#16 清水健一 襲来!! ②
「あのーちょっといいですか?」
「あっ!?」
清水さんは覚悟を決めた告白をしてる最中なのに、突然割り込んできたよく分からないモブ陰キャに対し、強く睨みつける。
「谷口さん、岡崎先生が呼んでいましたよ。至急、1年2組のクラスに来てほしいと。」
「え?」
「なんか、岡崎先生と1年の男子生徒がまた揉めてるみたいです。谷口さんの力を貸してほしいと先生に頼まれたのですが。」
「あ、うん! わかった。行ってくるね! 清水君、山本君、ごめんね!」
谷口さんは何かを察するように、そう残すと、二人から逃げる様に教室から立ち去った。そんなあっけない光景に誰もが唖然とする。自分も先生のお告げを伝えたので速やかに席に戻った。
ちなみに、自分が岡崎先生に頼まれたのは本当の事だ。
10分前、1年の教室の廊下を歩いていると、1年の男子生徒達と揉め事を起こしていた岡崎先生に呼ばれ、谷口さんを呼ぶように助けを求められたのだ。
自分は先生に『何してるんだ、コイツ』と思いながらも素直に従い、谷口さんに声を掛けようとしたが、丁度山本さんと被ってしまったので、1人で内心オロオロしていたのだ。
本当は、3人の会話が終わるまで待つつもりだったけど、清水さんが暴走して谷口さんを困らせていたので流石に止めさせてもらった。
そんな自分の身勝手な行動を見逃してくれるはずもなく、清水さんがお怒りの形相を向け、こちらに近づいてくる。
「おい、チビ陰キャ! てめぇ、自分がやってること分かってるのか!? 俺が勇気を出した告白を台無しにするとか、どんな神経してるんだ!」
自分は何も答えられず黙り込む。こうなることは承知していたけど、これで良かったと思う。このまま放置してたら、きっともっと後悔することになるから。
清水さんは自分の机を強く蹴り出し、威圧する。更に何も答えにくくさせてくるので、より一層、黙り込む。
「おい、何か答えたらどうだ! ああっ!?」
「……すみません。」
「すみませんじゃねぇんだよ! それで済むと思ってるのか!? だから陰キャはキメェんだよ!」
清水さんに胸倉を掴まれる。周りは心配そうには見てくれているが、実際には何もしてくれない。その分、この形相が谷口さんに襲い掛かると思うと、本当に逃がしてよかったとも思う。
「あの、清水さん……」
「ああっ!? お前が喋るだけで学校が臭くなるから二度と喋るな!」
「授業……始まりますよ?」
キーンコーンカーンコーン。
ガラガラガラ……
ちょうど、学校のチャイムが鳴り響く。同時に担当の先生が入ってくる。
「授業始めるぞー。おいお前ら、何してる。さっさと席につけ。」
「……ちっ。」
清水さんは舌打ちをして、大人しく席に戻る。
ふぅ、今回は学校のチャイムに助けられたな。ほらね、自分が社会に関わるとロクな事が起きない。だからずっと表からはなるべく顔を出さないように常日頃心掛けている。
谷口さんもチャイムと同時に帰ってくる。授業中に所々、清水さんが『後で覚えておけよ』というう怒気の表情で睨んでくる。後で面倒くさい事が起きそうだ。
谷口さんも、チラチラこちらを見てくるような気がする。後のことを考えると、非常に気まずい。そして取り巻きの男子達には……
何故か、尊敬の眼差しが向けられていた。
『あれが谷口さんを救った英雄か……』
『松本はただのチビ陰キャかと思ったけど、あの清水にたった一人で立ち向かうなんて、見直したぜ!』
『ああ、本当は松本を助けたかったけど、俺は怖くて動けなかった。やっぱり一人で立ち向かうのはスゲェよ。」
な、なんだコイツ等! そんな眼差しを俺に向けるな! 気持ち悪いだろ! 俺はそういう趣味じゃない。や、やめろ! やめろぉ!!!
