若干見えても、面倒事を嫌うため、先生に言いつける可能性は限り無く低いし、ボッチだからそもそも伝える相手がいない。
こんな悲惨な光景でも、おそらく見なかった振りをすることだろう。
『の、望ちゃん! どうしましょう!?』
『大丈夫、相手は松本。きっと無視するはずだから帰るまで大人しくしてろ。』
『りょ、了解。』
3人で誰にも聞こえないようにコミュニケーションを取り、目線だけで直人が教室から出るのを待つ。
しかし、女子達はここで異常を感じる。直人は教室の入り口から一歩も動くことなく、険しい目で此方を見つめているのだ。
更に、直人の予想外の姿に全員が驚愕した。
直人は常に下を向いているため、根暗な顔つきを持っているイメージしか客観的に持たれていなかった。だが、今の直人は下を向くことなく、正面からこちらを見ている。その姿から、彼女達は直人の新たな顔つきを知ることになる。
髪で見えにくかった瞳は想像よりもずっと大きかった。しかし、瞳には怒りの感情が隠し切れず、まるで漆黒のオーラを放出しているようであった。身長150cm後半とは思えない、威圧感と顔つきから誰もが絶句する。
そう、直人は実はすげぇイケメ……
『あれ、松本君ってこんなに可愛かったっけ?』
『なぜだ、どうして私の母性本能が暴走してるんだ!』
『……ごくり。』
『やばい、めっちゃ、可愛い! 抱きしめたい!』
そう、松本直人は想像を絶する程のショタだったのだ!




