#15 清水健一 襲来!!
「ねぇねぇ、松本君はどうしたらいいと思う?」
谷口さんが携帯機を片手にレベル上げしながら自分に尋ねてきた。彼女はすっかりゲーマーの目をしてるので、少し後悔している。
「何がですか?」
「勇者パーティからのお誘い。知ってるでしょ?」
「ああ、それですか。」
彼女自身、勇者パーティに合流するべきかまだ決断していないようだ。
「別に断る理由はないと思いますけど。何を悩んでるんですか?」
「特別職持ちではない私が入ったところで邪魔にならないかなって。」
「山本さん達は谷口さんの姿勢を見て、『邪魔にならない』、寧ろ『必要』と思ってくれたから誘ってくれたんじゃないんですか?」
「そ、そう?」
「そうですよ、谷口さんは宇宙人が布告してからずっと生徒達の為に努力してるじゃないですか。それが報われたと思っていればいいんじゃないですか? お誘いも前向きに考えていいと思いますよ。周りが強いとパワーレベリングも出来ますし。」
「パワーレベリング?」
「周りの強い人達の力を借りて、レベリングすることです。寄生ともいいます。格上の魔物を倒してくれるのでガンガンレベル上がりますよ。」
「そう、でもそれって山本君達の経験値を奪う行為でもあるんだね。特別職は沢山経験値貰ってより強くなるべきだし、やっぱり断ろうかな……あっ! メタルスライムだ! うらぁ! 絶対逃げるなぁ!!! 経験値は私の物だぁ!!!」
発言と行動が逆になってるぞ。
「まぁ、経験値の横取りに関しては心配ないと思いますよ。誘ってくれるのは向こうですし。どうしても気になるなら、ご本人達に『寄生するかもしれないけどいい?』と確認すればいいと思いますよ。」
「うーん。でも、了承してくれても私の気遣いかもしれないし。」
はぁ、谷口さんは人に気遣いすぎている気がするなぁ。その気遣いが彼女の魅力と人望の秘訣なんだけど、見えないところで無理を続けていないのかと心配になる。お世辞かもしれないけど。
「……ああ! 逃げられた! うう、経験値欲しいからやっぱり誘いに乗ろうかな。」
ごめん、自分のせいで皆の知ってる谷口さんが少しずつ消えてしまっている気がする。
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「谷口さん、どうするか決めました?」
「うん。」
翌日、山本さんが再び谷口さんに声を掛ける。クラス中、谷口さんの返事に注目を集め出す。
「ごめんなさい。せっかくだけど遠慮しておくね。」
断る谷口さんに姿勢に多くの男子達が歓喜を上げ、その叫びをハグで表現しだした。正直に言って気持ち悪い。
「理由を聞いてもいいですか?」
「お誘いは嬉しかったけど、色々考えた末、私はパーティに入らない方が皆の為になると思ったの。」
「どうしてそう思うのですか?」
「『特別職』はとても貴重なものでしょ? 日本でまだ100人程しか確認されていないみたいだし。珍しい分、強さも桁違いな可能性が高いはず。その中に特別職を持っていない私では足を引っ張ってしまうと思うの。」
谷口さんの発言に清水さんが立ち上がり抗議をする。
「彩香、そんなことはない。俺たちは彩香が必要だからこそ誘ったんだ。
俺たちが特別職で強くなるということは、より危険な敵に遭遇し、4ぬ機会も多くなるということ。それを教えてくれたのは他でもない、彩香の特別授業だ。俺たちが最大限に力を発揮できる彩香が必要なんだ。俺たちがより多くの命を救う力があるのなら、より強くならなきゃいけない!」
「そう、清水君達はより強くならないといけない。」
「だったら!」
「Exp。」
「え?」
谷口さんの一言で、辺りが静まり返る。
「強くなるにはExpが必要。手に入れた経験値はパーティメンバーに分配される。 私がパーティに入るということは、特別職持ちの清水君達の経験値を奪う事を意味するんだよ。」
「あっ……」
「私がパーティに入るより、清水君達のレベルが1つ上がった方が、最終的により多く命が救えると思うの。違う?」
「そ、それは……」
「そ、それでも、俺たちの指揮を取れるのは谷口さんしかいないんです!」
「指揮だけなら、別にパーティに入る必要ないでしょ? 戦闘の映像とかあれば指導もできるし。そっちの方が合っていると思うの。」
「うっ……し、しかし!」
谷口さんの論破で徐々に発言力が弱くなってくる二人。てか谷口さん断ってるのに何でコイツ等そこまで谷口さんにこだわってるんだ? 別に特別職持ちでもないのに。
「見苦しいぞ! 山本、清水! 谷口さんはパーティに入るべきじゃない! 」
「「そうだ! そうだ!」 」
取り巻きの男子達の援護射撃で更に二人を追い込む。流石にこの空気でこれ以上誘うことはできないだろう。
バンっ!