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5時間目、4回目の特別授業が行われた。
内容は『耐性について』。
人はただ、『防御力』が高ければ、敵の攻撃を軽減できるわけではない。『防御力』というステータスは、『物理防御力』である可能性があり、魔法攻撃、ブレス攻撃、状態異常攻撃等は『防御力』に依存しない可能性がある。こういった『防御力』に依存しない攻撃を軽減するには、『耐性』が必要である。
『耐性』には、『属性攻撃耐性』と『状態異常耐性』に分類される。
『属性攻撃耐性』は『炎攻撃軽減』や『雷攻撃無効』と言った、主に属性がついてる攻撃の耐性だ。全身が炎に覆われてるモンスターは『炎』が効きにくい、海に生息するモンスターは『水』が効きにくい、鳥モンスターは空を飛んでるから『風』が効きにくい、そんな感じだ。
もう1つの『状態異常耐性』は『マヒ攻撃』『毒攻撃』と言った、何かしら悪い状態になる時の耐性だ。『属性攻撃耐性』によって『属性攻撃』のダメージ倍率が変わるが、それに対して、『状態異常耐性』は状態異常にかかる『確率』が変動する。
どんなに『防御力』が高くても『耐性』が無いと大ダメージを食らったり、状態異常のせいで、パーティが壊滅する恐れがある。よって、たとえステータスがどんなに高くても、『耐性』の概念のせいで展開が滅茶苦茶にされる、それがRPG。
今回の授業はそんな感じだった。個人的にRPGにおいて、『耐性』という概念は、戦う上で1番大事なことだと思っている。
『耐性』がステータスに表示されているゲームは少ない。いわゆる、『隠しステータス』というやつに配属されていることが多い。多くのプレイヤーは目に見えてるステータスだけで強さの指標としているが、それはあまり良くない考えだと、伝えたかった。
この知識で1人でも多くの命を救えたらいいなぁ、と心中に少し留めた。
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やばい、忘れ物した。
下校途中に財布が手元に無いことに気付いてしまった。おそらく、学校のロッカーに置きっぱなしにしてしまったのだろう。
学校のロッカーは鍵を閉めているので盗まれてることは流石に無いと思う。だが、何時も朝に貴重品をロッカーに入れている為、帰りに持ち帰り忘れるイベントがたまに遭遇する。
今から学校に戻らないといけない。これが非常に面倒くさいのだ。
身体の向きを逆にして、来た道を戻る。足を踏み入れる度により憂鬱な気分になっていく。校門に到着すると、生徒達の流れから逆らうように学校に向かい、自教室の扉を開ける。
と思いきや、突如扉を開けることに抵抗を感じ、手の動きを止める。扉の向こうから人の気配がしたからだ。
自分は反射的に開けてはいけないような気がした。扉から手を離し、窓の隙間から様子を覗いてみる。
あれは、谷口さん?
覗いた先には谷口さん。そして、彼女の向かい合わせに3人の女性がいた。
向かいの女子は西村望さんか? 残りの2人は……分からない。他のクラスの子か?
西村さんは『賢者』を持っていること以外は、無口で大人しい生徒だ。自分と同様、他人と関わろうとせずに生きている。だが、目の前にいる西村さんは人と一緒にいる。類まれな光景だった。
何してるんだ?
単純にそう思った。何か会話しているようだったので、耳を傾けてみる。
「おい、ビッチ聞いてるのか!?」
「……はい。」
「てめぇのせいで、私の雄大君と健一君がてめぇに好意を持ってることになってるんだけど! どう責任取ってくれるわけ!?」
「ご、ごめんなさい……」
「うるせぇ!!! てめぇがやる事は謝る事じゃないだろ!!!」
ガッシャーン!!!
この世の終わりの様な音が響き渡る。
あまりにも信じられない光景に背筋が震えた。あの無口な西村さんが、クラスメイトの椅子を薙ぎ倒し、酷く谷口さんを罵倒しているのだから。
「……」




