そんな自分に
「つーわけだな。ーーーこいつでゼロだ、しっかり狙えよ?」
「もちのろんさ!・・・疾く駆けろーーーウィンドバースト!」
フェルンの声とともに現れた突風が、ヤツを飲みこむ。相手は巨大な斧を構えて防御したが、そんな些細な行動は無意味だった。
突風は小さな体をやすやすと持ち上げ、体にいくつもの切り傷を残しながら吹き飛ばす。
「卑怯な真似を、するんですね・・・」
壁に激突したヤツは、喋るのが精いっぱいという様子だった。
「ーーーなんでまだ喋る元気があるんだよ。・・・てめぇ加減したな?」
フェルンを睨みつけると、彼女は『なんのことでしょう?』という様子で口笛を吹いた。
「仲間に対してタイマンだと、手を出すんじゃないと叫んでいたのも、大仰な攻撃や途切れない会話も、全部策略というわけですか。・・・自分にだけ意識を向けさせて、この不意打ちを決めるための」
「ご名答だ。だから言ったろ?視野が狭いってな」
「こんな勝ち方で、満足ですか?」
「あぁ?」
「シュトラさん。私はヴィルラド様からあなたのことを『プライドが高い』お人だと聞いていました。それが不意打ちなんて卑怯な真似で勝利を手にするような人だったなんて。相手が自分よりも強ければ、簡単にプライドを捨ててしまうような人だったとは・・・ははっ、お笑いですね」
「あのなぁ・・・」
言いかけたところで、フェルンが割って入ってくる。
「わかってないなー君も、ヴィルラドさんも。シュトラちゃんのコト全然わかってないよ。ちょっと解像度低いんじゃない?」
彼女は得意げに鼻を鳴らした。
「確かにシュトラちゃんはプライド高いよ?それに変な所にこだわるし、口調は荒いし、素直じゃないし、ツンデレだし、めんどくさい性格だし・・・」
フェルンの口から次々と悪口が出てくる。オレに喧嘩でも売っているつもりだろうか。
「でも、でもね」
そう続けたフェルンの瞳は、どこまでもまっすぐだった。こいつはその瞳で、いつも仲間たちを見ていたんだ。
「後ろに私がいる時に、そんな自分にこだわる人じゃないの」
オレのことも、ヴィルラドのことも、そしてクソ勇者のことも。みんなのことを誰よりも見ていたのはこいつだ。そして今、ヴィルラドと敵対することになって一番苦しんでいるのもこいつなんだ。
クソ勇者の仲間であり続けたくて、でも世界のことも知らんぷりなんてできないから、アオイに従って。そして今、剣を向けられてなお、本心ではヴィルラドの敵であることを拒んでいる。
「美談のように、語るんですね」
床に倒れたままの少女は、悔しそうに奥歯を噛みしめた。
「それでも貴方たちは『正義の味方』であり続けるべきでした。ーーーだってあなたたちは、勇者とその仲間なのだから」
この世界を呪うように、言葉を続ける。
「この世界には悲しいことが多すぎる。皆、勇者が世界を救ってくれるのを待っているんですよ。・・・そして私たちも、きっとその一人。・・・ねぇ応えてよ。貴方たちが勇者じゃないって言うのなら、誰が世界を救ってくれるの?誰がヴィルラド様を、救ってくれるって言うのよ!」
「それは・・・」
少女の言葉に、フェルンがたじろぐ。こいつは情がありすぎだ。
「『みんな』勇者を求めてる。救ってくれと、喚いてる。どいつもこいつも勇者って存在に縛られてんだよ。・・・もしかしたら、このオレでさえもな」
奴隷の女と話してから、ぐるぐると頭の中を周り続けていた思考だ。
「・・・『勇者』って言葉に、一番苦しんでたのは、あいつだったのかもしれねー」
・・・『小さな子供にとって、剣術を学ぶのは友達と遊ぶことより大事なことなの!?魔物を殺すのは、大好きな人に抱きしめられながら眠ることより心を育ててくれるっていうの!?・・・世界を救うのは、大切な人に名前を呼んでもらう事より幸せなことだって、そういうの・・・?』と、あいつはそう言っていた。
正直な話、考えたこともなかったよ、クソ勇者がどんな気持ちだったかなんて。
「向き合うべきなんだよ、オレたちはあいつと。素直な心ってやつで話すべきなんだ。そうすればよ、大切な人、ってのはちと夢見すぎかもしれねーが・・・友達くらいにはなれるかもしれねーだろ?」
バツが悪くなったので、誤魔化すように頭を掻く。少し喋りすぎてしまった。
「だからよ、もうやめだ。勇者だの正義だののつまんねー話は。・・・だいたいよ」
依然動けずにいる敵に近づいていく。・・・逆手に持ったナイフをしっかりと握りしめて。
「『それでも貴方たちは『正義の味方』であり続けるべきでした』・・・てめぇはさっきそう言ってたがよ、オレたちがやったのは美しい決闘なんかじゃなく、薄汚ねー殺し合いだぜ?」
正義か悪か。それは誰かが決めることだ。・・・そんなもの、立場や視方ひとつで簡単に変わってしまうものだから。
「正義だなんて誰が称える?悪だなんて誰が糾弾する?・・・死人に正義が語れるかよ」
ナイフを相手の首に当てたところで。
「わわっ!何やってるの!?」
慌てたフェルンに静止される。
「何って、敵を無力化するのは当然だろ?」
「それはそうだけど、なにも殺すまではしなくてもいいってコト!その子もうきっと動けないよ」
「・・・甘すぎだ。お前もあのクソ勇者に似てな」
罵倒のつもりだったが、勇者と似ていると言われたフェルンは少し嬉しそうだった。
「そんな勇者様だけが私たちのリーダーだった。そうでしょ?」
「ち」
舌打ちを一つ。そして武器を収める。
「情けのつもりですか。ヴィルラド様の前で生き恥をさらすくらいなら、殺された方がマシです」
「ばーか」
倒れている少女の頭を軽く小突く。
「せっかく殺さないでいてやるんだぜ?儲けたくらいに思っとけ。・・・さて、と」
視線をヴィルラドとクソ勇者の方に送る。
二人の戦闘は間違いなく。
クソ勇者が劣勢だ。
「フェルン、ギリギリだ。最後の最後まで加勢するんじゃねーぞ」
「えー、なんで!?一緒に戦うために、この子の戦いでは力を温存してたんじゃないの!?」
さすがにフェルンには気が付かれていたか。
「まぁ黙ってみてろ。・・ムカつくぜ、あのクソ勇者。さんざん仲間だなんだと歌っておいて、オレたちに内緒の隠し玉があるみてーだ」
少しづつ、少しづつ勇者が押されている。このままで数分後にどちらの方が倒れているかなんて火を見るよりも明らかだ。
・・・しかし。
睨みつけた勇者の瞳は、まだ希望に満ち満ちていた