「うるせぇ!!!」
清水さんが大きく机を叩き、場を無理やり静寂にさせる。そして谷口さんを強く見つめ、覚悟を決めたように口を開く。
「彩香、俺はお前が好きだ! だから付き合ってくれ!」
「……」
「……」
「……」
「「「ええええええええっ!!!???」」」
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まさか、宇宙人が来る前に告白シーンを見ることになるとは思わなかった。清水さんの告白で流石の谷口さんも動揺している。
谷口さんは幾度となく男子達に告白されているみたいだが、今回このように大騒動になっている要因は、告白した相手があの清水さんだということ。
清水健一は男子人気投票で常に1位。実質1人でインターハイ準優勝させたバスケ部のエース。あまりにスペックが高すぎる人物なのだ。
清水さんの告白で泣き崩れている女子も多い。男子達は動揺しながらも必死に罵声を浴びて対抗している。
「正直に言おう! 俺はお前と一緒にいたい。だから彩香、頼む! 一緒に来てくれ! 」
「そ、そんなこと急に言われても……」
清水さんの両手では谷口さんの両肩を掴み、揺さぶるだす。
「俺にはお前を守る特別職がある! 俺ならお前を絶対に幸せにできる! 別に今好きになってもらわなくても構わない! 一緒にパーティを組んでもっとお互いのことを知るべきなんだ! だから……」
「清水っ! 谷口さんが嫌がっているだろ! やめろよ!」
「うるせぇ! 口だけで何も出来ない雑魚共がでしゃばってるんじゃねぇ! 彩香を幸せにできる奴は俺しかいないんだ!」
「嘘つけ! 今谷口さんを傷つけてる奴が何言ってるんだ!」
なんか修羅場になってる。
とはいえ、自分も清水さんの告白は正直応援できない。谷口さんがスペックが高いイケメンといちゃいちゃする光景に嫉妬しているのもあるのだが、それ以上に清水さんが自分自身のことしか考えていないことに苛立ちを感じている。
谷口さんは真剣に他者の命を考えてパーティを断る選択をしたのに、清水さんは彼女の意思を無視して自分の都合を押し付けている。
それに、彼女を幸せにしたいと言ってるが、本当に幸せにしたいと思っているなら普通、彼女をパーティに誘うべきではない。彼女をパーティに加えるということは、大好きな人を危険なダンジョンに連れていくことを意味するからだ。
ダンジョンが危険という事実は特別授業で散々教えられている。清水さんも彼女自身が危なくなることを頭の片隅には理解している筈だ。
彼女の危険を承知して、彼は彼女をパーティに誘っている。この時点で清水さんは彼女を幸せにしたいなんてとてもじゃないけど感じられない。
自分が好きだから一緒にいてほしいというただの我儘にしか見えない。偏見かもしれないけど。
自分も罵声を浴びてる男子達にモブ枠として加わりたいけど、モブでもコミュ障の枠だから、混ざる勇気なんてとてもじゃないけど出せない。しかし、同時に奇跡というものが発生している。今の自分なら谷口さんを救う手段を持っているのだ。
本当は目立ちたくないからやりたくないけど、仕方ない。彼女には食生活直してもらってるし、たまには動くか。
自分は席から立ちあがり、修羅場に向かって歩み出した。




