夢じゃなく
ダンジョン内に、剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。
ヴィルラドを相手取りながらチラリとフェルンたちの方を見ると、すでにあちらの戦闘は終わっていた。
ありがとう。そう心の中で唱える。二人は俺たちの戦いをある程度は見守るつもりのようだ。
「集中できていないな。私では勇者殿の相手は不足か?」
「そんなわけあるか!十分すぎて今も体が震えてんだよ!!!」
気迫だけはヴィルラドに負けないように、叫び声をあげる。
敵は強大だ。そしてその強大さは、隣で戦い続けていた俺が一番よく知っている。
才能があって、努力もしていて。そんな男に勝つには何をすればいい?何をすてればいい?
「ふっ!」
ヴィルラドが振り下ろした剣を、躱す。
躱す、躱す、躱す。
続く攻撃もかわし、或いは受け流す。
しばらくそんなやり取りを続けた後ヴィルラドの表情に、若干の困惑が浮かんだ。
それはそうだ。俺と相手の力量差を考えれば、先ほどからの攻撃はどれも必殺の速さと力を持っていた。
「不思議か?なんで当たらねーのかって、そう思っているんだろ?」
「フェルンとシュトラに負けてられないと奮起しているのか?それとも、後ろにいる奴隷を守るために、勇者の力が覚醒でもしたのか?」
ヴィルラドは嬉しそうに笑う。
強者と戦うことに愉悦でも感じているように。
「勇者としても力が覚醒?・・・夢見てんな、そんなわけないだろ。俺が見てたのは夢なんかじゃない。アンタだよ、ヴィルラド」
「なに?」
「お前が教えてくれたんだよ、ヴィルラド。お前の剣の動き、その全てを!」
ヴィルラドの剣が一瞬の隙を見せた。その瞬間、俺は反撃に出る。素早く、そして正確に。俺の剣がヴィルラドの剣を払いのけ、その勢いのまま彼の肩を掠めた。鮮血が飛び散る。
「ふっ、やるじゃないか勇者どの。私の動きはお見通しってわけだ」
「ずっと見てたからな。アンタの隣で、一緒に戦うために。どうすれば足を引っ張らないか、どうすればうまく連携が取れるかってな。・・・だけどお前が敵だって聞いてから、そのすべてがお前を倒すための作戦に昇華した」
本人でさえ知らない癖、間合いの取り方。そのすべてを俺は知っている。勇者じゃなくなってなお、俺はあいつらの隣で戦うための訓練を続けていたのだから。
「素晴らしい執念だな」
ヴィルラドは肩の傷を気にせず、再び攻撃の姿勢を取った。彼の目には依然として自信が宿っている。
・・・そしてその自信は、決して間違っていない。
ィルラドの剣は重く、速く、俺の体は疲弊していく。見えているのに、次の動きが分かっているのに、だんだんと体の反応が遅れていく。
「先ほどまでの威勢はどうしたんだ?」
「クソ・・・」
当然だ。知っている、わかっていることと、対応できるってことはイコールじゃない。
少しづつ、少しづつだ。反応の遅れが大きく、致命的になっていく。そしてついに。
ヴィルラドの剣が俺の脇腹を浅く斬った。痛みが走り、足元が揺らぐ。だが、歯を食いしばって立ち続ける。
「まだ、終わってねぇ・・・!」
必死に耐えるが、ヴィルラドの次の攻撃はさらに強烈だった。剣が俺の肩を深く斬り裂き、体が地面に叩きつけられた。
あぁやっぱりな。どれだけ焦がれても。どれだけ努力を重ねても。
俺じゃあいつに、届かなかった。
「嫌よ、そんな・・・」
視界の隅で、震えるアイリスの声が聞こえた。




